第十一話:初めてのプレゼンと評価の確立
『イノベーション推進室』のメンバーたちは、俺の指導のもと、着実に成長している。特に、小川莉子をはじめとする若い女性社員たちは、新しい企画のアイデアを次々と生み出し、部署全体が活気に満ちていた。
そして、ついに『社内バズチャレンジ』の最終報告と、次の大規模企画の提案を兼ねた役員会の日がやってきた。俺は、高瀬さんと共に会議室へと向かった。
「吉野くん、緊張している?」
高瀬さんが、俺の顔を覗き込む。
「いえ、まさか。これまでの全てをぶつけるだけです」
そう強がってみせたが、やはり胸の奥では鼓動が速くなっていた。このプレゼンが、俺の、そして『イノベーション推進室』の未来を左右すると理解していた。
◆
会議室には、社長をはじめとする全役員が勢揃いしていた。佐藤も営業部長の隣に座り、不機嫌そうな顔で俺を睨んでいる。
俺は壇上に立ち、深呼吸をしてからプロジェクターを操作した。
「本日は、『社内バズチャレンジ』の結果報告、並びに『イノベーション推進室』の今後の活動についてご説明させていただきます」
俺はまず、『社内バズチャレンジ』の驚異的な成果をデータで示した。社員間のエンゲージメント向上、部署間の連携強化、そして目に見える形での業務効率化。全てが数値として明確に示され、役員たちは真剣な眼差しで資料に見入っていた。
「…そして、これらのデータから導き出された次なる挑戦が、『次世代ワークスタイル改革プロジェクト』です」
俺は、これまで『ハーモニー・ウェイブ』のデータ分析から見えてきた、社員の働き方に関する潜在的な不満や要望を基に、新しいワークスタイルの提案を行った。リモートワークの推進、フレックスタイムの導入、そして社内コミュニケーションツールの改善。どれもが、社員の生産性向上と満足度向上に直結する内容だった。
「このプロジェクトは、社員一人ひとりの声に耳を傾け、彼らが最もパフォーマンスを発揮できる環境を構築することで、会社の競争力をさらに高めるものと確信しております」
プレゼンを終えると、会議室は静寂に包まれた。そして、最初に口を開いたのは、社長だった。
「……見事だ、吉野くん」
社長の言葉に、俺はホッと息を吐いた。
「君のデータ分析能力は、もはや我が社にとって不可欠な武器となった。そして、『イノベーション推進室』は、その武器を最大限に活かすことができる唯一の部署だ」
社長の言葉に続き、他の役員たちからも次々と賛同の声が上がる。
「吉野室長の企画は、常に先を見据えている。ぜひ、このプロジェクトも推進してほしい」
「これまで見過ごされていた社員の声に、ここまで深く踏み込めるのは、吉野くんの部署だけだろう」
かつてだったら俺を見向きもしていなかった役員たちが、今では俺の能力を心から評価してくれている。彼らの視線は、尊敬と期待に満ちていた。
「吉野室長、『次世代ワークスタイル改革プロジェクト』、承認する。全面的にバックアップしよう」
社長の最終的な言葉に、俺は深く頭を下げた。これで、俺の『イノベーション推進室』は、会社の中枢で確固たる地位を築くことができる。そして、俺自身も、社内での評価を決定的に確立した瞬間だった。
◆
会議室を出ると、高瀬さんが静かに俺を見ていた。
「おめでとう、吉野くん。大成功だったわ」
「ありがとうございます、高瀬さん。高瀬さんのサポートがなければ、ここまで来られませんでした」
「……あなたの才能は、本当に素晴らしいわ。そして、それをここまで引き出したあなた自身の力もね」
高瀬さんの視線には、これまで以上の信頼が寄せられていた。
スマホを手に取ると、葵からメッセージが届く。
『吉野さん、プレゼン、お疲れ様でした! きっと今頃大成功で終わっている時間ですよね! また今度お話を聞かせてくださいね!』
葵のメッセージを読み、俺は自然と笑みがこぼれた。社内での評価がどれだけ高まろうと、彼女だけは、いつも変わらず俺を信じ、応援してくれる。俺の本当の価値を最初に理解してくれた、唯一の存在。
俺の快進撃は、ここからさらに加速していく。だが、その成功の影で、俺を取り巻く人間関係もまた、大きく変化していくことを、この時の俺はまだ知る由もなかった。
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