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第八話:「勇者、自己啓発セミナーに参加する件」


「もう限界!こんな生活、耐えられない!」


茜はついに頭を抱えて叫んだ。借金取りに追われ、掛け持ちバイトで忙殺され、さらには魔物討伐でも何の成果も上げられず。勇者としての誇りもズタズタになりつつある。


「なぁ、茜。俺たち、なんでこんなに必死に働いてるんだろうな……」

アレックスもまた、疲れ切った顔で皿を洗いながらぼやいている。


「確かに、これじゃ勇者というより、ただのブラック企業の社員だよね……」


+++++


そんなある日、茜は町の掲示板でとあるチラシを見つけた。大きな文字で書かれたタイトルはこうだ。


【自己啓発セミナー『成功する勇者の条件』】


「成功する勇者? これだ……!」


茜は、運命的な何かを感じてチラシを握りしめた。今の自分には、成功するためのヒントが必要だと心の底から感じていたのだ。


「ねぇ、アレックス。これ、一緒に行ってみない?」


「自己啓発セミナー? 成功する勇者? なんだか怪しいけど……他に手はないしな。行ってみるか。」


+++++


セミナー会場は、町のはずれにある古びた劇場だった。二人が会場に足を踏み入れると、すでに多くの参加者が座っており、みな真剣な表情で前を見つめていた。壇上には、一人の謎めいた人物が立っている。


「お集まりいただき、ありがとうございます。今日の講師を務めます、自己啓発の神・タクトです。」


「……自己啓発の神?」


茜はその姿に見覚えがあった。いや、覚えがあるどころか、これまで散々な目に遭わせてきた張本人――異世界転生の際に彼女を送り込んだ、あの「神様」そのものだったのだ!


「ちょ、ちょっと待って、あの神様じゃない!? なんで自己啓発なんかしてるの!?」


「ん? ああ、そうだよ、茜ちゃん。覚えてくれてるとは嬉しいね。異世界転生の担当をしながら、副業で自己啓発セミナーもやってるんだよ。神様もたいへんでね」


タクトは満面の笑みを浮かべながら、壇上で手を広げてみせる。


「副業!? ってか神様ってそんなに暇だったの!?」


「まぁ、最近は転生希望者も減ってるからさ、ちょっと趣味でね。君たち、勇者としての道がうまくいってないようだから、このセミナーで元気を取り戻してもらおうと思ってさ」


茜はあまりの状況に言葉を失った。異世界転生したはずが、まさか再び神様に会うことになるとは――しかも、彼が自己啓発の講師として目の前に立っているとは!


+++++


セミナーが始まると、タクトは手際よく「成功する勇者の条件」について語り始めた。


「まず、成功するためにはメンタルの強さが必要だ。借金なんて気にしちゃダメ。気合で乗り切るんだ!」


「気合って……それでどうにかなるなら苦労しないんですけど!?」


茜が心の中でツッコミを入れるが、タクトは続ける。


「そして、勇者として成功するためには、セルフプロデュースが重要だ。どう見られるかが大事。もっとカッコよく見せるための装備を揃えなきゃダメだね!」


「装備……このエプロンでどうしろと?」


茜は自分の姿を見下ろし、ため息をついた。


「さらに重要なのは、チームワークだ。勇者といえど、一人では世界を救えない。仲間を信じ、力を合わせることが大事なんだよ」


その瞬間、アレックスが身を乗り出して言った。


「その通りだ! 茜、俺たちも力を合わせれば借金なんて怖くない! ……って、あれ?」


アレックスが力強く宣言するが、彼自身が借金漬けであることを思い出し、途中で勢いを失う。


「まぁ、まぁ、まだセミナーは続くから! これからもっと役立つ情報が出てくるはず……」


+++++


セミナーが進むにつれて、茜の頭はますます混乱していった。タクトが語る自己啓発の内容は、どれもやや現実離れしており、異世界の勇者として役に立つかどうかは怪しかった。


「やっぱり、これ無駄なんじゃ……」


そんなことを考えていると、タクトが突然、茜に向かって指を指した。


「君! そう、茜ちゃん! 君はもっと自信を持つべきだ。自分が勇者だってことを、もっと周りにアピールしていいんだよ!」


「えぇぇ!? でも、今のところ全然勇者らしいことできてないんですけど……」


「そんなことはない! 勇者らしさは心構えからだ。君にはそのポテンシャルがある!」


タクトの熱い言葉に、茜は思わず「そ、そうですか?」と答えるしかなかった。


+++++


セミナーが終わると、茜とアレックスは会場を出て、夜空の下でため息をついた。


「なんか、結局よくわからなかったね……」


「まぁ、でもあの神様が言ってたこと、多少は参考になったかも。メンタルの強さとか、チームワークとかさ。」


「うーん、確かに……でも、これで本当に借金返せるのかなぁ」


「まぁ、やれるところまでやってみるしかないな」


二人は再び肩を並べて歩き出した。神様タクトのアドバイスがどこまで役に立つかはわからないが、とりあえず次の一歩を踏み出すしかない。自己啓発セミナーがどこまで彼らを成功に導くか――それは、まだ誰にもわからない。


+++++


次回予告:「勇者、強制労働に従事する件」

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