第三十六話:葵の閃きと突破口
葵との心の和解、そして部署のメンバーたちとの再結束を経て、俺はプロジェクトに新たな視点で向き合った。焦りは消え、俺の心は再び冷静さと、そして確かな希望を取り戻していた。田中の言葉と、葵の揺るぎない信頼が、俺の思考を研ぎ澄ませてくれたのだ。
特に、葵の分析結果は、俺に大きな衝撃を与えた。彼女が指摘した、これまで注目してこなかったユーザー層の潜在的なニーズ。それは、俺がこれまでデータばかりを追いかけていたせいで、見落としていた盲点だった。
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葵は、大学で培った情報工学の知識と、若者ならではの柔軟な発想で、俺が見つけられなかった糸口を見つけてくれた。
「吉野さん、この年代のユーザーは、単に機能的なメリットだけじゃなくて、『共感』や『体験』を重視する傾向が強いみたいです。既存のサービスでは満たされていない、心の奥底にある欲求があるんだと思います」
葵の言葉は、まさに目から鱗だった。俺はこれまで、サービスの機能性や利便性ばかりに注目していたが、彼女は、その先にいる**「人」の感情**を読み取っていたのだ。
俺はすぐに、葵の分析をもとに、プロジェクトのターゲット層と提供価値を大幅に見直すことを決断した。部署のメンバーたちも、葵の鋭い洞察力に感銘を受け、新たな戦略へと積極的に取り組んでくれた。
「なるほど! 吉野室長、この視点、確かに今までありませんでした!」
小川莉子をはじめ、メンバーたちは目を輝かせながら、新しい企画案を出し合った。議論は活発になり、停滞していたプロジェクトの空気が、一気に動き出した。
葵は、その後も、俺の**「第二の脳」**として、プロジェクトに多大な貢献をしてくれた。彼女は、ユーザーのオンライン行動を分析し、潜在的なニーズを掘り起こすための新たなデータ収集方法を提案してくれたり、ターゲット層に響くようなプロモーション戦略のアイデアを出してくれたりした。
彼女のアイデアは、どれもこれも新鮮で、そしてデータに裏打ちされたものばかりだった。俺は、改めて葵の才能に舌を巻いた。彼女は、単なる社長の姪ではなく、確かな実力を持った、優秀なビジネスパートナーなのだと痛感した。
「葵ちゃん、君は本当にすごいな。君がいなければ、このプロジェクトはここまで来られなかった」
俺がそう言うと、葵は少し照れたように笑った。
「そんなことないですよ、吉野さん! 私、吉野さんの力になれているなら、嬉しいです!」
その笑顔は、俺の心に確かな温かさをもたらした。
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葵の新しい視点と、部署全体の協力により、プロジェクトは劇的な進展を見せた。これまで課題となっていた技術的な問題も、新たな方向性が見つかったことで、解決の目処が立ってきた。市場調査の結果も、葵の分析を取り入れたことで、ポジティブな兆候が見え始めた。
俺たちは、寝る間も惜しんで作業を続け、ついに最終プレゼンテーションの準備段階へと突入した。膨大な資料の山も、今は達成感と高揚感に満ちたものに見える。
社長も、プロジェクトの進捗に驚きを隠せないようだった。彼は、俺たちの報告を聞くたびに、満足そうに頷き、そして俺と葵の成長に、目を細めていた。
「吉野くん、葵ちゃん。君たちは、本当に素晴らしいチームだ」
社長の言葉は、俺たちにとって何よりの褒め言葉だった。
この大きな挑戦の成功は、もう目の前だ。それが成功すれば、俺の会社での地位は不動のものとなり、葵との未来も盤石となる。俺は、このプロジェクトを、必ず成功させてみせる。
そして、その成功は、俺一人で成し遂げるものではない。葵、そして部署のメンバーたち、皆で勝ち取る勝利だ。俺は、このチームと共に、未来へと突き進むことを誓った。




