城下町の誕生、一番祭りの熱気 第7話:この町が続く限り(終)
作者のかつをです。
第二章の最終話です。
名もなき二人の物語が、いかにして現代の私たちの祭りに繋がりその精神が受け継がれているのか。
この物語のテーマである「過去と現代の繋がり」を、改めて感じていただけたら幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
あの暁の誓いから、長い長い年月が流れた。
健太が言葉通り日本一の大工になったのか。
そしてお花を、生涯の伴侶として迎え入れることができたのか。
それは歴史のどこにも記録されていない、名もなき二人だけの物語だ。
もしかしたら、健太が建てた商家のどこかに、彼が彫った印が今もひっそりと残っているかもしれない。
しかし彼らが仲間たちと共に創りだした、あの祭りの熱気だけは確かにこの町に、そして人々の心に深く強く受け継がれていった。
「やっさ、やっさ!」
その掛け声はいつしか、三原の町になくてはならない魂の響きになった。
江戸の泰平の世も、明治の文明開化の波も、戦争の悲しみに暮れた日も、そして復興に汗を流した時代も。
人々はこの祭りの日だけは、日頃の苦しみも立場も全てを忘れ、心を一つにして踊り続けた。
身分も貧富も、肩書きも関係ない。
ただ、この町に生まれこの町に生きる者として、共に喜びを分かち合う。
あの最初の祭りで、健太やお花たちが全身で感じた「町が一つになる喜び」は、時代を超え、幾多の困難を乗り越えるための人々の心の拠り所として灯り続けたのだ。
◇
……現代。三原やっさ祭り。
夜空を焦がすほどの照明の下、数千人が織りなす踊りの輪は巨大な生き物のようにうねり続けている。
その輪の中心で揃いの法被を着た若者が声を張り上げて仲間たちを先導している。
その隣で、色鮮やかな浴衣姿の娘が最高の笑顔で彼に合わせて踊っている。
彼らは四百年前にこの同じ場所で未来を誓い合った、名もなき大工見習いと商家の娘がいたことなど知る由もない。
しかし、この当たり前のように広がる風景。
その始まりには、新しい町の誕生を全身全霊で喜び、身分という見えない壁を乗り越えて未来を誓い合った、名もなき若者たちのまぶしいほどの青春が眠っている。
そのことを思うと、腹の底に響く太鼓の音と「やっさ、やっさ」という掛け声が、いつもより少しだけ温かく、そしてどうしようもなく愛おしく聞こえてくるのだった。
(第二章:やっさ、やっさ! ~城下町の誕生、一番祭りの熱気~ 了)
第二章「やっさ、やっさ!」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
三原やっさ祭りは今も多くの市民に愛され、毎年八月に行われています。
この物語を読んで少しでも興味を持たれた方は、ぜひあの熱狂の渦に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
さて、城が完成し人々が一つになった城下町の物語を描きました。
しかし、三原の歴史は海の城から始まったわけではありません。
次回は時代をさらに遡り、三原の、そして小早川一族のルーツとなった土地の物語に光を当てます。
次回から、新章が始まります。
第三章:沼田荘の土、高山城の風
なぜ小早川氏は、海の城を築くに至ったのか。
その原点である豊かな荘園と山の上の城を舞台に、土地と共に生きた名もなき地侍の視点から、三原のもう一つの始まりの物語を描きます。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
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それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




