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第二十六話:未来への第一歩

 葵の言葉は、俺が抱えていた不安を、まるで魔法のように消し去ってくれた。年齢差も、社会的な立場も、彼女にとっては取るに足らないものだと言い切った葵の瞳は、俺への揺るぎない信頼と、共に未来を歩む覚悟に満ちていた。その瞬間、俺の心に、これまで感じたことのないほどの幸福感が満ち溢れた。


 俺は、彼女の手を強く握り返した。彼女の温かい手が、俺の心を解き放ち、新たな決意を促した。


(ああ、俺は、この子を、一生かけて守り、幸せにしよう)


 ジムの休憩スペース。誰もいない静かな空間で、俺たちは互いの手を取り合い、心の中で確かに繋がった。これが、俺たちの「恋」の始まりだった。


 ◆


 それからの日々は、これまでの人生で最も充実したものだった。仕事はもちろん順調だ。佐藤の陰謀を乗り越えたことで、『イノベーション推進室』はさらに結束を強め、次世代ワークスタイル改革プロジェクトも、いよいよ本格的な実施段階へと移行していた。


 そして、俺の隣には、いつも葵がいた。


 会社では、これまで通り上司と部下として振る舞うが、視線が合うたびに、互いの心に温かいものが灯る。終業後や休日には、二人で食事をしたり、映画を見に行ったりするようになった。デートと呼ぶにはまだ気恥ずかしかったが、そんな時間一つ一つが、俺にとってはかけがえのない宝物だった。


 ある日の休日、二人でカフェでコーヒーを飲みながら、未来について語り合った。


「吉野さん、私、大学では情報工学を学びたいと思ってます」


 葵は、未来への希望に満ちた目で語る。彼女は、今回の佐藤の事件を通じて、データ分析やSNSの仕組みに、さらに強い興味を持ったようだった。


「そうか。葵ちゃんには、その才能があるからな。きっと、素晴らしいエンジニアになれる」


 俺がそう言うと、葵は少し照れたように笑った。


「でも、吉野さんには、もっともっと大きなことを成し遂げてほしいです。私、吉野さんのこと、ずっと見てますから!」


 彼女の言葉は、いつも俺の背中を押してくれる。俺は、彼女のために、もっと大きな男になりたいと心から思った。


 ◆


 しかし、俺たちの関係が深まるにつれて、一つだけ、避けては通れない問題があった。葵が社長の姪であること。そして、俺たちの関係を、どうやって社長に打ち明けるかということだ。


 正直、社長の反応がどうなるか、想像もつかなかった。大切にしている姪娘が、まさか自分の会社の社員、しかも一度は窓際部署にいた俺と、恋愛関係になるとは、夢にも思っていないだろう。最悪の場合、猛反対される可能性もある。だが、このまま秘密にしておくわけにはいかない。葵を大切に思うからこそ、全てを正直に話す必要があると俺は考えていた。


 ある日、二人で食事をしている時に、俺は意を決して、葵に切り出した。


「葵ちゃん、そろそろ、社長に話すべきだと思うんだ」


 俺の言葉に、葵は一瞬、箸を止めた。彼女の表情に、かすかな緊張が走る。


「…はい。私も、そう思ってました」


 だが、葵の表情はすぐに、決意に満ちたものへと変わった。彼女は、俺の目を真っ直ぐに見つめる。


「吉野さん、怖くないですか?」


「正直、怖い。でも、君を大切にしたいからこそ、ちゃんと話すべきだと思うんだ」


 葵は、俺の手を取り、そっと握った。


「大丈夫です。吉野さんなら、きっと分かってくれます。それに、私が吉野さんのことをどれだけ大切に思っているか、社長なら分かってくれるはずです」


 彼女の揺るぎない信頼が、俺の不安を打ち消してくれる。葵は、俺が思っている以上に、強く、そして勇敢な女性だ。彼女が隣にいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられる。そう、確信できた。


 俺たちは、社長に打ち明けるための準備を始めた。まずは、どうやって切り出すか。そして、二人の真剣な気持ちを、どうすれば伝えられるか。未来への大きな一歩を踏み出すために、俺たちは二人で、真剣に考え始めた。

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