沼田荘の土、高山城の風 第2話:山の上の城
作者のかつをです。
第三章の第2話をお届けします。
今回は歴史的な大事件「元寇」が、この沼田荘にどう影響を与えたのかを描きました。
そしてその脅威に対抗するために、三原で最初の本格的な城とされる「高山城」が築かれます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
沼田荘の穏やかな日々に、ある日激震が走った。
「蒙古の大軍勢が……博多の浜に、攻め寄せた、と!」
鎌倉からの早馬がもたらした知らせに、小早川の館は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
異国からの大規模な襲来。それはこの国の歴史上、誰も経験したことのない未曽有の国難だった。
「ただちに出陣の準備をせい! 我らも、博多へ馳せ参じる!」
当主の厳しく、しかしどこか高揚した声が広間に響き渡る。
武士として生まれながらに、戦で功を立てることを夢見てきた者たちにとって、それは腕が鳴る事態でもあった。
又四郎もまた、血気にはやる若者の一人としてすぐさま自らの鎧や槍の手入れを始めた。
しかし、一族の長老たちは苦い顔で眉をひそめていた。
「主力が出払った後、この沼田荘はどう守るのだ」
「確かに。この豊かさを、いつ誰が狙ってくるとも限らん」
その懸念はすぐに現実のものとなった。
博多での戦が膠着状態に陥る中、国内の治安は目に見えて悪化していった。
幕府の力が西国まで及ばぬことを見透かした野盗や近隣の小豪族たちが、豊かな沼田荘を虎視眈々と狙い始めたのだ。
「……城を、築く」
長い評定の末、当主はそう決断した。
沼田荘を見下ろす最も高い山、高山。
その頂に難攻不落の山の城を築く、と。
又四郎もその普請に加わった。
武士も農民も身分の別なく、皆で木を切り石を運び土を固める。
それは博多の浜での華々しい戦とはほど遠い、地味で過酷な労働だった。
「なぜ、俺たちがこんな土方仕事を……」
不満を漏らす若い武士もいた。
だが又四郎は、黙々と汗を流した。
彼は気づいていたのだ。
この城はただの砦ではない。
自分たちの手で自分たちの故郷を、自分たちの力で守るのだという強い意志の象徴なのだ、と。
戦はなにも、遠い博多だけで起きているのではない。
この先祖代々の土地と、そこに暮らす人々を守り抜くこと。それこそが自分たち地侍に与えられた本当の戦なのだ、と。
やがて高山の頂には、簡素ながらも堅固な砦がその姿を現した。
城の物見櫓から初めて沼田荘を見下ろした時。
又四郎は、天を衝くような達成感に包まれた。
眼下には黄金色の稲穂が風に揺れている。
そしてその全てを、この城が、自分たちが守っている。
高山の頂を吹き抜ける風が、まるで褒美のように又四郎の汗を拭っていった。
それは彼が初めて、この土地の「守り人」としての自覚を手に入れた瞬間だった。
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高山城は標高190メートルほどの山頂に築かれた、典型的な中世の山城でした。
その主な目的は戦闘のためというよりは、有事の際に荘園の人々が逃げ込み立てこもるための「詰めの城」としての役割が大きかったと言われています。
さて、城を築き守りを固めた沼田荘。
しかし時代のうねりは、海の向こうからだけでなく国内からも彼らに襲いかかります。
次回、「海の誘い」。
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