第四十話:『ハーモニー・ウェイブ』が繋いだ未来
葵にプロポーズし、社長からの承認も得てから、約二年。葵は大学を無事に卒業し、俺たちは、いよいよ結婚式の日を迎えた。
この二年間、俺たちの生活は、喜びと期待に満ちていた。葵は学業と並行して、俺の仕事も積極的にサポートしてくれた。彼女の新たな視点とデータ分析の才能は、『ハーモニー・ライフ・ソリューション』を成功に導く大きな原動力となった。プロジェクトは、会社に大きな利益をもたらし、俺の部署は名実ともに、会社の未来を担う存在となった。俺の会社での地位は、まさに盤石だ。
そして、何よりも、俺たちの愛は、日を追うごとに深く、そして揺るぎないものへと成長していった。喧嘩することも、時にはすれ違うこともあったが、その度に、俺たちは互いを理解し、より強く結びついていった。
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結婚式は、都内の歴史あるチャペルで行われた。
純白のウェディングドレスに身を包んだ葵が、教会の扉から現れた時、俺は思わず息を呑んだ。ベール越しに見える彼女の顔は、緊張しながらも、これまでの人生で見たこともないほど美しく、輝いていた。まるで、天使のようだ。
ヴァージンロードを、社長と共にゆっくりと歩いてくる葵の姿は、俺の目には、まるでスローモーションのように映った。彼女の父代わりとして、社長が葵を大切に育ててきたことが、その背中から伝わってくる。
祭壇の前で、葵が俺の隣に立つ。その手が、わずかに震えているのが分かった。俺は、その手をそっと握りしめた。彼女の温かさが、俺の心に安堵をもたらす。
「健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
牧師の言葉に、俺は迷わず、力強く答えた。
「はい、誓います」
そして、葵も、俺を見つめ、少し潤んだ瞳で、しかしはっきりと答えた。
「はい、誓います」
指輪の交換。俺が葵の左手の薬指に、そして葵が俺の左手の薬指に、互いの永遠の誓いを込めた指輪をはめる。指輪が輝くたびに、俺たちの絆が、より一層強固になるのを感じた。
「誓いのキスを」
牧師の言葉に、俺はそっと葵のベールを上げた。彼女の顔には、涙の跡が残っていたが、その瞳は、俺への深い愛情で輝いていた。俺は、彼女の唇に、優しくキスをした。その瞬間、世界中の時間が止まったかのように感じた。
チャペルには、祝福の拍手と、温かいオルガンの音が響き渡る。
◆
結婚式の後、披露宴へと場所を移した。
会場には、社長をはじめ、会社の役員たち、俺の部署のメンバーたち、そして俺たちの家族や友人たちが集まってくれた。高瀬さんも、小川莉子も、皆が温かい笑顔で俺たちを祝福してくれている。
「吉野室長、葵さん、本当におめでとうございます!」
小川莉子が、代表してそう叫んだ。部署のメンバーたちが、俺たちのためにサプライズで用意してくれたムービーが流れ、これまで歩んできた道のりを振り返る。
窓際社員だった俺が、『ハーモニー・ウェイブ』という社内SNSを立ち上げ、多くの人々と繋がり、そして葵と出会った。彼女が俺に光を与え、俺の人生を変え、そして共に困難を乗り越え、今日この日を迎えた。
まさしく、俺たちの人生は、『ハーモニー・ウェイブ』という小さな「波」から始まった、奇跡の物語だ。
社長が、乾杯の挨拶に立った。
「吉野くん、葵ちゃん。二人の出会いは、まさに運命だ。吉野くんは、葵ちゃんの才能を見出し、そして葵ちゃんは、吉野くんの可能性を引き出してくれた。二人は、会社を、そして互いの人生を、より良い方向へと導いた。これからも、二人で力を合わせ、幸せな家庭を築いてほしい。そして、その『ハーモニー・ウェイブ』が、二人の人生にも、永遠に素晴らしい波を送り続けてくれることを願っている」
社長の温かい言葉に、俺と葵は、感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
披露宴の終盤、俺は葵の手を取り、ゲストの皆に頭を下げた。
「本日は、我々のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。私は、この会社に入社し、そして葵と出会えたこと、全てに感謝しています。彼女は、私の人生の全てを変えてくれました。これからは、二人で力を合わせ、笑顔の絶えない家庭を築いていきたいと思います。そして、この会社にも、微力ながら貢献し続けていきたいと願っています」
葵も、俺の隣で深々と頭を下げた。
「吉野さん。そして、今日ここに来てくださった皆様。本当にありがとうございます。私、吉野さんと出会えて、本当に幸せです。これからも、吉野さんを支え、一緒に素敵な未来を築いていきたいです」
新宿の夜景が、窓の外に広がっている。煌々と輝く光の海の中で、俺と葵は、互いの存在を確かめ合い、未来への希望を胸に抱いていた。
俺たちの物語は、ここで終わりではない。
これは、新たな始まりだ。
『ハーモニー・ウェイブ』が繋いだ、俺と葵の未来。
これからも、俺たちの人生には、数えきれないほどの新しい「波」が押し寄せるだろう。
だが、どんな困難な波が来ようと、俺たち二人なら、きっと乗り越えられる。
なぜなら、俺たちの間には、揺るぎない愛と、深い信頼で結ばれた、『ハーモニー・ウェイブ』があるからだ。




