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第五話:新たな任務と女性だけのチーム

 システムトラブル解決の立役者として、俺は一躍社内のヒーローとなった。会議が終わってから一週間がたったある日、人事部から呼び出しがかかった。社長室に向かう足取りは、これまでの重いものではなく、どこか浮かれているようだった。


「吉野くん、よく来てくれた」


 社長室の大きな机の向こうで、社長が穏やかな笑みを浮かべていた。社長の隣には、葵がにこにこと座っている。彼女も俺の活躍が嬉しいのだろう。


「今回の功績、見事だった。君の『ハーモニー・ウェイブ』分析能力は、我が社にとって計り知れない価値がある」


 社長の言葉に、俺は背筋を伸ばした。


「そこで、だ」


 社長の言葉に、俺の心臓が跳ねる。


「君には、新設する『イノベーション推進室』の室長を任せたい」


「イノベーション推進室…ですか?」


 予想外の言葉に、俺は思わず聞き返した。社長は続ける。


「そうだ。君のデータ分析能力を活かし、社内の潜在的な問題を解決し、新たなビジネスアイデアを創出していく部署だ。君には、その最前線に立ってほしい」


 室長。しかも、新設部署。これまで窓際で日陰の身だった俺にとっては、まさに青天の霹靂だ。だが、同時に不安もよぎる。新設部署ということは、まだ形も実績もない。そこに飛び込む社員はいるのだろうか。特に俺のような、一度失敗した人間の元へ。


「しかし社長、私の部署は…」


「心配しなくていい。君の部署は、私が責任を持って、社内で最高の人材を集めよう」


 社長の力強い言葉に、俺はただ頷くしかなかった。社長室を出ると、葵が俺を見上げてきた。


「吉野さん、おめでとうございます! 室長なんて、すごいじゃないですか!」


「ありがとう、葵ちゃん。でも、不安も大きいんだ。新設部署だから、誰も来てくれないかもしれないし…」


 俺の弱音に、葵はキッパリと言い放った。


「そんなことないです! 吉野さんの才能、きっとみんな分かりますよ! 私が保証します!」


 葵の揺るぎない信頼が、俺の不安を少しだけ和らげてくれた。


 ◆


 辞令が出た翌日、俺は『イノベーション推進室』の室長として、新しいオフィスに引っ越した。社長の言葉とは裏腹に、部署には一向に人が集まらない。無理もない。新設部署はキャリア的にも不安定だし、そもそも『ハーモニー・ウェイブ』のようなSNS分析に価値を見出す社員は少ない。特に、成果を求める男性社員は、こんな「地味な」部署には見向きもしないだろう。


「吉野さん、今日もお一人ですか…?」


 葵が心配そうに尋ねてくる。


「ああ、まだな。まあ、気長に待つさ」


 俺は強がってみせたが、内心では焦っていた。誰も来なければ、この部署はまた『窓際』と揶揄され、俺は二度と浮上できなくなる。


 そんな時だった。オフィスのドアが開き、数人の女性社員が入ってきた。


「イノベーション推進室は、こちらでよろしいでしょうか?」


 その中の一人が、俺に尋ねた。彼女たちは、俺よりも若い、20代前半から30代前半くらいの女性たちだった。全員、どこか垢抜けた、SNSへの関心は高そうな雰囲気だ。


「ええ、そうですけど…」


 俺が戸惑っていると、その中の一人が笑顔で言った。


「私は営業企画部の小川莉子です。吉野さんの分析力、社内ではすごいって評判になってます! 私、SNSを使った企画にずっと興味があったんですけど、誰も理解してくれなくて…。この部署なら、吉野さんと一緒に、面白いことができるんじゃないかって!」


 小川莉子と名乗った女性の言葉に、俺は目を見開いた。彼女の言葉に続いて、他の女性社員たちも口々に、SNSへの興味や、吉野の分析力への期待を語り始めた。


「私も『ハーモニー・ウェイブ』で、社員の意見がこんなにビジネスに繋がるなんて、目から鱗でした!」


「社内SNSの新しい使い方、ぜひ吉野さんから学びたいです!」


 集まってきたのは、皆、女性社員だった。男性社員がキャリアへの不安やSNSへの関心の薄さから避ける中、彼女たちは純粋な好奇心や期待を胸に、この未知の部署へとやってきたのだ。


 俺は、まさかの展開に呆然とした。


「まさか、こんなに人が来てくれるとは…」


 俺の言葉に、葵が満面の笑みで頷いた。


「ほら、言ったでしょ? 吉野さんなら、絶対できますって! これから、もっと吉野さんの才能が輝きますよ!」


 葵の言葉が、俺の心に温かく響く。女性だけのチーム。俺は、これまで誰も足を踏み入れなかった未知の領域で、新たな一歩を踏み出すことになったのだ。この部署で、俺は本当に、会社を、そして自分自身を変えられるのだろうか。

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