第十八話:佐藤の陰謀と疑惑の浮上
『イノベーション推進室』の仕事は、順調に進んでいた。『次世代ワークスタイル改革プロジェクト』は、社員からの反響も上々で、社内の空気は明らかに良い方向へと変わり始めていた。俺は、データ分析を通じて、会社を、そして社員を幸せにできることに、大きなやりがいを感じていた。
だが、そんな俺の順調な日々に、不穏な影が忍び寄っていた。
◆
営業部長であり、同期の出世頭でもあった佐藤は、俺の成功を快く思っていなかった。役員会での俺のプレゼンが成功し、社内での俺の評価が上がるたびに、彼の顔はみるみる険しくなっていった。俺は彼を気にも留めていなかったが、彼の嫉妬の炎は、俺が思っていた以上に根深く、燃え盛っていたようだ。
ある日、高瀬さんが深刻な顔で俺のデスクにやってきた。
「吉野くん、ちょっと妙な噂が社内で広まっているわ」
「妙な噂、ですか?」
「ええ。『社内バズチャレンジ』のデータが捏造されたものだとか、あなたの部署が社員の個人情報を不正に利用しているとか…」
俺は耳を疑った。データ捏造? 個人情報流出? 全く身に覚えのない話だ。俺たちの部署は、常に透明性を重視し、倫理規定を遵守してきたはずだ。
「そんな馬鹿な。全て、正規のデータ分析に基づいたものですし、個人情報も厳重に管理しています」
「分かっているわ。私も信じてはいない。でも、この噂、妙に広まりが早くて、しかも具体的なのよ。まるで、誰かが意図的に流しているみたいに…」
高瀬さんの言葉に、俺の脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。佐藤だ。彼なら、俺を陥れるために、こんな陰湿な手を使う可能性もあるだろう。
「高瀬さん、心当たりがあります」
俺は、これまで佐藤から受けた嫌がらせや、彼が俺の成功に嫉妬しているであろう理由を話した。高瀬さんは、険しい顔で俺の話を聞いていた。
「やはりそうね…。あの男なら、やりかねないわ」
その日の午後、社内ネットワーク『ハーモニー・ウェイブ』に、匿名のアカウントから、俺の部署に関する誹謗中傷の投稿が複数なされているのが見つかった。内容は、高瀬さんが言っていた通りのものだ。『イノベーション推進室』が不正な手段でデータを収集し、それを基に捏造された企画を会社に承認させた、というもの。
さらに悪いことに、その投稿には、俺の部署が収集したとされるデータの一部が、あたかも流出したかのように添付されていた。もちろん、それは巧妙に偽造されたものだ。しかし、一見すると本物のように見える。
(これは…まずい)
俺は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。佐藤は、俺が思っていた以上に周到に、そして悪質に、俺を攻撃してきた。
「吉野室長! 社内SNSで、変な情報が流れてます!」
小川莉子をはじめとする部署のメンバーたちが、慌てて俺のデスクに駆け寄ってきた。彼女たちの顔には、困惑と不安の色が浮かんでいる。
俺は、すぐに事態の収拾を図ろうとした。だが、時すでに遅し。噂は瞬く間に社内を駆け巡り、社員たちの間には、俺の部署に対する不信感が芽生え始めていた。
これまで築き上げてきた信頼が、音を立てて崩れていくような感覚に襲われた。あの窓際で、誰にも見向きもされなかった頃とは違う。今は、多くの社員が俺を頼り、期待してくれている。だからこそ、この疑惑は、俺にとって最大の脅威となった。
佐藤の陰謀は、確実に俺を追い詰めようとしていた。俺は、この最大の危機をどう乗り越えるべきか、途方に暮れていた。
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