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第十七話:意外な一面と芽生える親愛

 慣れない女性服のコーナーで、俺は戸惑いながらも、葵の期待に応えたい一心で、慎重に服を選ぶ。


「葵ちゃん、これはどうだ? 君の明るい雰囲気に合うんじゃないか?」


 俺が選んだのは、オフホワイトの少しカジュアルなパーカーだった。普段の清楚なワンピースとは違う、活動的なイメージだ。


「わぁ、吉野さん、これ、可愛い! 私、こういうの普段着ないので、新鮮です!」


 葵は嬉しそうに試着室へと入っていった。数分後、カーテンが開き、パーカーを着た葵が出てきた。普段の優等生な印象とは一転、ストリート系のファッションも難なく着こなしている。そのギャップが、また新たな魅力を引き出していた。


「吉野さん、どうですか? 変じゃないですか?」


「いや、すごく似合ってる。君の無邪気な感じが、もっと引き出されてる」


 俺の言葉に、葵は満面の笑顔になった。彼女の喜ぶ顔を見ていると、俺まで嬉しくなる。


 俺たちは、結局、何着もの服を買い込んだ。両手にたくさんの紙袋をぶら下げ、外に出ると、さすがに疲労を感じた。


「葵ちゃん、疲れただろう。どこかで休んでいくか?」


 俺がそう言うと、葵はパッと顔を輝かせた。


「はい! じゃあ、あそこのカフェに行きませんか?」


 葵が指差したのは、開放的なテラス席のある洒落た喫茶店だった。俺たちは、買い物の戦利品を脇に置き、並んで席に着いた。


 冷たいアイスコーヒーを飲みながら、他愛もない話をする。


 だが、時間が経つにつれて、俺は周囲の視線が気になり始めた。


 ただでさえ目を引く葵が、純白のワンピースを着ていることもあり、ひときわ目を引くのは当然だ。だが、その視線は、俺と葵の組み合わせに対する好奇や、あるいは羨望のようなものを含んでいるように思えた。


「…なぁ、葵ちゃん。なんか、じろじろ見られてないか?」


 俺が小声で言うと、葵はキョトンとした顔をした。


「え? そうですか? でも気にすることないですよ、吉野さん! 私たち、何も悪いことしてないんですから!」


 彼女は、俺の不安を打ち消すように、屈託のない笑顔を見せた。その真っ直ぐな言葉に、俺は少しだけ安心した。


 ふと、喫茶店のテラス席から見える映画館の看板に目が留まった。大ヒット中の恋愛映画のポスターが飾られている。


「あの映画、葵ちゃんはもう見たのか?」


「あ、はい! すごく感動しました! 主人公の二人が、色々な困難を乗り越えて結ばれるんです!」


 葵は、映画の内容を嬉々として話し始めた。その瞳はキラキラと輝き、まるで映画の中のヒロインのようだった。彼女が話す、主人公の純粋な恋心や、困難に立ち向かう勇気。それを聞いていると、俺は、改めて葵という一人の女性だと意識してしまうが、年齢差を考えて踏みとどまりながら、彼女の屈託ない笑みを見続けた。



 会話が弾み、気づけば日差しも傾き始めていた。会計を済ませようと、俺は自然に財布を取り出した。


「あ、吉野さん! 私の分は私が払います!」


 葵は慌てて自分の財布を取り出そうとしたのを見て、むしろ驚く。


「いいって。今日は俺が誘ったんだし、葵ちゃんは学生なんだから」


 そう言うと俺は有無を言わさず、二人の代金を支払った。すると葵は、少しだけ頬を膨らませて、不満そうな顔をした。


「もう、吉野さんったら! 次は私に払わせてくださいね!」


 そう言いながらも、彼女はすぐに満面の笑顔に戻り、深々と頭を下げた。


「でも、ありがとうございます! 吉野さん、たくさんお洋服も選んでくれて、本当に嬉しかったです!」


 陽が傾き始めた空の下、俺たちは肩を並べて駅へと向かう。両手に重い紙袋を抱えてはいたが、俺の心は、これまでにないほど満たされていた。


 これまで、俺は葵を「助けてくれる可愛い妹」のように思っていた。だが、今日一日、彼女と共に過ごし、互いの新たな一面を知る中で、その感情は「親愛」という、もっと深いものへと変化していくのを感じた。彼女は、俺にとって、もはや単なる女子高生ではない。かけがえのない、特別な存在へと成長していた。

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