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第十九話:危機と信頼の揺らぎ

 佐藤が仕掛けた陰謀は、想像以上に巧妙で、そして悪質だった。匿名アカウントから流されたデータ捏造と個人情報流出の偽情報は、瞬く間に社内を駆け巡り、俺の部署に対する不信感は日に日に募っていった。


「吉野室長、本当に大丈夫なんですか? あのデータ、本物じゃないですよね…?」


 部署の若いメンバーたちが不安そうに俺に尋ねる。小川莉子も、いつもなら明るい笑顔を浮かべているのに、今は眉を下げて俺を見上げている。俺は彼女たちを安心させようと努めたが、俺自身の心の中にも、漠然とした不安が広がっていた。


『ハーモニー・ウェイブ』のデータは、俺の人生そのものだ。それを不正に利用したと疑われることは、俺のこれまでの努力を全て否定されるに等しい。だが、巧妙に偽造されたデータは、素人目には本物と区別がつかないだろう。


 これまで俺を頼りにしていた社員たちも、俺を見る目が変わってきた。廊下ですれ違う時に、コソコソと囁き合う声が聞こえる。『イノベーション推進室』に集まる期待の眼差しは、疑惑と不信の眼差しに変わりつつあった。


 ◆


 そして、ついにその日が来た。役員会への招集だ。議題は、俺の部署に対する疑惑の解明。


 会議室は、いつもより重苦しい空気に包まれていた。社長も、いつになく厳しい表情で席に着いている。佐藤は、したり顔で俺を睨みつけていた。


「吉野室長。君の部署で進めている『社内バズチャレンジ』、そして『次世代ワークスタイル改革プロジェクト』について、重大な疑惑が持ち上がっている。データ捏造、そして個人情報流出。これは事実かね?」


 役員の一人が、厳しい声で問い詰めてきた。俺は落ち着いて、事実を説明しようとした。


「いいえ、全ては事実無根です。私どもの部署が扱っているデータは、全て正規の手順で取得したものであり、個人情報も厳重に管理しております。流出しているとされるデータは、何者かが巧妙に偽造したものです」


「偽造だと? しかし、出回っているデータは、まるで本物のように精巧に作られている。君にそれを証明できるのかね?」


 俺は、俺が持つ解析能力を駆使して、偽造されたデータの矛盾点を指摘しようとした。だが、役員たちは、俺の言葉に耳を傾けようとしない。彼らの頭の中には、すでに『イノベーション推進室』に対する疑惑が深く根付いているようだった。


「吉野室長、君の活躍は評価する。だが、もしこの疑惑が事実であれば、会社の信頼は地に落ちる。責任問題は免れないぞ」


 社長も、俺を信じたいと思っているようだが、状況の深刻さを理解している。彼の視線は、期待と信頼が、今にも揺らぎそうな不安に満ちていた。


 俺は、これまで築き上げてきたもの全てが、一瞬にして崩れ去っていくような感覚に襲われた。あの窓際で、誰にも見向きもされなかった頃。だが、あの頃は失うものなど何もなかった。今は違う。俺には、『イノベーション推進室』という大切な場所がある。俺を信じてついてきてくれた、大切な部下たちがいる。そして、俺を「特別」だと言ってくれた葵がいる。


「吉野室長、どうなのだね。この責任をどう取るつもりだ?」


 役員の冷たい声が、俺の耳に突き刺さる。俺は、まさに最大の窮地に立たされていた。このままでは、俺の全てが、佐藤の陰謀によって潰されてしまう。俺は、この状況を打開するための、あらゆる手段を模索し、必ずこの窮地から脱出してみせると心に誓った。

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