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第二十八話:公になった関係と新たな日常

 社長室を出た俺と葵は、その場で安堵の息を漏らし、互いの顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべた。社長からの直接の許しを得られたことに、俺の心はこれまでにないほど満たされていた。これで、俺たちは、後ろめたさを感じることなく、堂々と葵との関係を築いていける。


「よかった…本当に、よかった…」


 葵の瞳は、少し潤んでいたが、その顔は喜びで輝いていた。俺も、彼女と同じ気持ちだった。


 ◆


 翌日、社内では俺と葵の関係が公になったことで、ざわめきが広がった。


「吉野室長と、社長の姪御さんが…!?」


「まさか、あの吉野室長が…」


 驚き、戸惑い、そして羨望。様々な視線が俺と葵に向けられた。特に、これまで俺に好意を寄せてくれていた女性社員たちは、複雑な表情を浮かべていた。中には、高瀬さんのように、静かに見守ってくれる人もいたが、遠巻きに見てくる人も少なくなかった。


 だが、そんな周囲の反応も、俺にとっては取るに足らないことだった。俺の隣には葵がいる。彼女が俺を信じ、共に歩む覚悟を決めてくれた。それだけで十分だ。


『イノベーション推進室』のメンバーたちは、この一件を通じて、さらに俺への信頼を深めてくれたようだった。


「吉野室長、おめでとうございます! 応援してます!」


 小川莉子が、代表してそう言ってくれた。他のメンバーたちも、温かい目で俺と葵を見守ってくれる。彼らの信頼と理解は、俺にとって大きな支えとなった。


 そして、高瀬さん。彼女は、いつものように冷静な表情で俺のデスクにやってきた。


「吉野くん、社長から話は聞いたわ。色々あったけど、本当に良かったわね」


 彼女の言葉には、安堵と、そして俺の幸せを願う気持ちが込められているのが分かった。彼女は、俺が窓際社員だった頃から、ずっと俺を支え、見守ってきてくれた。彼女の存在なくして、今の俺はあり得なかっただろう。


「高瀬さん、本当にありがとうございます。高瀬さんにも、心配をかけてしまいました」


「いいのよ。吉野くんが幸せなら、それで」


 高瀬さんは、そう言って、少しだけ寂しそうな、しかし優しい笑顔を浮かべた。俺は、彼女の複雑な感情を感じ取ったが、同時に、彼女の深い優しさに、心から感謝した。


 ◆


 葵との関係が公になってからも、俺たちの日常は、これまで以上に充実していた。


 会社では、俺は引き続き『次世代ワークスタイル改革プロジェクト』に尽力し、成果を出し続けていた。葵も、学業に励みながら、時折『イノベーション推進室』に顔を出しては、メンバーたちと積極的に交流している。彼女は、社内SNSのトレンド分析にも力を入れており、その鋭い視点とユニークな発想は、俺の仕事にも大きなヒントを与えてくれた。


 休日は、二人で過ごす時間が増えた。映画を見に行ったり、新しいカフェを開拓したり、時には葵の勉強に付き合って図書館で過ごすこともあった。そんな何気ない時間が、俺にとってはかけがえのないものだった。


 年齢差や社会的な立場の違いは、依然として存在する。だが、俺たちの間には、それを乗り越える確かな絆と、互いへの深い愛情があった。葵は、俺がどんな困難に直面しても、常に俺を信じ、支え続けてくれる。その揺るぎない信頼が、俺を強くしてくれる。


 俺たちは、手探りではあったが、一歩ずつ、未来へと進んでいた。この会社で、もっと大きな仕事を成し遂げ、そして、葵と共に、幸せな家庭を築く。それが、今の俺の、確かな目標となっていた。


 新宿の街を二人で歩く。高層ビル群の間に、夕日が沈み、オレンジ色の光が街を染めていく。俺の隣には、いつもと変わらぬ笑顔の葵がいた。彼女の存在が、俺の人生を、どこまでも明るく照らしてくれる。

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