表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

第十九話『全能』

和風BAR『KO-RO』に何かしらの能力者である三人を連れてくることに成功した。

「全員帰ってきたようだね」

「京子さん、これからどうするんだ?」

「一旦、和室に集まりな。これからのことを説明するよ」

俺と天音、和文は能力者が待機している和室へと入った。そこには不安そうに座っている三人がいた。

「ぼ、僕たち、何か怪しいことに巻き込まれてる?」

「違うんだ……そういえばあなたの名前は?」

「傑、先走るんじゃないよ。まずは自己紹介だ」

最初に、俺たちから自己紹介をすることになった。

「俺は佐藤傑、高校三年生の十八歳だ」

「い、伊豆天音です……傑と同じ高校に通う幼馴染です」

「おいらが桐谷和文! 名前は好きはように呼んでくれ!」

三人はぽかんとしている。

「あたいは三船京子。この店の経営者だよ。じゃあ、そちらの自己紹介も頼むよ」

一人ずつ、静かに名前を言い始めた。

「僕は、石田朔(いしださく)、その、傑くんに連れられて来たんだ」

「私は可五色野乃(かごしきのの)です。そこの、天音さんに連れられて……」

「自分は……久留井大輝(くるいたいき)。高校一年生で、放課後に声を掛けられてここに来た」

それぞれ名前を聞いた後は、どんな力を持っているのか、京子さんが紹介していった。

「あたいが見た限りだけど、石田さんは『大地』、可五色さんは『色』、久留井くんは『音』、それがあんたたちの使える力さ」

「あの僕、その『神の力』って、どういうものなのかよく分からないんだけど……」

「そうだねえ、『大地』の力は……」

俺が連れてきた背の高い石田さんの『大地』の力は、地震の予知と発動、土の品質変化が主なものらしい。本人が自覚しているのは地震の予知ぐらいだ。

「僕が、地震を起こせるだって?」

「相当強い力がないと無理だろうから、今のままでは出来ないだろうね」

「そ、それなら良かった……」

石田さんはそっと胸を撫でおろしている。いきなり地震が起こったら、周囲もたまったものではないだろう。

「私の力も、説明していただけますか?」

「可五色さんの『色』はねえ……」

天音が連れてきた、艶のある長い黒髪の女性、可五色さんの『色』の力は、人の感情やその場の雰囲気を色で判断することができ、人の色彩感覚を変えることができる。

「あの違和感は、気のせいではなかったんですね」

「人に害を及ぼすような力ではないけれど、少し伝わりづらい場面があるかもしれないねえ」

「そう、ですね」

可五色さんは静かに俯いている。きっとこの人も、人と自分が何か違うということに気づいていたのだろう。俺はその気持ちを十分に理解しているつもりだ。

「自分のことも、教えてもらっていいですか」

「久留井くんの『音』は……」

京子さんが連れてきた、眼鏡をかけた小柄な青年、久留井くんの『音』の力は、人の感情やその場の雰囲気を音で判断することができ、自分の奏でた音で相手の感情を変えることができる。

「自分の音……自分は嫌いです。自分の音は誰にも受け入れられないから」

「そりゃあ、好き嫌いはあるさ。でも、相手に寄り添うことも大事なんじゃないかい?」

「寄り添う……ですか」

久留井くんには『音』の力とは別に、音楽の才能があるのかもしれない。きっと『音』に関する全てを感じ、苦しんできたんだ。

「質問は以上かい? なら、こっちの力についても話そうかね」

「はいはい! おいらから!」

「そんなに慌てなくても誰も取らないよ。じゃあ、かずから」

和文は間に合わなかったことを気にしないように、必死に明るく振舞っているように見える。

「おいらの力は『時間』、いろんなものの時を『戻し』たり『進め』たり、『止め』たり『遅らせ』たり、『飛ばし』たりできるんだ!」

「全部言ったな」

「いいじゃん、傑もほら!」

俺の力など、一言で説明できる。

「俺は『天気』を操れるんだ。簡単に言えば、『晴れ』、『雨』、『曇り』とかに変えることができるってことだ」

「もっと自慢しないのか?」

「自慢してどうする。ほら、次は天音だぞ」

天音はもじもじしながら口を開く。

「えっと、私の力は『精神』……で、人の心を読むことができます。人の気持ちを変えたり、自分と同じ気持ちにさせることもできます……」

早口で話し終えると、天音は俺の後ろに隠れた。

「おい……」

「も、もう説明したから!」

相変わらず、俺以外への人見知りが激しい。

「次、姐さんっすよ」

「はいはい。あたいの力は『記憶』だよ。『見る』ことができるし、『忘れ』させたり『書き換え』たりすることが可能さ。その代わり、一度見たものは忘れることができないけどねえ」

一通りの自己紹介が終了した。さて、これから『クロネコ』についての話が始まる。

「僕たち、なんで集められたのかな?」

「あんたたちに命の危険が及んでいるからだよ。『クロネコ』っていう殺人鬼が、あんたたちを狙っているのさ」

「さ、殺人鬼!?」

石田さんは腰を抜かし、あからさまに怯え始めた。可五色さんも久留井くんも、不安な表情を見せる。

「安心しな、あんたたちには指一本触れさせやしない。もちろん、戦えとも言わない」

「もしかして、あの時の猫のお面の人……?」

「おや、石田さんは知っているのかい」

そうだ、俺だけではなく、石田さんも一瞬だけど『クロネコ』を見ている。これは、あの時あったことを話さないといけないようだ。

「京子さん、話があるんだ。俺が石田さんを迎えに行ったとき、『クロネコ』と接触した」

「傑、あんたまさか、戦ってないだろうね?」

「それはしてない。でも、『クロネコ』の過去を見せられたんだ」

俺はその過去の内容を、考察も含め全員に話した。

「両親をも手にかけていたんだねえ。本当に、呆れた奴だよ」

「あいつは、同情されることを望んでいた。でも、俺は当然、無理だった」

「それでいいのさ。そこにいたのが、傑で良かった」

京子さんが意味深な言葉を吐く。その目線の先には、暗い顔をした和文がいた。

「おいらは……ううん、なんでもない」

「かず、あんたは違うだろう? 一度だって、人を殺したいと思ったことなんてないはずだよ」

「……そうっすね」

和文は、あの時のことを後悔していないと言っていたが、ちゃんと、心に傷は残っていたのだ。先生を突き飛ばしたこと、町全体の時を『止めて』しまったこと。『タイムパラドックス』の影響で、町の人たち全員が和文を忘れてしまった、あれは和文が起こした悲劇だ。

「大丈夫だ。今は俺たちがいるから」

「傑、ありがとう」

和文を落ち着かせ、話を進める。

「じゃあ、『クロネコ』の力の正体は『統治』ってこと?」

「天音の言うことは半分合ってる。でも、複数の力を取り入れた『クロネコ』にはそれ以上の何かがあるんだ」

「傑は、もうそれが何なのか、分かっているみたいだねえ」

なんとなくだが、察しはついている。『統治』の力を使い、能力者から『神の力』を奪い続けた『クロネコ』の力は、もう『統治』ではなく、『全能』へと変化したんだと思う。

「全ての力を統べる『神』、真似事から始まったそれは現実で『全能』という力に成り代わったんだ。『統治』し続けた結果の、最悪なパターンだよ」

「おいらの力も使えるんだよな? 使えるのは全く同じなのか?」

「いや、多分『クロネコ』の方が上だ。俺の力も使っていたけど、確実に上だった」

しかし、俺たちには秘策がある。それは、京子さんだ。

「あたいが使えるのは、能力者の『記憶』にある力だけ。その能力者以上の力は絶対に出せないよ」

「それでもいいんだ。俺と和文の力を使えるだけでも、きっと『クロネコ』への打開策を見いだせる」

「え、姐さん、おいらの力、使えるの?」

そういえば和文は知らないんだった。京子さんが、能力者の力を『覚えて』使えることを。

「多少はね。傑と出会う前だったから、あの時のかずが使えたものに限るけどねえ」

「あの、僕たちの力は役に立つかな?」

「一応、『記憶』を見せてもらおうか。『覚えて』いて損はないだろうから」

京子さんはそれぞれ、石田さん、可五色さん、久留井くんの『記憶』を見ていった。

「じ、自分の『記憶』なんか、音楽しかなかっただろ?」

「それがどうしたんだい。恥ずかしがることはないよ、それだけあんたは、『音』に真剣に向き合っていたということだろうさ」

「仕方なかっただけ……」

久留井くんは『音』に対してコンプレックスを持っているようだ。

「私の『記憶』は、絵を描いてばかりでしょう?」

「ああ、興味深いものだったねえ。とても色鮮やかで、綺麗だったよ」

「それは、ありがとうございます……」

可五色さんは照れくさそうに下を向いた。

「僕なんか土いじりばかりだから……」

「食べ物を育てるには色んな知識が必要でねえ、あんたの知識量はすごいものだった」

「そんなあ、言い過ぎですよ」

石田さんは頭をぽりぽり搔きながら謙遜している。みんなそれぞれ、各方面で努力をしてきたんだろう。

「姐さんは褒め上手だなあ」

「かず、あんたの『記憶』も見せてくれるかい?」

「もちろん!」

京子さんは険しい顔をしたものの、和文の『記憶』をなんとか見終わったようだ。

「天音も、お願いできるかい?」

「は、はい!」

天音の『記憶』も見終わった京子さんは、全員に告げる。

「あたい、傑、かずはこれから『クロネコ』がいる場所に向かう。天音はこの店で三人を守っていておくれ」

「いよいよだな」

「おいら、頑張るっすよ!」

俺と和文は気合を入れる。

「わ、私、守って見せます」

「良かったら、僕たちに力の使い方を指導してくれないかな? そしたら、守られるだけじゃなくなると思うんだ」

天音は少し迷っていたが、しばらくして首を縦に振った。

「私のことは気軽に野乃とお呼びください。頑張りますから」

「じ、自分も、大輝でいい」

「じゃあ、僕も朔って呼んでくれると嬉しいな」

こうして俺たちの、最後の戦いが始まろうとしていた。


町を抜けた山の奥、登山ルートから外れた雑草だらけの場所、かつての村に、俺たちはやってきた。村の中は殺風景だったが、明らかに異様な、木造の一軒家がぽつんと建っていた。

「やあ、待ってたよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ