第二十四話:水が繋ぐ心
白い水着姿の葵に、俺の心は完全に囚われていた。彼女がプールで軽やかに泳ぐ姿は、まるで人魚のようで、俺はただ、その美しさに見惚れるばかりだった。
「吉野さん、入らないんですか?」
葵が、プールの縁から顔を出し、俺を呼んだ。その笑顔に誘われるように、俺もプールへと足を踏み入れた。ひんやりとした水が、熱くなった体に心地よい。
「吉野さん、泳ぎは得意なんですか?」
「いや、正直、あまり得意じゃない。ジムではランニングが中心だからな」
俺がそう言うと、葵は目を輝かせた。
「じゃあ、私が教えてあげますよ! 吉野さん、私に任せてください!」
葵は、本当に楽しそうだった。彼女は、俺の隣に並び、泳ぎ方を教えてくれた。
「まずは、こうやって手を前に伸ばして…」
彼女は、俺の手を取り、水の中で正しい姿勢を教えてくれる。**彼女の指が、俺の指に触れるたびに、電流が走ったような感覚に襲われた。**水の抵抗の中で、互いの身体が触れ合う瞬間は、まるで時間までがゆっくりと流れるようだった。
「はい、吉野さん、足はこうですよ!」
葵は、俺の腰に手を添え、足の動かし方をサポートしてくれた。その温かい手が、俺の肌に直接触れる。彼女の柔らかい肌の感触と、石鹸の香りが、俺の理性をさらに揺さぶる。
俺は、ぎこちないながらも、葵の指導に従って泳ぎを続けた。彼女は、俺のわずかな進歩にも、自分のことのように喜んでくれる。水中で見せる彼女の無邪気な笑顔は、まるで幼い子供のようで、俺の心を温かく満たした。
「吉野さん、すごい! もう少しで息継ぎも完璧になりますよ!」
葵は、水しぶきを上げながら、無邪気に笑った。水に濡れた髪が顔に張り付き、それがまた、ひどく色っぽい。俺は、彼女の女性としての魅力に、抗いがたいほど惹かれていくのを感じた。
◆
プールでの時間を終え、俺たちはプールサイドのソファに並んで座った。冷たいアイスティーを飲みながら、火照った体をクールダウンさせる。この二人きりの空間は、まるで世界に俺たちしかいないかのように錯覚させた。
「吉野さん、泳ぎ、上手くなりましたね! 最初はちょっとぎこちなかったけど、さすがです!」
葵は、俺のグラスに氷を足しながら、ニコニコと微笑んだ。
「葵ちゃんが教えてくれたからだよ。ありがとう」
俺は、素直に感謝の言葉を伝えた。彼女の存在が、俺の人生にどれほどの変化をもたらしてくれたのか。
「ねぇ、吉野さん。最近、お仕事どうですか?」
葵が、ふいに仕事の話を切り出した。俺は、最近のプロジェクトの進捗や、部署のメンバーたちの活躍について話した。彼女は、目を輝かせながら、俺の話に耳を傾けてくれる。
そして、話はプライベートなことへと移っていった。葵は、自分の高校生活や、将来の夢について語ってくれた。彼女が、大学で何を学びたいのか、どんな仕事に就きたいのか。彼女の純粋な夢を聞いていると、俺の心は温かい光で満たされた。
「吉野さんは、これからどうしていきたいんですか?」
葵が、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。その問いかけに、俺は少し戸惑った。これまでは、仕事の成功だけを考えていた。だが、今は違う。
「俺は…そうだな。この会社で、もっと大きな仕事を成し遂げたい。そして…」
俺は、言葉を選んだ。彼女に、何を伝えるべきか。
「そして、葵ちゃんのような、俺を信じてくれる人たちを、もっと大切にしたい。君が俺の人生を変えてくれたように、俺も誰かの人生を変えられるような、そんな存在になりたい」
俺がそう言うと、葵は少し照れたように俯いた。だが、その顔には、満面の笑顔が浮かんでいた。
「吉野さんなら、きっとできますよ。私、吉野さんのこと、ずっと応援してますから」
彼女の言葉は、俺の心に深く響いた。この特別な時間を共に過ごし、互いの内面をより深く知ることで、俺と葵の関係性は、一歩、また一歩と、確実に進展していた。それは、単なる「親愛」を超え、より明確な「恋」へと姿を変えつつある、確かな兆候だった。
夕暮れが近づき、プールの水面が夕日を反射してキラキラと輝いている。この美しい情景の中で、俺たちの心は、静かに、そして深く繋がっていた。