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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第4部:悠久の物語 ~土地に眠る伝説と信仰~
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御調八幡宮、石の仏様が見た千年 第3話:商人の願い

作者のかつをです。

第二十章の第3話をお届けします。

 

平和な時代の、人々の欲望と、その裏にある責任感。

石の仏様は、表面的な願いだけでなく、その人の本心をも見通しています。

商人の町として栄えた三原らしいエピソードです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

戦乱が去り、世は泰平の江戸時代となった。

人々の願いも、「生きるか死ぬか」から、「いかに豊かに暮らすか」へと変わっていった。

 

この頃になると、我輩の噂は遠くまで広がり、三原の城下町からも多くの商人が訪れるようになった。

 

ある日、恰幅の良い商人がやってきた。

身なりは豪華だが、その目はギラギラと欲望に燃えていた。

 

「仏様。どうか、今度の取引がうまくいきますように。……もし願いが叶えば、この社殿を金で塗り替えて差し上げますぞ」

 

男は我輩を撫で回しながら、そんな大それたことを言った。

その掌は汗ばんでおり、金への執着がべっとりと張り付いているようだった。

 

(……やれやれ、また金か)

 

我輩はうんざりした。

人間というのは、満たされれば満たされるほど、さらに多くを欲しがる生き物らしい。

 

だが、男はふと手を止め、誰にも聞こえないような小声で呟いた。

 

「……頼みます。この取引が失敗すれば、店は潰れ、奉公人たちを路頭に迷わせてしまう。……あいつらには、家族がいるんです」

 

その瞬間、男の掌から伝わってくる「気」が変わった。

先ほどまでのギラギラした欲望の奥に、守るべきものへの深い愛情と、責任感が隠されていたのだ。

 

強欲に見える商人もまた、背負うものの重さに震えている、一人の弱い人間だった。

 

我輩は、少しだけ彼の掌に力を返してやった。

 

(……わかった。その性根に免じて、少しだけ運を分けてやろう)

 

後日、その商人は再びやってきた。

取引は成功したらしい。

だが、彼は社殿を金で塗ることはしなかった。

代わりに、新しい手水鉢ちょうずばちを寄進し、奉公人たち全員を連れて、感謝の祈りを捧げに来た。

 

「みんな、この仏様のおかげだ。しっかり拝んでおけよ」

 

奉公人たちが、笑顔で我輩を撫でていく。

 

「旦那様、よかったですね」

「これからも、しっかり働きますよ」

 

その温かい手、手、手。

 

我輩は、くすぐったいような、温かい気持ちに包まれた。

金そのものに、価値はない。

だが、金が人々の笑顔を守る道具になるのなら、それもまた悪くはない。

 

第六章の塩田の親父も、第九章のだるま職人も。

皆、金のためではなく、その先にある誰かの幸せのために働いていたのだ。

 

人間の「欲」というものは、時として美しく、そして力強いものだと、我輩はこの時学んだのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

「幸運仏」のご利益は、一説には商売繁盛にもあると言われています。

多くの人々が成功を夢見てこの石を撫でていったのでしょう。

 

さて、大人の複雑な願いを聞き続けてきた仏様。

しかし、彼が最も好んだのは、もっと純粋な訪問者たちでした。

 

次回、「子供たちの笑顔」。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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