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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第4部:悠久の物語 ~土地に眠る伝説と信仰~
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御調八幡宮、石の仏様が見た千年 第1話:石の記憶

作者のかつをです。

 

ついに、最終章となる第二十章「幸運仏のささやき ~御調八幡宮、石の仏様が見た千年~」の連載を開始します。

 

舞台は、三原市八幡町にある古刹・御調八幡宮。

そこに実在する「幸運仏」を語り部に、千年の歴史の中で、人々が何を願い、何を幸せと感じてきたのかを見つめる、オムニバス形式の総決算です。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島県三原市八幡町。

静かな山あいに、この地方で最も古い歴史を持つ神社の一つ、「御調みつき八幡宮」が鎮座している。

春には桜、秋には紅葉が境内を彩るこの古社の一角に、二つの大きな自然石が、仲良く寄り添うように置かれている。

 

幸運仏こううんぶつ」。

 

いつの頃からか、そう呼ばれるようになったこの石は、撫でると願いが叶う、幸せになれるとして、多くの人々に親しまれてきた。

 

これは、ただの石ころだった彼らが、千年の時を超えて数えきれないほどの人々のてのひらに触れ、その願いと涙を受け止め続けてきた、長くて温かい記憶の物語である。

 

 

我輩は、石である。

名前は、まだない……いや、今は「幸運仏」などという、たいそうな名前で呼ばれている。

だが、元を正せば、この御調の山から転がり落ちてきた、ただの二つの岩塊に過ぎなかった。

 

いつ、ここに来たのか。

それはもう、気の遠くなるような昔のことだ。

 

この神社が建てられたのが、奈良の都の時代だというから、それよりずっと前から、我輩たちはここにいたのかもしれない。

最初は、ただの庭石だった。

参拝に来る人々が、疲れた足を休めるために腰掛けたり、子供たちが背中に乗って遊んだりする、そんな存在だった。

 

ある時、一人の老婆が、我輩たちの前に座り込んだ。

老婆は、隣り合って並ぶ我輩と、もう一つの石をじっと見つめ、皺だらけの手で、そっと撫でた。

 

「……お前さんたちは、ええなあ。雨の日も、風の日も、こうして二人で寄り添って。……まるで、仲の良い夫婦じゃ」

 

老婆は、そう呟くと、懐から取り出した握り飯を供え、手を合わせた。

 

「じいさんが、あの世でも寂しくないように。……そして、わしもいつかそっちへ行くまで、達者でいられるように」

 

それが、始まりだった。

 

老婆の祈りが通じたのか、それとも単なる偶然か。

彼女はその後も長く生き、安らかに大往生を遂げたという噂が広まった。

 

「あの石には、不思議な力がある」

「夫婦のように並んだ石を拝めば、家庭が円満になる」

 

いつしか、人々は我輩たちを「仏様」として扱い始めた。

注連縄しめなわが張られ、賽銭が置かれるようになった。

 

我輩は、驚いた。

ただそこに在るだけの石に、人間たちは、勝手に意味を見出し、勝手に願いを託してくる。

なんと、弱く、そして愛おしい生き物なのだろう。

 

我輩は、言葉を持たない。

だが、人々が触れるその掌の温もりから、彼らの心の内が、痛いほど伝わってくるようになった。

 

喜び、悲しみ、怒り、そして切なる願い。

 

我輩は、覚悟を決めた。

ならば、聞こう。

千年でも、万年でも。

この身が風化して砂になるまで、お前たちの「願い」を聞き届ける、石の仏となってやろうではないか。

 

こうして、我輩の、長い長い「聞き役」としての生活が始まったのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二十章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

御調八幡宮は、769年に和気清麻呂によって創建されたと伝わる、県内屈指の古社です。

その境内にある幸運仏は、大小二つの自然石で、近年パワースポットとしても注目されています。

 

さて、仏様となった石。

最初に彼に深刻な願いを持ち込んだのは、ある時代の武士でした。

 

次回、「武士の祈り」。

 

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