表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

完璧であろうとすることは

作者: P4rn0s

「あなたの強みは?」


就職面接で、何度も答えた言葉がある。

「どんなことも自分でやり遂げる力です」

それは嘘じゃなかった。

私は、誰かの手を借りずにやってきた。

勉強も、バイトも、人間関係も。

「頼る」という選択肢を持つ暇なんてなかった。

そうすることで、誰にも迷惑をかけず、誰にも失望されずに済んだ。


社会人になっても、その癖は抜けなかった。

資料づくり、報告書、電話応対、人に任せればいい仕事まで、全部自分で抱えた。

「君に任せれば安心」

そう言われるのが、何よりの報酬だった。

疲れていても、ミスをしても、

「大丈夫です」と笑って受け止める。

「強いね」と言われるたび、

自分が壊れていく音が聞こえた気がした。


そんなある日、プロジェクトチームに異動になった。

そこにいたのが、香坂さんだった。

朗らかで、人に仕事を振るのがうまい。

自分より年下の社員にも、自然に頼っている。

一見頼りなさそうに見えて、

いつの間にか周囲に支えられていた。

私は正直、最初は苦手だった。

「自分でやればいいのに」と思った。

「そんな甘え方、私にはできない」と。


ある夜、プロジェクトの報告書でつまずいた。

データの整理が間に合わず、徹夜して仕上げて、

朝方ようやく出社してきた時、香坂さんが、真顔で言った。

「……なんで、誰にも頼らないの?」

私は戸惑った。

「いや、迷惑かけたくないし。」

「違うよ。一人で立てるのが、君の強さだと思ってるかもしれないけど……それ、たぶん、君の弱さだよ」


息が詰まった。


「頼らないってことは、誰にも自分の不完全さを見せられないってこと。それって、自分を守ってるようで、実は逃げてるだけだよ」

私は、何も言い返せなかった。

その日、初めて「助けて」と言った。

香坂さんは、何も責めずに笑って言った。


「よくできました」


それが、悔しくて、うれしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ