第三十一話:大規模プロジェクト
葵と結婚を誓い合ってから、俺の心は常に温かい光に包まれていた。
葵と二人で築く未来への希望が、俺の原動力となっていた。彼女との約束を果たすためにも、仕事に、そして何よりも彼女との関係に、全力を尽くそうと心に決めた。
季節は移ろい、春が来た。そして、葵は希望通り、都内の大学の情報工学部へと入学した。学業とプライベートを完璧に両立させる彼女の姿は、俺にとって大きな刺激となっていた。彼女の存在は、俺の仕事にとっても、もはや不可欠なものとなっていた。
◆
そんなある日のことだ。社長から、俺は社長室へと呼び出された。
「吉野くん、君に一つ、重要な仕事を任せたい」
社長の言葉に、俺は背筋を伸ばした。彼の顔は、いつになく真剣な表情をしていた。
「この会社にとって、非常に重要な新規事業プロジェクトだ。リスクも伴うが、成功すれば、我が社の未来を大きく左右するだろう」
社長が示した資料に目を通すと、そのプロジェクトの規模に、俺は思わず息を呑んだ。それは、これまでの『イノベーション推進室』で手がけてきたものとは、比べ物にならないほど大規模で、そして、会社全体の事業戦略の核となるような内容だった。
膨大な初期投資、競合他社の動向、そして、万が一失敗すれば、会社全体に大きな打撃を与える可能性も秘めている。まさに、**会社にとっての「最後のビジネス挑戦」**と言っても過言ではない。
「…これは、非常に大きな責任ですね」
俺がそう言うと、社長は静かに頷いた。
「そうだ。だからこそ、君に任せたい。君は、あの『ハーモニー・ウェイブ』を成功させ、佐藤の件でも会社を救ってくれた。君のデータ分析能力と、困難を乗り越える力は、私が最も信頼しているものだ」
社長の言葉に、俺の胸に熱いものがこみ上げてきた。あの窓際部署で、誰にも見向きもされなかった俺が、今、会社の未来を左右するプロジェクトを任されようとしている。
「このプロジェクトの成功が、君の会社での地位を不動のものとし、そして…君たちの将来を盤石にするだろう」
社長は、そう言って、俺と葵の関係に言及した。社長は、俺と葵の未来を真剣に考えて、このチャンスを与えてくれているのだ。その期待に応えなければならない。
俺は、これまで培ってきたデータ分析の知識と経験、そして『ハーモニー・ウェイブ』を通じて得た社員たちの信頼を思い出した。そして、何よりも、葵との絆が、俺に大きな自信を与えてくれていた。彼女の揺るぎない愛情と、俺を信じ支え続けてくれる存在が、俺の背中を強く押してくれる。
「社長、私に、そのプロジェクトを任せてください。必ず、成功させてみせます」
俺は、社長の目を見て、力強くそう断言した。
社長は、満足そうに頷いた。
「うむ。期待しているぞ、吉野くん。そして、葵ちゃんにも、よろしく伝えておいてくれ」
社長室を出た俺は、大きく息を吸い込んだ。胸いっぱいに広がるのは、不安よりも、新たな挑戦への高揚感だった。
このプロジェクトの成功は、俺自身のキャリアのためだけではない。葵との未来を盤石にするためにも、絶対に成し遂げなければならない。これは、俺にとっての「大きなビジネス挑戦」。全身全霊をかけて、この難題に立ち向かうことを誓った。