表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第1部:礎の物語 ~城と人が町を創る~
16/127

沼田荘の土、高山城の風 第1話:豊かな荘園

作者のかつをです。

 

新しい構成案に基づき、本日より第三章「沼田荘の土、高山城の風」の連載を開始します。

 

物語の舞台は第一章よりもさらに遡り、鎌倉時代の「沼田荘」。

三原城が築かれる以前、この地を治めていた「沼田小早川氏」に仕えた名もなき地侍の視点から、三原のルーツを辿ります。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島県三原市。

その北部に広がる沼田ぬた地区は、沼田川がゆったりと流れる穏やかな田園地帯だ。

この肥沃な土地がかつて「沼田荘ぬたのしょう」と呼ばれ、鎌倉時代から続く有力な武士団・小早川氏の力の源泉であったことを知る人は今では少ない。

 

三原の歴史は、海に浮かぶ城から始まったわけではない。

その遥か以前、この豊かな土に根を張り、土地を守り抜いてきた者たちの長い長い物語があった。

 

これは、海の城が築かれる以前、山の上の城からこの土地を見守り続けた、名もなき地侍の物語である。

 

 

鎌倉の世も半ばを過ぎた文永年間。

 

沼田荘の一角、米泉こめいずみの里。

若き地侍、小早川又四郎こばやかわまたしろうは、愛馬の背に揺られながら黄金色に輝く稲穂の海を見渡していた。

実りの秋。今年も沼田川の恵みを受け、荘園は見事な豊作を迎えている。

 

「又四郎様! ご苦労様でございます!」

 

あぜ道で汗を拭う農夫が、深々と頭を下げた。

又四郎は馬上からにこやかに応える。

 

「うむ、精が出るな。今年の米も、見事な出来栄えだ。鎌倉の公方様もさぞお喜びになられよう」

 

彼の役目は、この広大な荘園を管理し、鎌倉の幕府へと納める年貢を滞りなく徴収すること。そして何より、この土地に暮らす人々の営みを外敵から守ることだった。

彼の家は代々、沼田荘を治める小早川の本家に仕える譜代の家臣である。

この土地で生まれ、この土地の米で育ち、いずれはこの土地の土に還る。それが彼の定めであり、誇りでもあった。

 

沼田荘は文字通り宝の地だった。

沼田川がもたらす豊かな水は稲作に最適であり、その米の味は都でも評判が高い。

また、背後にそびえる山々は良質な木材や、猪、鹿といった獲物の宝庫でもあった。

この豊かさこそが、小早川一族が安芸国において揺るぎない力を持つ所以なのだ。

 

又四郎は馬を止め、一握りの土を手に取った。

ひんやりと、そしてずしりと重い黒々とした土。

それは幾世代にもわたる先祖たちの汗と、この土地に生きた人々の想いが染み込んだかけがえのない土だった。

 

「この土を、守らねばならぬ」

 

彼は静かに心に誓った。

 

その頃。遠い海の向こう、大陸からこの国の平和を根底から揺るがす巨大な嵐が近づきつつあることを、まだ誰も知らなかった。

豊かな荘園の穏やかな日常。それが永遠に続くものではないことを、又四郎もまだ知る由もなかったのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第三章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

小早川氏の歴史は、この「沼田荘」から始まりました。

豊かな土地だったからこそ、それを守るための力が武士団として発展していったのです。

今回は、その力の源泉である荘園の風景を描きました。

 

さて、穏やかな荘園に、ある日不穏な知らせが届きます。

遠い海の向こうからの脅威。それは彼らの運命を大きく変えることになります。

 

次回、「山の上の城」。

 

ブックマークや評価で、応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ