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第二十話:葵の決意と奮闘

 役員会は、俺にとって最悪の結果に終わった。俺の必死の訴えも虚しく、役員たちの疑念は晴れなかった。むしろ、俺の言葉は、まるで言い訳のように響いてしまったのかもしれない。会議室を出る俺の背中に、冷たい視線が突き刺さる。社内での疑惑は、もはや無視できないレベルに達していた。


 デスクに戻ると、高瀬さんが憔悴しきった表情で俺を待っていた。


「吉野くん…」


 彼女はそれ以上何も言えず、ただ心配そうに俺を見つめていた。部署のメンバーたちも、不安と戸惑いを隠せない様子で、モニターに映し出された『ハーモニー・ウェイブ』の匿名投稿を睨みつけている。


 俺は、この状況をどう打破すればいいのか、全く見当がつかなかった。佐藤は、俺のデータ分析のノウハウを熟知しているわけではない。だが、巧妙に偽造されたデータと、社員の個人情報というセンシティブなワードを組み合わせることで、社内の不信感を煽ることに成功した。このままでは、俺は会社を追われることになりかねない。それだけは、何としても避けなければならない。


 ◆


 その日の終業後。俺が一人、オフィスで頭を抱えていると、突然、扉が開いた。そこに立っていたのは、葵だった。彼女の顔には、いつもの明るい笑顔はなく、真剣な、そして少し怒っているような表情が浮かんでいた。


「吉野さん! 大丈夫ですか!? 私、全部聞きました!」


 葵は、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。彼女の瞳には、俺への深い愛情と、俺を助けたいという強い意志が宿っていた。


「葵ちゃん…どうしてここに…」


「どうしてって、吉野さんがこんな大変なことになってるのに、私が黙っていられるわけないじゃないですか! 私も、『ハーモニー・ウェイブ』の投稿、見ました! 全部、嘘ですよね!? 吉野さんは、そんなことする人じゃない!」


 葵の声は、力強く、そして確信に満ちていた。彼女だけは、俺を信じて疑わない。その揺るぎない信頼が、俺の凍り付いた心に、温かい光を灯してくれた。


「でも、どうすればいいか分からないんだ。佐藤は、かなり周到に準備している」


 俺がそう言うと、葵はきっぱりと言い放った。


「大丈夫です! 私が吉野さんを助けます! 私には、私にしかできないことがありますから!」


 葵は、そう言って、自分のスマホを取り出した。彼女の指が、驚くほどの速さで画面を操作していく。


「私、社内SNSのデータ分析もできるんです。それに、私にも得意なことがあるんです。情報は、拡散の仕方次第で、味方にも敵にもなりますから!」


 葵は、社長の姪という立場を最大限に活用し始めた。彼女は、すぐに社長に連絡を取り、俺の潔白を訴え、佐藤の陰謀について詳しく説明した。社長は、葵の真剣な言葉と、彼女が示した確かな証拠(葵は、普段から『ハーモニー・ウェイブ』のトレンドを独自に分析しており、匿名投稿が出た直後から不審な動きを察知していたのだ)に、事の重大さを理解し始めた。


 そして、葵は、自身のSNSスキルを駆使し、社内で広まっている偽情報の出所を突き止めようと奔走した。彼女は、SNSの裏側にあるアルゴリズムや、情報の伝播経路について、驚くほどの知識を持っていた。俺が分析するデータとは全く異なる視点から、彼女は真実に迫ろうとしていた。


「吉野さん、この投稿の拡散元、たどってみたら、いくつかのダミーアカウントを経由して、最終的には…」


 葵は、徹夜で分析した結果を、目に隈を作りながらも、興奮気味に俺に報告してくれた。その報告は、佐藤の陰謀を暴くための、決定的な糸口となるものだった。


 彼女の行動は、強い正義感が、燃え盛る炎のように宿っていた。葵は、俺のために、その小さな身体を投げ出して戦ってくれている。そのことに、俺は心から感動し、同時に、彼女をこんな危険な目に遭わせてしまっていることへの罪悪感も覚えた。


「葵ちゃん…本当にありがとう」


 俺がそう言うと、葵は少し照れたように笑った。


「吉野さん、何言ってるんですか! 私、吉野さんのこと、信じてますから! 絶対、吉野さんの潔白を証明してみせます!」


 葵の言葉は、俺に勇気を与えてくれた。俺は一人じゃない。俺には、葵という、誰よりも強い味方がいる。この状況を乗り越えるために、俺は全身全霊をかけて戦うことを誓った。

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