佛通寺の鐘は誰がために 第6話:千年の祈りの礎(終)
作者のかつをです。
第五章の最終話です。
一人の小僧の成長と彼が見つけた答え。
そしてそれがいかにして現代の私たちに繋がっているのか。
この物語のテーマである「過去と現代の繋がり」を、改めて感じていただけたら幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
佛通寺の最初の鐘の音が谷に響き渡った、あの日から。
さらに長い長い年月が流れた。
この寺は愚中周及の教えの下、西国随一の禅道場として栄え、多くの僧侶を育て人々を導いていった。
そしてあの名もなき小僧、一真もまた愚中周及の一番弟子として立派な僧侶となり、師の亡き後もこの寺を守り続けた。
時代は移り変わり、室町、戦国、江戸と世の支配者は目まぐるしく変わっていった。
戦乱の炎が幾度となく、この安芸の国を襲った。
だがこの佛通寺だけは誰のものでもなく、ただ静かにこの谷にあり続けた。
武将たちはこの寺を焼き払うのではなく、むしろ自らの心の平穏を求め寄進を続けた。
年老いた一真は住職となり、縁側で静かに庭を眺めながら時折あの最初の鐘の音を思い出していた。
あれはただの音ではなかった。
戦に疲れ傷ついた、名もなき人々の平和への祈りの始まりだったのだ、と。
そしてその祈りの礎の上に、今自分たちがいるのだ、と。
彼は新しく入ってきた若い小僧たちに、繰り返し語って聞かせた。
「鐘はな、誰がために鳴るものか、知っておるか」
それはかつて師から与えられた問い。
その問いを受け継ぎ語り継いでいくことこそが、自分の生涯をかけての役目なのだと信じていた。
◇
……現代。佛通寺。
燃えるような紅葉が、境内を鮮やかに彩っている。
多くの参拝者がその美しさに感嘆の声を上げながら、散策を楽しんでいた。
やがて境内に、ゴォォォォォンという深くそして優しい鐘の音が響き渡った。
人々は足を止め、その厳かな響きに静かに耳を傾ける。
この、当たり前のように聞こえてくる平和な鐘の音。
その始まりには、戦乱という暗闇の時代に、それでも一条の光を信じ未来のために祈りを捧げた、名もなき人々の無数の尊い想いが込められている。
そのことを思うと、谷間にこだまする鐘の響きが、いつもより少しだけ深く、そして温かく心に染み渡っていくように感じられた。
(第五章:佛通寺の鐘は誰がために 了)
第五章「佛通寺の鐘は誰がために」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
佛通寺の鐘の音は今も訪れる人々の心を癒し続けています。
この物語を読んで少しでも興味を持たれた方は、ぜひあの美しい渓谷を訪れてみてはいかがでしょうか。
さて、中世の祈りの物語から、次回は舞台を江戸時代へと移します。
多くの人々が行き交った、あの街道の賑わいがテーマです。
次回から、新章が始まります。
第七章:西国街道、涙の松原 ~大名の行列と旅籠の看板娘~
(※構成案の順番に合わせ、第六章は公開済みの「白いダイヤは潮の味」となります)
大名行列からお伊勢参りの庶民まで。
多くの出会いと別れを見つめてきた、一人の旅籠の娘の一代記です。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第六章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




