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第二話:「勇者として召喚されたと思ったら、お使いを頼まれた件」


「勇者様! お助けください!」


茜は目の前に土下座する村人たちを見下ろして、ただただ困惑していた。さっきまで普通に歩いていたはずなのに、急に「勇者様」として呼び止められたのだ。


「えっと、私、勇者じゃないんですけど……」


「そんなことおっしゃらずに!」村人代表らしきおばあさんが、涙目で茜を見つめる。「勇者様、お願いです。どうか村を救ってください!」


「村を救う? ……え、何かあったんですか?」


茜は最初こそ驚いていたが、「救う」という言葉に少しだけヒーロー気分を味わってしまった。ここで見せ場を作れば、異世界生活も少しはマシになるかも、と考えてしまったのだ。


「そうなんです!」おばあさんが力強く頷く。「最近、村の宝である伝説の『黄金のニワトリ』が行方不明になりまして……」


「は? 黄金の……ニワトリ?」


「ええ、そうです。黄金のニワトリは村に豊かな収穫をもたらす大事な存在。ですが、あのニワトリがいなくなってから、作物が枯れ、村は困窮しています!」


「……待って、ニワトリ?」


茜は驚きのあまり、村人たちの言葉を反芻した。どうやら、彼らは「勇者」と呼ばれる誰かにこのニワトリを取り戻してもらおうとしているらしいが、茜はその勇者じゃないし、そもそも「勇者」ならもっとドラゴンとか魔王とか、壮大なクエストに呼ばれるべきでは?


「いや、私、そんなニワトリ探しとか……」


「お願いします、勇者様!」村人たちは必死だった。


「ちょっと待って……でも、私は最強の魔法を使えるわけでもないし……」


そう言いながら、茜は神様からもらった転生特典の玉をポケットから取り出した。この玉が、あのスズメや風船みたいな魔法しか出さないことは、もう十分に理解している。


「お願いします! どうか、どうか!」とにかくしつこい。村人たちは茜を囲んで、頭を下げ続けている。


「わかった、わかった! とりあえず探してみるけど……」


+++++


茜は村の外れにある森に足を踏み入れた。森の中は薄暗く、木々が生い茂っている。まるで絵に描いたようなファンタジーの森だが、彼女が探しているのはあくまで「ニワトリ」であって、そんな大冒険とは程遠い。


「ニワトリって……普通、森にいるもんじゃないよね?」


呟きながらも、茜は森を進む。途中、木の枝に引っかかったり、靴が泥に埋まったりと散々な目に遭っていたが、ふと遠くの茂みからガサゴソと音が聞こえた。


「まさか……あのニワトリ?」


期待して茂みに近づくと――そこには小さな、普通のニワトリがポツンといた。


「え、これ?」


茜は拍子抜けしながらも、手を伸ばそうとした。だが、次の瞬間――ニワトリは突然猛ダッシュで逃げ出した。


「待って!」


慌てて追いかける茜。だが、ニワトリの足は意外にも速い。森の中を縦横無尽に駆け巡り、茜は泥だらけになりながらも懸命に追跡する。


+++++


「ぜえ、ぜえ……こんな……ニワトリが……」


ついに茜はニワトリを追い詰めた。だが、捕まえる直前、ニワトリが突然キラキラと輝き出し、次の瞬間――人間の姿になった。


「な、何これ!?」


「ふふ、驚いたか?」目の前に現れたのは、金色の鎧をまとった美しい女性。顔には誇らしげな笑みを浮かべている。


「いや、驚くとかそういう問題じゃなくて……あんた、ニワトリだったよね?」


「そうだ。我はこの森を守護する『黄金の戦士』である!」


「黄金の……ニワトリじゃなくて?」


「ニワトリの姿は仮の姿。我は試練を与えるために変身していたのだ!」


「試練って、ただ逃げ回っただけじゃん!?」


茜は完全にツッコミモードに入ったが、黄金の戦士は気にも留めない。


「勇者よ、よくぞ我を見つけた。これで村は救われるであろう。我もニワトリの姿に戻り、村に豊穣をもたらすであろう!」


「いや、だから……それ、ただのニワトリじゃん!」


+++++


結局、茜はニワトリ――いや、黄金の戦士を村に連れ帰った。村人たちは彼女を大歓迎し、感謝の言葉を次々と述べた。


「さすが勇者様! 村はこれで救われました!」


「いや、私は勇者じゃないってば……」


そう言いながらも、村人たちの感謝の気持ちに触れ、茜は少しだけ嬉しくなっていた。


「まあ、いっか。次はもうちょっとまともなクエストにしてほしいけど……」


+++++


次回予告:「城に召喚されたら、王様からフリーターの誘いだった件」

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