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第三十二話:多忙を極める日々

 社長から任された新規事業プロジェクトは、想像以上に規模が大きく、そして複雑だった。市場調査、技術開発、競合分析、法務対応…あらゆる側面から検討を重ね、膨大なデータを分析する必要があった。俺は、これまで以上に仕事に没頭するようになった。


 朝早くに出社し、深夜までオフィスにこもる日々が続いた。週末も、ほとんどの時間をプロジェクトのために費やした。デスクには、資料の山がうず高く積まれ、コーヒーを片手に、俺は来る日も来る日もモニターと睨めっこしていた。


『イノベーション推進室』のメンバーたちも、この大規模プロジェクトに一丸となって取り組んでくれていた。小川莉子をはじめ、皆がそれぞれの持ち場で全力を尽くしてくれている。彼らの熱意と、俺への信頼が、俺の大きな支えとなっていた。


 だが、俺の心の中には、ある懸念があった。それは、葵との時間だ。


 ◆


 プロジェクトが始まって以来、俺と葵が二人きりでゆっくり話す時間は、めっきり減ってしまった。彼女は大学の学業も忙しい上に、俺の部署のサポートも続けてくれている。そんな彼女に、これ以上負担をかけるわけにはいかないと、俺は思っていた。


 だが、葵はそんな俺の気持ちを察してか、これまでと変わらぬ態度で俺を支え続けてくれた。


 俺が深夜までオフィスに残っていると、時折、彼女が差し入れを持ってやってくる。手作りのサンドイッチや、温かいスープ。彼女が作ってくれたものは、コンビニ弁当とは比べ物にならないほど、心と体に染み渡った。


「吉野さん、少しは休んでくださいね。無理しすぎると、体壊しちゃいますよ」


 そう言って、俺の肩を心配そうに見上げる葵の瞳は、いつも俺への愛情に満ちていた。その優しい眼差しが、俺の疲れを癒し、再び仕事に向かう活力を与えてくれる。


 時には、俺が資料に埋もれて行き詰まっていると、彼女がそっと隣に座り、俺の仕事を手伝ってくれることもあった。


「吉野さん、このデータ、別の視点から見てみませんか? こういうトレンドがあるかもしれませんよ」


 彼女の情報工学の知識と、若者ならではの新しい視点は、俺の行き詰まった思考に、常に新しい風を吹き込んでくれた。彼女が指摘する小さなヒントが、プロジェクトの大きな課題を解決する糸口になることも少なくなかった。


 まるで、葵は俺の**「第二の脳」**のようだった。彼女がいなければ、このプロジェクトは、俺一人では到底成し遂げられないだろう。彼女の存在が、俺の成功を、そして未来を、これまで以上に強く支えてくれていることを、俺は日々実感していた。


「葵ちゃん、本当にありがとう。君がいてくれて、助かっているよ」


 俺が心からの感謝を伝えると、葵は少しはにかんだように笑った。


「吉野さんの力になれるなら、私、いくらでも頑張れますから!」


 彼女の言葉は、俺の心に深く響いた。俺の成功が、俺自身の地位を不動のものとし、そして、俺と葵の将来を盤石にする。そのためにも、このプロジェクトは、何としても成功させなければならない。


 東京の街は、今日も煌々と輝いている。ビルの窓からは、俺の部署の明かりが、ひときわ明るく灯っていた。この光が、俺たちの未来を照らす光となることを信じて、俺は再び、モニターへと向き合った。

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