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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第4部:悠久の物語 ~土地に眠る伝説と信仰~
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大島神社の泣き女 第3話:許されぬ恋

作者のかつをです。

第十八章の第3話をお届けします。

 

愛する人と逃げるか、それとも村のために犠牲になるか。

究極の選択を迫られたサヨの葛藤と、彼女を救おうとする太一の情熱を描きました。

許されぬ恋の行方は、いよいよクライマックスへと向かいます。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

潔斎の館に幽閉されたサヨ。

彼女は、白い着物に着替えさせられ、一人、祭壇の前で座っていた。

 

外では、嵐がまだ荒れ狂っている。

風の音が、まるで地獄の鬼の叫び声のように聞こえた。

 

(私は、死ぬのね……)

 

恐怖で、身体の震えが止まらない。

太一さんと一緒に、幸せになるはずだった未来。

それが、こんな理不尽な形で奪われるなんて。

 

夜更け。

見張りの男たちが、疲れからか居眠りを始めた頃。

館の裏手の板壁が、静かに外された。

 

「……サヨ」

 

聞き覚えのある声。

サヨが驚いて振り向くと、そこには、ずぶ濡れになった太一が立っていた。

 

「太一さん! どうして……」

 

「しっ。……助けに来たんだ。逃げるぞ、サヨ」

 

太一は、サヨの手を強く引いた。

 

「逃げるって、どこへ?」

 

「島を出るんだ。俺の船がある。この嵐の中だが、二人で漕げば、なんとかなるかもしれん。本土へ渡って、誰も知らない場所で暮らそう」

 

それは、あまりにも無謀で、そして甘美な誘いだった。

二人で生きる。

それだけが、サヨの望みだったのだから。

 

しかし、サヨの足は動かなかった。

 

「……だめよ、太一さん」

 

「なんでだ! 死にたいのか!」

 

「死にたくなんてない! ……でも、私が逃げたら、海神様の怒りはもっとひどくなって、村のみんなが……」

 

サヨの脳裏に、年老いた両親の顔が浮かんだ。

優しかった隣のおばさんの顔、元気に走り回る子供たちの顔。

自分が逃げれば、彼らは全員、この嵐に飲み込まれてしまうかもしれない。

 

「村のことなんか、どうでもいい! 俺には、お前がいればいいんだ!」

 

太一は、必死にサヨを抱きしめた。

その腕の力強さ、温かさ。

サヨの心は激しく揺れた。

 

このまま、この腕の中にいられたら、どんなに幸せだろう。

でも、自分たちの幸せのために、多くの人々を犠牲にすることは、彼女にはできなかった。

 

「……太一さん。ありがとう。来てくれて、本当に嬉しかった」

 

サヨは、涙を流しながら、そっと太一の腕をほどいた。

 

「でも、私は行けない。……私、村のみんなを守りたいの」

 

「サヨ……」

 

「お願い、わかって。……それに、もし逃げても、私たちは一生、村を捨てた罪悪感を背負って生きていかなきゃならない。そんなの、幸せじゃないわ」

 

サヨの瞳は、悲しいほどに澄んでいた。

太一は、言葉を失った。

彼女の決意が、あまりにも固く、そして気高いものだと知ってしまったからだ。

 

その時、見張りの男たちの目が覚める気配がした。

 

「……行って、太一さん。見つかったら、あなたまで殺されてしまう」

 

太一は、拳を握りしめ、血が出るほど唇を噛んだ。

 

「……死なせない。絶対に、お前を死なせたりしないぞ」

 

そう言い残し、太一は闇の中へと消えていった。

 

再び、一人になったサヨは、床に泣き伏した。

愛する人を拒絶し、死を選ぶことの、身を引き裂かれるような痛み。

彼女の涙は、いつまでも止まることはなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

自己犠牲の精神は、物語の中では美しく描かれますが、当事者にとってはあまりにも過酷な現実です。

サヨの強さは、優しさの裏返しなのかもしれません。

 

さて、儀式の時は刻一刻と迫ります。

太一は、本当に諦めたのでしょうか。

 

次回、「龍神への祈り」。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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