沼田荘の土、高山城の風 第4話:一族の決断
作者のかつをです。
第三章の第4話をお届けします。
今回は小早川一族の歴史的な転換点を描きました。
旧来の価値観に固執する家臣たちと、新しい時代を見据える若き当主。
その対立と最終的な決断のドラマを感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
又四郎の言葉から数日後。
高山城の大広間には、小早川一族の主だった者たちが全て集められていた。
いつもは冗談口の一つも飛び交う評定の場が、今日に限っては水を打ったように静まり返っている。
誰もが固い表情で、上座に座る若き当主の言葉を待っていた。
やがて当主は、ゆっくりと、しかし凛とした声で口を開いた。
「皆、よう聞け。我ら沼田小早川は、これより本拠を海へと移す」
広間にどよめきが走った。
「殿! それは、まことでございますか!」
「この、先祖代々の沼田の地を捨てると仰せられるのか!」
長老格の譜代の家臣たちが、次々と反対の声を上げる。
彼らにとって沼田の土から離れることは、自らの拠り所を失うことに等しかった。
「捨てるのではない」
当主はその声を手で制し、静かに、しかし力強く続けた。
「守るためだ。この沼田の地を、そして我ら一族の未来を守り抜くために、我らは変わらねばならぬのだ」
彼は立ち上がると、皆の顔を一人一人見渡しながら語りかけた。
「いつまでも山の城に籠っていては、いずれ我らは時代の波に飲み込まれるであろう。富は、力は、今海にある。我らはその力を手に入れ、この沼田の地をより豊かに、そして盤石に守り抜くのだ。そのための新しい城を、海の近くに築く!」
その言葉には迷いはなかった。
一族の未来を一身に背負う当主としての、覚悟がみなぎっていた。
あれほど騒がしかった家臣たちもその気迫に押され、いつしか黙り込んでいた。
又四郎も末席でその様子を静かに見守っていた。
若き当主の姿が、かつて自分が仕えた先代の当主たちと重なって見えた。
小早川の血は決して安住を求めない。常に時代の先を見据え、変化を恐れず一族を導いてきた。
その血が今、この若き当主にも確かに受け継がれている。
「……殿のご決断に、お従いいたしまする」
一番の強硬派だった長老が、深々と頭を下げた。
それをきっかけに、他の者たちも次々と平伏していく。
小早川一族が、その歴史の大きな舵を切った瞬間だった。
又四郎はそっと広間を抜け出し、高山城の物見櫓へと登った。
眼下にはいつもと変わらぬ豊かな沼田荘の風景が広がっている。
そしてその遥か向こうには、陽光を浴びて銀色に輝く瀬戸内の海があった。
あの海が、これから自分たちの新しい故郷になる。
期待と、そして一抹の寂しさ。
又四郎は複雑な思いで、高山を吹き抜ける風に吹かれていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この小早川氏の海への進出という決断が、やがて毛利元就の三男・小早川隆景の代に、あの「三原城」の築城へと繋がっていくことになります。
歴史の大きな伏線ともいえる場面です。
さて、一族の決断により海の近くに新しい城が築かれます。
それは高山城とは全く違う、新しい時代の城でした。
次回、「新高山の夜明け」。
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