第九話:ジムでの刺激的な時間
「今度の日曜日、一緒に体験に行きませんか!?」
葵の提案を受けて、まさか本当にジムに来ることになるとは思わなかった。彼女の純粋な気遣いが嬉しかったから、断り切れなかったのだ。
日曜の昼下がり。葵に連れられてやってきたのは、都心の高級ビルの最上階だった。入り口には厳重なセキュリティゲートがあり、重厚な扉には『プライベート・フィットネス・リンク』と控えめな文字が刻まれている。どうやら、会員制のVIPしか入れないジムらしい。
そんな様子に尻ごみしつつも、葵に黙ってついて行くと、扉が開いてスーツ姿の女性スタッフが恭しく頭を下げた。
「いらっしゃいませ、葵様。本日は吉野様もご一緒でございますね。お待ちしておりました」
葵は慣れた様子で、スタッフに軽く会釈を返す。俺は、場違いな場所に連れてこられた気分で、思わず身構えた。
「葵ちゃん、ここ、もしかして、すごく高いんじゃないか…?」
俺が小声で尋ねると、葵はにこやかに答えた。
「大丈夫ですよ! 吉野さんには特別に、私の家族枠で利用できるように手配しましたから! 月額、格安の千円ですよ!」
千円!? VIPしか入れないような高級ジムを、月千円で利用できるだと? 葵の言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。やはり、社長の姪というのは、とんでもないお嬢様だったらしい。
「じゃあ、吉野さん、ここで。向こうが男性ロッカーです」
葵が指差す先を見ると、木目調の高級感あるドアがあった。俺は頷き、ロッカーへ向かった。
更衣室もまた、清潔で広々としていた。用意されたジャージに着替えながら、俺は改めてこのジムの異様さに驚く。
着替えを終えてロビーに戻ると、既に葵が待っていた。彼女は、動きやすいジャージ姿に着替えていた。普段の制服とは違う、スポーティーな装いなのに、なぜかその清楚な雰囲気は全く損なわれていない。むしろ、柔らかな生地に包まれた体のラインが、普段よりも強調されているように見えた。
「吉野さん、どうですか? 私のジャージ姿、変じゃないですか?」
葵が俺の顔を覗き込み、少しはにかんだように尋ねてきた。
「いや、変じゃない。似合ってるよ。すごく…」
俺は正直な感想を口にした。変どころか、思わず見惚れてしまうほどだ。
「そうですか? よかった! じゃあ、最初はウォーミングアップから始めましょうね!」
葵はテキパキと体を動かし始めた。俺は、彼女の指示に従って、まずはランニングマシンに乗る。久々の運動に、すぐに息が上がった。数分も走らないうちに、心臓がバクバクと音を立て、額には汗が滲み出る。
「はぁ、はぁ……きついな、これ」
「大丈夫ですか、吉野さん! 最初は無理しちゃダメですよ! 自分のペースで、少しずつ!」
隣で、葵が笑顔で励ましてくれる。彼女は涼しい顔で、まるで散歩でもするように軽やかに走っている。その余裕のある姿に、俺は自分の運動不足を痛感させられた。だが、隣に葵がいると思うと、不思議と頑張れる気がした。
◆
ランニングの後、俺たちは筋力トレーニングに移った。使い方がよく分からないマシンを前に戸惑っていると、葵がすかさず説明してくれる。彼女は本当に、このジムに通い慣れているようだ。
「このマシンは、こうやって使うんですよ!」
そう言って、葵が手本を見せてくれる。軽々とバーベルを持ち上げ、しなやかな動きでセットをこなしていく。そのたびに、ジャージの袖から伸びる腕の筋肉が、女性らしい柔らかさを保ちつつも、引き締まっているのが見て取れた。
「吉野さん、あと少しですよ! 頑張って!」
葵の声援を受けながら、俺はなんとかメニューをこなしていく。全身が悲鳴を上げているようだったが、不思議と気分は悪くない。むしろ、汗をかくことがこんなにも爽快だとは、何年ぶりかに思い出した感覚だ。
トレーニングが終わり、クールダウンのストレッチに移る。葵は床に座り、体をゆっくりと伸ばしていく。ジャージの裾が少しだけめくれ上がり、すらりと伸びた足首が目に飛び込んできた。
そして、柔らかな照明の下で、彼女が腕を伸ばして上体を前に倒すたびに、首筋を伝って鎖骨の方へ流れる汗が、キラリと光った。白いジャージが、汗で少しだけ肌に張り付き、体のラインが、より鮮明に浮かび上がる。呼吸に合わせて、豊かさが増した胸元が、ゆっくりと上下する。
健康的に汗を流したばかりの葵の姿は、普段の清楚さとはまた違った、生命力溢れる美しさを放っていた。俺は思わず、その無防備な姿に見惚れてしまう。まるで、彼女から発せられる健康的なフェロモンに、頭がクラクラするようだった。
(まずい、下手したら子供位の年齢なのに、ドキドキする……)
思わず視線を逸らした。葵はそんな俺の視線に気づくことなく、真剣な表情でストレッチを続けている。
「ふぅ、スッキリしましたね! 吉野さん、お疲れ様でした!」
葵が爽やかな笑顔で声をかけてきた。
「ああ、お疲れ。…なんだか、身体が軽くなった気がする」
俺は、彼女に気づかれないように、慌てて視線を戻した。たった数時間だったが、このジムでの時間は、俺にとって刺激的で、そして心身ともに癒されるものだった。
「でしょ? 運動すると、頭もスッキリしますし、仕事もはかどりますよ! これから毎週、一緒に来ませんか!?」
葵はそう言って、俺の顔をキラキラした瞳で見つめてきた。俺は、彼女の純粋な誘いに、二つ返事で頷いていた。
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