大島神社の泣き女 第2話:生贄の娘
作者のかつをです。
第十八章の第2話をお届けします。
今回は、理不尽な「神託」によって、主人公サヨが生贄に選ばれてしまう、絶望的な展開を描きました。
集団の生存のために、個人の命が犠牲にされる。
古い因習の恐ろしさと、それに抗おうとする恋人たちの姿です。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
嵐は、三日三晩続いた。
雨は槍のように降り注ぎ、風は家々の屋根を吹き飛ばさんばかりに吹き荒れた。
高波が防波堤を越え、浜辺に繋いであった漁船の幾つかが、沖へと流されてしまった。
「このままでは、村が全滅してしまう……」
村人たちは恐怖に震え、大島神社の社殿に集まって祈り続けた。
だが、嵐は収まるどころか、ますますその勢いを増していくばかりだった。
四日目の朝。
神主が、青ざめた顔で神前から出てきた。
その手には、神託が下されたことを示す、白い幣が握られていた。
「……神のお告げが、あった」
神主の声は、嵐の音にかき消されそうになりながらも、村人たちの耳に、氷の刃のように突き刺さった。
「海神様は、激しくお怒りじゃ。この怒りを鎮めるには、村一番の美しい娘を、嫁として海へ捧げねばならぬ」
村人たちは息を呑んだ。
やはり、あの掟は生きていたのだ。
「……誰を、捧げるのですか」
誰かが、恐る恐る尋ねた。
神主は、苦渋に満ちた表情で、ゆっくりと、集まった村人たちの中を見渡した。
そして、その視線が、一人の娘の前で止まった。
サヨだった。
「……サヨ。神は、お前を望んでおられる」
「そ、そんな……!」
サヨは、その場に崩れ落ちた。
周りの村人たちも、言葉を失った。
サヨは、誰からも愛される、気立ての良い娘だ。
なぜ、彼女が。
「待ってください!」
人ごみをかき分けて、太一が飛び出してきた。
「嘘だ! 神様が、そんな残酷なことを望むはずがない! 生贄なんて、そんな古い迷信、信じられるか!」
太一は神主に食ってかかった。
「黙れ、太一! これは神の意志じゃ!」
長老が一喝した。
「サヨ一人の命で、村中の命が助かるのなら……。我らには、他に道はないのじゃ」
長老の言葉に、村人たちはうつむいた。
誰もが、サヨを犠牲にしたくはない。
だが、自分たちの家族や生活を守るためには、誰かが犠牲にならなければならない。
その残酷な現実を、村人たちは無言のうちに受け入れようとしていた。
「……太一さん、やめて」
サヨが、震える声で言った。
「私が……私が、行きます」
「サヨ! 正気か!?」
「……だって、このままじゃ、みんな死んでしまう。太一さんも、私のお父さんも、お母さんも……」
サヨの瞳には、涙が溢れていた。
だが、その奥には、悲しいほどの決意の光が宿っていた。
「……連れて行け」
長老の合図で、若者たちがサヨの腕を掴んだ。
太一は暴れたが、数人がかりで押さえつけられた。
「サヨーーッ!」
太一の絶叫が、嵐の中に虚しく響き渡った。
サヨは、何度も何度も太一の方を振り返りながら、神社の奥にある「潔斎の館」へと連れて行かれた。
そこは、生贄となる娘が、儀式の時まで身を清めるための、牢獄のような場所だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
人身御供の伝説は、自然災害への恐怖と、それを鎮めたいという切実な願いから生まれたものでしょう。
しかし、選ばれた者と、その家族や恋人にとっては、これ以上ない悲劇です。
さて、幽閉されてしまったサヨ。
太一は、彼女を救い出すことができるのでしょうか。
次回、「許されぬ恋」。
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