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ひろしま郷土史譚《三原編》~潮風と祈りの物語~  作者: かつを
第4部:悠久の物語 ~土地に眠る伝説と信仰~
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桜山の桜、海の向こうの祈り 第5話:春は必ず来る(終)

作者のかつをです。

第十七章の最終話です。

 

桜を守り続けた一族の物語。

冬を乗り越え、春を迎える喜びは、いつの時代も変わりません。

この物語のテーマである「過去と現代の繋がり」を、桜の花を通して感じていただけたら幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

あの一輪の花をきっかけに、桜山は奇跡的な回復を見せた。

千吉たちの必死の看病が実を結び、翌年には、まだまばらではあったが、多くの木々が花をつけた。

そして数年後には、山は再び、かつてのような見事な薄紅色に包まれるようになった。

 

父・吾作は、その満開の桜を見届けるようにして、静かに息を引き取った。

「……いい春だ」

それが、最期の言葉だった。

 

千吉は、父の跡を継ぎ、立派な山守となった。

 

彼は、毎年春になると、最も美しい桜の枝を切り出し、厳島へと運び続けた。

世の中がどう変わろうと、誰が支配者になろうと、この行事だけは欠かさなかった。

 

厳島の神官たちも代変わりしたが、桜山からの桜は、変わらず神前を飾り続けた。

 

ある年の春。

すっかり白髪になった千吉は、孫を連れて厳島を訪れた。

 

朱色の大鳥居をくぐり、回廊を進む。

そこには、自分が届けた桜が、海からの風に揺れながら、美しく咲き誇っていた。

 

「じいちゃん、きれいだね」

 

孫が無邪気に笑う。

 

「ああ。……きれいだ」

 

千吉は目を細めた。

 

この桜は、ただの花ではない。

父が、自分が、そして先祖たちが、命を懸けて守り繋いできた「祈り」そのものなのだ。

病に倒れそうになった時も、嵐にのまれそうになった時も、諦めずに守り抜いたからこそ、今、こうして神の島で咲いている。

 

「春は、必ず来るんだよ」

 

千吉は、孫に語りかけた。

どんなに厳しい冬があっても、どんなに辛いことがあっても。

信じて守り続ければ、必ず花は咲く。

それを、この桜が教えてくれた。

 

 

……時代は流れ、荘園の制度も消え、桜を奉納する儀式もいつしか途絶えてしまった。

 

しかし、桜山は今も三原の地にあり、春になれば変わらず美しい花を咲かせている。

 

 

……現代。桜山。

 

満開の桜の下で、多くの人々が花見を楽しんでいる。

笑い声、乾杯の音、子供たちが走り回る姿。

 

その賑わいの中に、一組の老夫婦がいた。

二人はベンチに座り、静かに海の方角を眺めていた。

 

「向こうに、宮島(厳島)があるんじゃな」

 

「ええ。昔は、ここから桜を運んでいたそうですよ」

 

「そうか。……今年も、きれいに咲いたな」

 

 

時を超えて、桜は咲き続ける。

 

かつて、神に捧げられた祈りの花は、今は、人々の心に平和と安らぎを届ける花となって、この町を見守っている。

 

海を渡る風が、桜の花びらを一枚、ふわりと空へと運んでいった。

その花びらは、まるで遠い昔の約束を果たすかのように、西の空、厳島の方角へと飛んでいった。

 

 

(第十七章:厳島からの使い ~桜山の桜、海の向こうの祈り~ 了)

第十七章「厳島からの使い」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

三原の桜山公園は、今でも多くのお花見客で賑わう名所です。

そこから見える瀬戸内海の風景の向こうに、世界遺産・厳島神社があることを思うと、歴史のロマンを感じずにはいられません。

 

さて、美しい桜の物語から、次回は少し切ない伝説の世界へとご案内します。

離島に残る、悲しい人身御供の伝承がテーマです。

 

次回から、新章が始まります。

第十八章:大島神社の泣き女

 

嵐を鎮めるために海神に捧げられた娘。

彼女の魂が、なぜ今も「泣き女」として島を守っているのか。

その謎に迫る、哀しくも美しい物語です。

 

引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマークや評価で応援していただけると、第十八章の執筆も頑張れます!

 

それでは、また新たな物語でお会いしましょう。

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