城下町の誕生、一番祭りの熱気 第5話:踊りの輪
作者のかつをです。
第二章の第5話、物語のクライマックスです。
ついに始まった最初の祭り。
その熱狂と主人公たちの想いが交差する瞬間を、ページ数を増やし躍動感をもって描きました。
お花の小さな、しかし偉大な一歩にご注目ください。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
そして祭りの日がやってきた。
町は朝からむせ返るような熱気に満ちていた。家々の軒先には祝いの提灯が飾られ、子供たちは新品の着物を着せてもらって通りを駆け回っている。
夜になり家々の提灯と、広場に組まれた櫓の篝火に灯がともる頃。
法被や浴衣姿の人々が、どこからともなく広場へと続々と集まってきた。
健太たち若者衆は、揃いの法被の背中に自分たちの仕事にちなんだ印を染め抜いている。そして、その腰には色とりどりの手ぬぐいが粋に結ばれていた。
お花が、「皆が違うものを身に着けるより、何か一つ同じものを揃えた方が仲間だと一目でわかるし、華やかに見えますよ」と、奉公人の娘を通じてこっそり教えてくれたものだった。
そのおかげで、彼らは見違えるように精悍で華やかな一団に見えた。
やがて櫓の上から、腹の底にズシンと響き渡るような太鼓の音が鳴り響いた。
祭りが始まったのだ。
「やっさ、やっさ!」
健太の若さと喜びに満ちあふれた雄叫びを合図に、踊りの輪がゆっくりと、しかし力強く動き出す。
侍も商人も、職人も農民も。
大人も子供も、男も女も。
今はただの「町の人」だった。ここには身分も肩書きも、財産の有無も関係ない。
誰もがただただ満面の笑顔で、汗だくになりながら一心不乱に踊っている。日頃の鬱憤も苦労も悲しみも、全てを汗と共に大地に叩きつけるかのように。
お花は店の前の人垣の後ろから、その熱狂の光景を眩しそうに見つめていた。
すぐ隣には腕を組み、苦虫を噛み潰したような顔をした父親が立っている。その監視の目がある限り、輪に加わることは許されない。
しかし、巨大なうねりとなった踊りの輪がだんだんと彼女の方へと近づいてくる。
輪の中心で汗を輝かせながら踊る健太が、こちらを見ている。
その瞳が他の誰でもない、お花、お前を呼んでいるのだと強く訴えかけていた。
『来いよ!』
声は喧騒にかき消されて聞こえない。
だが、そう言っているのがはっきりとわかった。
お花の足が、まるで自分の意志ではないかのように自然と一歩前に出た。
父親の咎めるような鋭い視線が背中に突き刺さる。
だが、もうどうでもよかった。
今この瞬間を、この熱狂を逃してしまったらきっと一生後悔する。
彼女は人垣を抜け、まるで光に吸い込まれる蝶のように踊りの輪の中へと駆けだした。
健太が驚いたように一瞬目を見開く。
そしてすぐに、全てを理解したように破顔一笑した。
お花は見よう見まねで懸命に手足を動かす。
恥ずかしさもためらいも、町の巨大な熱気が全て溶かしていく。
健太と、そしてこの町の人々と自分が確かに一つになっている。
その途方もない喜びと解放感が、彼女の全身を駆け巡っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
三原やっさ祭りの大きな特徴は、老若男女誰でも飛び入りで踊りの輪に参加できることです。
その「無礼講」の精神はきっと、この物語で描かれたような最初の祭りの熱狂から、ずっと変わらずに受け継がれているのでしょうね。
さて、ついに想いを遂げた二人。
熱狂の夜が明けた時、彼らは何を語り合うのでしょうか。
次回、「暁の誓い」。
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