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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第4部:悠久の物語 ~土地に眠る伝説と信仰~
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大島神社の泣き女 第6話:今も聞こえる泣き声(終)

作者のかつをです。

第十八章の最終話です。

 

伝説がどのように現代に伝わり、そして人々の心の中でどのように変化していくのか。

「泣き声」を、守り神の警告や、二人の笑い声として解釈し直すことで、物語に救いを持たせました。

この物語のテーマである「過去と現代の繋がり」を、改めて感じていただけたら幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

それから、長い年月が流れた。

大島の村は、その後、大きな災害に見舞われることもなく、平穏な時を刻んできた。

 

しかし、不思議な噂が、いつしか島の人々の間で囁かれるようになった。

 

嵐の夜になると、あの大島神社の裏手の海岸から、女の泣き声が聞こえてくる、と。

 

「ヒック、ヒック……」

 

それは、風の音のようでもあり、波の音のようでもあったが、確かに、悲しみに暮れる女のすすり泣きに聞こえるという。

 

ある人は言う。

あれは、生贄にされたサヨの無念の霊が、今も泣いているのだ、と。

 

また、ある人は言う。

いや、あれはサヨが、海に沈んだ太一を想って泣いているのだ、と。

 

そして、もう一つの説がある。

あれは悲しみの涙ではない。

嵐の夜、海が荒れると、サヨの霊が現れて、漁師たちに「海に出てはいけない」と警告してくれているのだ、と。

彼女は「泣き女」となって、今も島の人々を、海の脅威から守ってくれているのだ、と。

 

 

時代は移り、大島は「佐木島」と名を変え、三原市の一部となった。

島には橋は架からず、今も船で行き来する静かな島だ。

 

大島神社は、今も島の鎮守として大切に祀られている。

その境内の片隅には、サヨと太一を祀ったとされる、夫婦岩のような二つの石が、仲良く並んで置かれている。

 

 

……現代。佐木島。

 

トライアスロン大会の会場として賑わうこの島に、一人の観光客の女性が訪れた。

彼女は、島の歴史に興味を持ち、大島神社へと足を運んだ。

 

静かな境内。木々のざわめき。

裏手の海岸に降りると、穏やかな波が打ち寄せている。

 

彼女は、海に向かって手を合わせた。

 

「……サヨさん、太一さん。あなたたちの愛が、この島を守ってくれたんですね」

 

ふと、風が吹いた。

その風の中に、かすかに、本当に微かにだが、泣き声ではなく、鈴を転がすような、若い男女の笑い声が聞こえたような気がした。

 

もしかしたら、二人はもう、泣いてはいないのかもしれない。

平和になったこの島を、海の中から笑顔で見守っているのかもしれない。

 

観光客の女性は、温かい気持ちになって、島を後にした。

 

佐木島の海は、今日も青く、美しく輝いている。

その深淵に、悲しくも美しい愛の物語を秘めたまま。

 

(第十八章:大島神社の泣き女 了)

第十八章「大島神社の泣き女」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

佐木島は、三原港からフェリーですぐの場所にありながら、どこか懐かしい時間が流れる美しい島です。

大島神社を訪れる際は、ぜひこの物語を思い出して、海に思いを馳せてみてください。

 

さて、海にまつわる悲恋の物語から、次回は山に伝わる不思議な妖怪の物語へと移ります。

三原の北部にそびえる山で、神隠しの伝説を追います。

 

次回から、新章が始まります。

第十九章:和久羅山の天狗様

 

山を荒らす人間を戒め、時には助ける気まぐれな天狗。

純真な子供との交流を描く、ちょっと不思議で心温まる幻想奇譚です。

 

引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマークや評価で応援していただけると、第十九章の執筆も頑張れます!

 

それでは、また新たな物語でお会いしましょう。

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