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第四話:「伝説の聖剣がコンビニで売ってた件」


「次こそは本当に勇者っぽい冒険が待ってるはず!」


茜は歩きながら、そう自分に言い聞かせていた。前回はフードコートでのバイト騒動、そして今回は――いよいよ「伝説の聖剣」を手に入れるクエストだというのだ。今度こそ異世界らしい壮大な冒険が始まるかも、と期待に胸を膨らませていた。


「伝説の聖剣を手に入れて、ついに私も勇者らしく――」


そのとき、ふと街中に見覚えのある看板が目に入った。


【コンビニエンスストア マートズ】


「……え、コンビニ?」


茜は足を止め、看板をじっと見つめた。異世界にコンビニ? いや、そんなことあるわけない――そう思いつつも、興味本位で店の中に入ってみることにした。


+++++


店内は、現実世界のコンビニとほぼ同じだった。棚にはお菓子やジュース、弁当が並び、店員は無表情でレジを打っている。


「いやいや、異世界にコンビニがあるなんて……まさかね?」


茜は軽く笑いながら店内を歩き回る。すると、武器や防具が並んでいる棚を見つけた。


「おお、やっぱり異世界だとこんなものも売ってるんだ……」


興味津々で武器コーナーを眺めていると、ある一つのアイテムが目に飛び込んできた。青く輝く美しい剣――その札には大きく「伝説の聖剣」と書かれていた。


「……え?」


茜はしばらくその剣を凝視したが、すぐに目をこすって再確認する。


【伝説の聖剣(特売品) 498ゴールド】


「う、嘘でしょ!? 聖剣って、コンビニで買えるものなの!? しかも特売品!?」


茜は慌てて棚から剣を取り出し、その軽さにまた驚いた。伝説の聖剣というからには、もっと重厚で威厳あるものだと思っていたのに、どうやらただの安物にしか見えない。


「……これ、本当に大丈夫なのかな……?」


レジに並びながら、茜は不安を抱えつつも、498ゴールドという破格の値段に惹かれて購入を決意した。


+++++


「勇者様! 伝説の聖剣を手に入れてくださったのですね!」


城に戻ると、玉座の間で待っていた王様が歓喜の声を上げた。茜はとりあえず剣を掲げて見せるが、心の中では未だに疑念が消えない。


「はい……一応、手に入れましたけど……これ、本当に伝説の聖剣なんですかね?」


「もちろんだとも! それは代々語り継がれてきた、魔王を倒すための唯一の武器だ!」


「でも、コンビニで特売されてましたけど……」


「なに、そんなことは気にするな! 重要なのは、その剣が真に力を持つかどうかだ!」


「いや、重要でしょ……!」


茜は完全にツッコミモードに入ったが、王様は全く意に介さない。どうやら、伝説の聖剣がどこで売られていようが、それが重要ではないらしい。


+++++


「それでは、早速試してみるか!」


城の裏手にある訓練場で、茜はその「伝説の聖剣」を手に取り、試し切りをすることになった。目の前には大きな岩が置かれ、王様と騎士たちがその様子を見守っている。


「い、いきますよ……?」


茜は緊張しながら剣を振りかざし、力を込めて岩に叩きつけた。


カンッ――。


「え?」


岩に当たった瞬間、聖剣が小さく鳴ったかと思うと、剣先がポキッと折れてしまった。


「嘘でしょ!? 特売ってこういうこと!? 聖剣ってもっと頑丈じゃないの!?」


折れた剣を持って茜が絶叫する中、周囲は一瞬静まり返った。だが、次の瞬間、王様が思わぬ発言を口にした。


「ふむ、そうか……やはりその剣は、本物だな。」


「は? 本物って、これ、折れましたけど?」


「その剣は、本物の力を引き出すには勇者の心の強さが必要なのだ。剣が折れたということは、お前の心がまだ十分ではないということだ!」


「いやいや、それ言い訳でしょ! 完全に不良品ですよね!?」


茜は完全にツッコミを入れたが、見守る騎士たちは「なるほど」と頷いている。どうやら彼らは「勇者の心が折れたせいだ」と本気で思っているらしい。


+++++


結局、茜は「勇者としての修行をもっと積むべきだ」と言い渡され、伝説の聖剣をそのまま持ち帰ることになった。折れた剣を眺めながら、茜はため息をつく。


「異世界って、もっと凄い冒険が待ってると思ってたのに……」


ポケットからいつもの玉を取り出し、茜は苦笑いした。どうやら、彼女の冒険はまだまだ道のりが長そうだ。


+++++


次回予告:「魔王を倒す前に家賃滞納してた件」

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