大島神社の泣き女 第5話:海に消えた恋人
作者のかつをです。
第十八章の第5話、物語のクライマックスです。
二人の恋人が海に消え、嵐が鎮まるという、悲しくも神秘的な結末を描きました。
彼らの死は、単なる悲劇ではなく、村を救うための「人柱」としての側面も持っています。
その重さを感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
巨大な水柱と共に、海面から黒い影のようなものが鎌首をもたげたように見えた。
それは、怒り狂う波の形か、それとも龍神の姿か。
「来るぞ!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、山のような大波が、崖の上まで押し寄せてきた。
「危ない!」
太一は、とっさにサヨを抱きかかえ、波から守ろうとした。
だが、自然の猛威は、人間の力など軽く凌駕していた。
二人の身体は、波の衝撃で宙に浮き、そのまま海へと放り出された。
「太一さん!」
「サヨ!」
二人は、空中で互いの手を必死に伸ばした。
指先が触れ合い、そして、固く握りしめられた。
そのまま、二人は抱き合うようにして、暗黒の海へと落ちていった。
村人たちは、悲鳴を上げてその光景を見ていた。
ザッバーン!
二人が波間に消えた瞬間、再び大きな雷鳴が轟き、世界が白く染まった。
そして……奇妙なことが起こった。
二人が飲み込まれたその場所から、不思議な光が海中に広がっていったのだ。
それと同時に、あれほど荒れ狂っていた風が、ふっと弱まり始めた。
波のうねりも、徐々に小さくなっていく。
まるで、海神が二人の命を受け取り、その怒りを鎮めたかのように。
「……嵐が、止んでいく」
神主が、呆然と呟いた。
村人たちは、崖の上から海を見つめ続けた。
二人が浮かんでくるのを、祈るように待った。
だが、海面には、白い泡が漂うだけで、二人の姿はどこにもなかった。
サヨと太一は、二度と帰ってこなかった。
翌朝、海は嘘のように穏やかになっていた。
真っ青な空と、きらめく水面。
昨夜の地獄が夢だったかのような、美しい朝だった。
村は救われたのだ。
二人の、尊い犠牲によって。
浜辺には、サヨの簪と、太一の使っていた手ぬぐいが、寄り添うように打ち上げられていたという。
村人たちは、二人の死を深く悼んだ。
そして、自分たちの身勝手さを悔やみ、二人の魂を慰めるために、崖の上に小さな祠を建てた。
それが、二人が最期を迎えた場所であり、そして、二人が永遠に結ばれた場所となった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「二人で海に消える」という結末は、悲恋の物語の定番ですが、そこには「死後、永遠に結ばれる」という救いの意味も込められています。
サヨと太一も、きっと海の底の竜宮城で、仲睦まじく暮らしているのかもしれません。
さて、物語は現代へと続きます。
この悲劇は、どのように語り継がれているのでしょうか。
いよいよ第十八章、感動の最終話です。
次回、「今も聞こえる泣き声(終)」。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




