三原城築城、名もなき石工の唄 第3話:沈みゆく石
作者のかつをです。
第一章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。
今回は、職人たちの奮闘と、それさえも飲み込んでしまう自然の脅威を描きました。
人の力が及ばない圧倒的な現実。
物語は、最初の大きな壁にぶつかります。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
隆景の言葉に、現場の空気は確かに変わった。
「おれたちが、百年の礎を造るんだ」
そんな気概が、人夫たちの顔に浮かび始めた。
作業の速度は目に見えて上がった。
より大きな石をより効率よく運ぶため、彼らは知恵を出し合った。
巨大な筏を組み、てこの原理で石を動かす。
掛け声も、以前よりずっと大きくなった。
源蔵もまた、その熱気に浮かされるように一心不乱に槌を振るった。
親方から教わった、石の目を見極める技。
どの角度で力を加えれば石が最も安定するのか。
彼は、自分の持てる全ての技術をこの海の城に注ぎ込んだ。
しかし。
彼らの熱意とは裏腹に、現実はあまりにも非情だった。
海に投じられた石は、ゴボゴボという不気味な音を立てて海の底へと消えていく。
三原湾の海底は、彼らが思っていた以上に深く、そして柔らかい泥に覆われていたのだ。
いくら石を積んでもその重みで、下の石が泥に沈んでいくだけ。
目に見えるような「石垣」は、いつまで経っても海面に姿を現さなかった。
「くそっ! また沈んだぞ!」
「これじゃあキリがねえ! まるで底なし沼だ!」
焦りと苛立ち。
あれほど高かった士気は、日を追うごとにみるみるうちに萎んでいった。
人夫たちの間には、重苦しい沈黙が広がり始める。
源蔵の心も、冷たい水に浸されたように重く冷えていった。
自分の技術が、誇りが、この海の前では全くの無力。
殿様は「百年の礎」と言ったが、自分たちはただ海に石を捨てているだけなのではないか。
そんな絶望的な思いが、伝染病のように現場全体に広がっていった。
掛け声は、いつしか諦めの混じったため息へと変わっていた。
誰もが、この無謀な挑戦の「終わり」を予感し始めていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
実際の三原城築城も、干潟のような軟弱な地盤との戦いだったと言われています。
石をいくら積んでも沈んでしまうため、基礎工事は想像を絶する困難を極めたようです。
さて、絶望に打ちひしがれる職人たち。
そこに追い打ちをかけるように、さらなる試練が訪れます。
次回、「海の怒り」。
三原の海が、その牙を剥きます。
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