城下町の誕生、一番祭りの熱気 第2話:祭りの知らせ
作者のかつをです。
第二章の第2話をお届けします。
ついに祭りの開催が告げられます。
そして今回の物語のヒロインが登場し、主人公・健太との淡い出会いを町の熱狂の中で描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
ある晴れた日の朝。
町の中心にある広場の高札場に、一枚の新しい札が立てられた。
役人が触れを回ったわけでもないのにその噂は風のように町を駆け巡り、たちまち黒山の人だかりができた。
文字を読める者はまだ少ない時代。人垣の中心で、寺子屋で手習いを受けた商家の若旦那が、少し得意げに札に書かれた内容を読み上げていた。
「えー、聞け、皆の者! 我らが殿、小早川様より、有り難きお達しである! この度、三原城の普請落成を祝し、来る十五日より三日三晩、城下において祝祭を執り行うことを許す! この間、身分貴賤の別なく、無礼講とする!」
読み上げられた言葉の意味が人々の間に浸透するのに、数瞬の間があった。
そして、次の瞬間。
「うおおおおっ!」
地鳴りのような歓声が空気を震わせた。
「祭りができるだと!」「しかも三日三晩!」「無礼講! あの侍たちとも同じ立場で騒げるってことか!」
誰もが隣にいる者の肩を叩き、顔をくしゃくしゃにして笑い合った。
戦の勝利を祝う行事は経験があっても、それはあくまで武士たちのもの。町が、町人のために開かれる祭りなど誰も経験したことがない。
それは殿様から町人たちへの最高の贈り物であり、この町の一員として認められた証でもあった。
健太も仕事の合間を縫って広場に駆けつけ、人垣の後ろからその熱狂の渦を食い入るように見ていた。
祭りができる。この町に住む者たちが、皆で一つになれる。
考えただけで胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。棟梁も兄弟子たちも、皆子供のようにはしゃいでいる。
その時だった。
喧騒の中、ふと視線を感じた。
人垣の向こう、町で一番大きな呉服屋「越後屋」の店先で、同じように高札を嬉しそうに見つめる娘と目が合ったのだ。
お花。越後屋の一人娘だった。
丁寧に結い上げた髪に挿した季節の花のかんざしが、朝日を浴びてきらりと光る。彼女の大きな瞳も、町中を満たす喜びにキラキラと輝いていた。
目が合った瞬間、お花ははっとしたように頬を染め、はにかむようにふいと顔をそむけた。
健太の心臓が、とくんと大きく鳴った。
大工見習いの自分と、大店の娘。
普段ならこうして視線を交わすことさえはばかられる存在だ。住む世界が違う。健太はそう自分に言い聞かせてきた。
だが、祭りは「無礼講」だ。
その言葉がまるで魔法のように、健太の心の中にある見えない壁を取り払っていく。
この祭りなら、何か新しいことが始まるかもしれない。彼女と、言葉を交わせるかもしれない。
そんな淡い期待が、町中に満ちる祭りの熱気と共に健太の若い心を駆け巡っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
やっさ祭りの起源は、この三原城の完成を祝ったものだと伝えられています。
領主が領民と共に祝うというところに、名君・小早川隆景の人柄が偲ばれますね。「無礼講」という言葉の響きは、当時の人々にとって格別のものだったでしょう。
さて、身分の違う二人のささやかな出会い。
しかし、現実には大きな壁が立ちはだかります。
次回、「許されぬ恋」。
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