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第九話:「勇者、強制労働に従事する件」


「やばいよ、茜。俺たち、本当に終わりかも」


アレックスは青ざめた顔で茜に囁く。二人は今、町の役場に連行されていた。理由は――未払いの借金と未納税金。役場の役人たちは、二人の経済状況を徹底的に調べ、とうとう「強制労働」での返済を命じられてしまったのだ。


「いや、なんで勇者がこんな目に……」


「働かないと、あんたたち牢屋行きだぞ」


冷酷な役人が淡々と告げる。


+++++


こうして、茜とアレックスは町の外れにある鉱山に連れて行かれた。ここでは日々、魔石の採掘が行われており、強制労働の者たちが従事していた。


「え、鉱山!? そんなに体力ないんですけど」


「俺も戦闘向きで、こういう肉体労働はちょっと……」


二人は見たこともない重機やらハンマーやらを手渡され、やるしかない状況に追い込まれていた。


「さぁ、働け。稼げば借金は返せるし、税金も払える」


作業監督のゴツいおじさんがニヤリと笑う。どう見てもまともな環境ではない。


「よし、茜、頑張ろう。きっとこれも一つの試練だ」


「いやいや、アレックス、勇者ってこんな試練いる!? 魔王と戦うんじゃなくて、ただの石掘りだよ!?」


+++++


茜はハンマーを手に取り、目の前の岩を叩き始めた。しかし、ハンマーは重く、すぐに腕が疲れてしまう。


「くぅ……重っ……これ無理……」


「さすがにこれは無理あるだろ」


アレックスも同じく、岩を叩いては汗だくになっていた。二人はお互いに顔を見合わせ、なんとか逃げ道を探ろうとするが、監督たちは厳しく目を光らせている。


+++++


休憩時間になり、茜は息を切らしながら小さな石の上に座り込んだ。


「もう、本当に無理……こんなの、一日で終わらせられるわけないよ」


「でも、働かないともっとひどい目に遭うぞ」


アレックスがどこか他人事のように言うが、彼も同様に疲れ切っていた。


「何か、方法がないかな……もっと楽にお金を稼げる手段とかさ」


茜はぼんやりと遠くを見つめた。そのとき、不意に誰かが近づいてくる音がした。振り返ると、そこにはまたしてもあの神様、タクトが立っていた。


「よっ、茜ちゃん。元気そうだね」


「元気なわけないでしょ!? なんで神様がこんなところにいるの」


「まぁまぁ、君たちが強制労働に入ったって聞いたから、ちょっと様子見にね」


タクトは何事もなかったかのように笑っている。相変わらずの無責任ぶりだ。


「様子見って……じゃあ何か助けてくれるの?」


「うーん、助けるっていうか……まぁ、アドバイスくらいならできるかな」


「アドバイス!? もっと実際に助けてよ!」


茜が叫ぶが、タクトは微笑んでいるだけで、何も具体的な助けをしてくれそうにない。


+++++


「まぁまぁ、茜ちゃん。今の状況をうまく乗り切るにはね、まずは**忍耐力**だよ。忍耐が勇者の基本。石を叩くにも、コツコツやるのが大事なんだ」


「だから、それが無理なんだってば! もっと直接的にどうにかできる方法はないの」


茜は苛立ちながら、目の前の岩を再び叩き始めた。タクトの言葉はどこか無責任に聞こえるが、確かに自分に足りないのは忍耐かもしれないとも思っていた。


「まぁ、あとは運だな。運が良ければ、こんな仕事もすぐに終わるかもよ」


「運頼み!?」


+++++


その時、突然大きな音が響き渡った。何事かと思い振り向くと、アレックスが偶然大きな魔石を掘り当てていたのだ。


「ちょっと待って! これ、すごい価値がある魔石だって!」


「え、マジで? 俺、そんなすごいの掘っちゃったの?」


アレックスが驚いた顔で持ち上げる魔石は、光を放ち、他の労働者たちもざわつき始めた。監督たちも慌てて駆け寄り、その魔石を見て目を丸くしている。


「こ、これほどの魔石を掘り当てるとは……お前たち、運がいいな。これで借金返済が一気に終わるぞ!」


「えぇ!? 本当に?」


茜は一瞬、夢を見ているのかと思ったが、どうやら現実らしい。運任せとは言え、一発逆転のチャンスを掴んでしまったのだ。


「ほら、言っただろ? 運も実力のうちってね」


タクトが満足げに微笑んでいる。茜は彼に感謝すべきかどうか悩んだが、とりあえず助けられたことに感謝するしかなかった。


+++++


こうして、茜とアレックスは大きな魔石のおかげで借金返済を果たし、自由の身となった。しかし、勇者としての道はまだまだ遠い。次はどんな試練が待っているのか――それは誰にもわからない。


+++++


次回予告:「勇者、就職活動に挑む件」

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