大島神社の泣き女 第3話:許されぬ恋
作者のかつをです。
第十八章の第3話をお届けします。
愛する人と逃げるか、それとも村のために犠牲になるか。
究極の選択を迫られたサヨの葛藤と、彼女を救おうとする太一の情熱を描きました。
許されぬ恋の行方は、いよいよクライマックスへと向かいます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
潔斎の館に幽閉されたサヨ。
彼女は、白い着物に着替えさせられ、一人、祭壇の前で座っていた。
外では、嵐がまだ荒れ狂っている。
風の音が、まるで地獄の鬼の叫び声のように聞こえた。
(私は、死ぬのね……)
恐怖で、身体の震えが止まらない。
太一さんと一緒に、幸せになるはずだった未来。
それが、こんな理不尽な形で奪われるなんて。
夜更け。
見張りの男たちが、疲れからか居眠りを始めた頃。
館の裏手の板壁が、静かに外された。
「……サヨ」
聞き覚えのある声。
サヨが驚いて振り向くと、そこには、ずぶ濡れになった太一が立っていた。
「太一さん! どうして……」
「しっ。……助けに来たんだ。逃げるぞ、サヨ」
太一は、サヨの手を強く引いた。
「逃げるって、どこへ?」
「島を出るんだ。俺の船がある。この嵐の中だが、二人で漕げば、なんとかなるかもしれん。本土へ渡って、誰も知らない場所で暮らそう」
それは、あまりにも無謀で、そして甘美な誘いだった。
二人で生きる。
それだけが、サヨの望みだったのだから。
しかし、サヨの足は動かなかった。
「……だめよ、太一さん」
「なんでだ! 死にたいのか!」
「死にたくなんてない! ……でも、私が逃げたら、海神様の怒りはもっとひどくなって、村のみんなが……」
サヨの脳裏に、年老いた両親の顔が浮かんだ。
優しかった隣のおばさんの顔、元気に走り回る子供たちの顔。
自分が逃げれば、彼らは全員、この嵐に飲み込まれてしまうかもしれない。
「村のことなんか、どうでもいい! 俺には、お前がいればいいんだ!」
太一は、必死にサヨを抱きしめた。
その腕の力強さ、温かさ。
サヨの心は激しく揺れた。
このまま、この腕の中にいられたら、どんなに幸せだろう。
でも、自分たちの幸せのために、多くの人々を犠牲にすることは、彼女にはできなかった。
「……太一さん。ありがとう。来てくれて、本当に嬉しかった」
サヨは、涙を流しながら、そっと太一の腕をほどいた。
「でも、私は行けない。……私、村のみんなを守りたいの」
「サヨ……」
「お願い、わかって。……それに、もし逃げても、私たちは一生、村を捨てた罪悪感を背負って生きていかなきゃならない。そんなの、幸せじゃないわ」
サヨの瞳は、悲しいほどに澄んでいた。
太一は、言葉を失った。
彼女の決意が、あまりにも固く、そして気高いものだと知ってしまったからだ。
その時、見張りの男たちの目が覚める気配がした。
「……行って、太一さん。見つかったら、あなたまで殺されてしまう」
太一は、拳を握りしめ、血が出るほど唇を噛んだ。
「……死なせない。絶対に、お前を死なせたりしないぞ」
そう言い残し、太一は闇の中へと消えていった。
再び、一人になったサヨは、床に泣き伏した。
愛する人を拒絶し、死を選ぶことの、身を引き裂かれるような痛み。
彼女の涙は、いつまでも止まることはなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
自己犠牲の精神は、物語の中では美しく描かれますが、当事者にとってはあまりにも過酷な現実です。
サヨの強さは、優しさの裏返しなのかもしれません。
さて、儀式の時は刻一刻と迫ります。
太一は、本当に諦めたのでしょうか。
次回、「龍神への祈り」。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!




