城下町の誕生、一番祭りの熱気 第6話:暁の誓い
作者のかつをです。
第二章の第6話をお届けします。
熱狂の祭りの後、静かな朝焼けの中で二人が交わす未来への約束。
物語のしっとりとした感動的な場面を、会話や情景描写を増やして描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
どれくらいの間、我を忘れて踊り続けたのだろうか。
東の空が藍色から少しずつ白み始め、三日三晩続いた祭りの終わりを告げている。
あれほど天を衝くようだった熱狂も、今は満足げな心地よい疲労感に変わっていた。
人々は櫓の周りに座り込み、あるいは家路につきながらも、まだ夢の続きを惜しむかのように穏やかな笑顔を交わしている。
健太とお花は二人、そっと輪を抜け出し、町の外れにある海を見下ろす小高い丘の上にいた。
夜明け前の誰もいない静寂が二人を包んでいる。
眼下にはまだ提灯の灯りが残る生まれたばかりの城下町の姿と、朝もやの中に巨大な影となって静かにたたずむ三原城の天主台が見える。
「……すごかったな。まるで夢の中にいたみてえだ」
健太がまだ熱の冷めやらぬ声で、ぽつりと呟いた。
「はい。本当に夢のようでした。あんなに心が躍ったのは、生まれて初めてでございます」
お花が恥ずかしそうに、しかしはっきりと答える。
その頬は踊りのせいか、それとも隣にいる健太のせいか、ほんのりと赤く染まっていた。
しばらく心地よい沈黙が続いた。祭りの喧騒が嘘のように静かだ。
聞こえるのは夜明けを告げる鳥の声と、足元の崖下から寄せては返す優しい潮騒だけ。
やがて健太が何かを決心したように、ゆっくりと口を開いた。
「お花さん。俺はただの大工見習いだ。お前さんのような大店の娘さんとは身分が違う。それは痛いほどわかってる。親父さんが怒るのも当たり前だ」
健太は、お花の瞳をまっすぐに真剣な眼差しで見つめた。
「でもな、俺はこの町が死ぬほど好きなんだ。この町を俺たちの手で日本一の町にしてえ。だから俺は日本一の大工になる。いつか必ず、お城を手がけた棟梁よりも立派な仕事をして、お前さんのために誰にも文句を言わせねえような立派な家を建てる。だから、それまで……どうか待っていてはくれねえか」
それは若者の、あまりにも青臭く壮大な夢物語だったかもしれない。
だが、その瞳には一点の曇りもなかった。
お花は黙って、こくりと頷いた。
その大きな瞳には朝露のような一筋の涙が光っていた。それは決して悲しみの涙ではない。
彼女は懐から一枚の小さな紅絹を取り出すと、そっと健太の手に握らせた。
「……これは私が祭りのために縫ったものです。いつか健太さんが立派な棟梁になった時、その祝いの席で締めてくださいまし」
朝日が瀬戸内の海から昇り始め、二人を、そして新しい町を優しく黄金色に照らし始めた。
身分の壁は明日になれば、また元通りにそこにあるだろう。厳しい現実が、これからも二人を待っているはずだ。
だが二人には、この祭りの熱狂の記憶と暁の空に交わしたささやかな誓いがあった。
それさえあればきっと、どんなことでも乗り越えていける。
二人は昇る朝日を見つめながら、そう強く信じていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
祭りの「非日常」が終わった後、二人はまた「日常」へと戻っていきます。
しかし祭りを経験し未来を誓い合った彼らは、もう以前の彼らではありません。
ささやかな、しかし何よりも力強い希望が二人の心に芽生えたのです。
さて、彼らの恋の行方は。そしてこの祭りは、この町に何を遺していくのでしょうか。
いよいよ第二章、感動の最終話です。
次回、「この町が続く限り(終)」。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




