沼田荘の土、高山城の風 第6話:潮風への序章(終)
作者のかつをです。
第三章の最終話です。
鎌倉から戦国へ。
沼田の地で幾世代にもわたって紡がれてきた物語が、いかにして第一章「蛸が引いた石」の三原城築城へと繋がっていったのか。
壮大な歴史の流れを感じていただけたら幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
新高山城の時代から、さらに百数十年。
戦国の世は最終局面を迎え、日本は一人の天下人によって統一されようとしていた。
そして、この安芸国には中国地方一帯を支配する巨大な勢力が生まれていた。
毛利一族である。
かつて沼田の地侍に過ぎなかった小早川の一族も、今はその毛利家の重要な一翼を担っていた。
当主は、あの毛利元就の三男にして知将の誉れ高い、小早川隆景。
彼は父・元就の教えを守り、毛利家の西の海の守りを一手に引き受けていた。
その隆景がある日、家臣たちにこう告げた。
「……新しい城を、築く」
家臣たちは驚いた。
この新高山城は十分に堅固であり、港の機能も申し分ない。
なぜ今、新しい城が必要なのか。
隆景は静かに海を指さした。
「あの、海の、真ん中にだ」
誰もが耳を疑った。
「これからの戦は、海が全てを決する。瀬戸内の海上交通の喉元、あの三原の湾こそが毛利の未来を左右するのだ。そこに、日の本、いや世界のどこにもない、海そのものを城壁とする難攻不落の海の城を築く!」
その壮大な構想に、家臣たちはただ息を呑むばかりだった。
……一人の若き地侍が、高山の頂から沼田の土を守ろうと誓った、あの日。
……一人の若き当主が、一族の未来を懸け海へ出ることを決断した、あの日。
その名もなき者たちの、長い長い決断と苦悩の物語が、今一つになった。
土の記憶と風の囁き。
それら全てを内包して、物語はついに海へと至る。
それは、この三原の地にあの巨大な「浮城」が誕生する、壮大な序章の終わりであった。
◇
……現代。
ハイキングコースとして整備された高山城跡の頂。
そこに立つと、今も沼田の豊かな田園風景と、その向こうに広がる三原の市街地、そして穏やかな瀬戸内海を一望することができる。
ここを吹き抜ける風は、昔と何も変わらない。
もしあなたがその風の中に静かに耳を澄ませば。
聞こえてくるかもしれない。
土を愛し土地に根を張りながらも、変化を恐れず海へと、未来へとその一歩を踏み出していった、名もなき守り人たちの遠い遠い足音が。
(第三章:沼田荘の土、高山城の風 了)
第三章「沼田荘の土、高山城の風」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
高山城、そして新高山城。今は石垣などの遺構がひっそりと残るのみですが、そこから三原の町を眺めると、小早川一族がなぜ海を目指したのかが肌で感じられるような気がします。
さて、三原のルーツを辿った物語。
次回は舞台を再び戦国時代に戻し、この瀬戸内海で無敵を誇った、あの「海の武士団」の物語に光を当てます。
次回から、新章が始まります。
第四章:芸予の海を駆ける者 ~村上水軍と塩飽の船乗り~
日本最大の海賊衆・村上水軍。
その支配下で危険な海を航海した、名もなき船乗りの視点から海の民の知られざる掟と誇りを描きます。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第四章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




