微笑みの堕天使
「出所おめでとう後輩君」
今日も今日とて僕と『魔女』の愛の巣と言っても過言じゃない…過言じゃないったら過言じゃない教室にやって来た僕に対し『魔女』はいきなりとんでもない言葉を浴びせた。
「いやいや待ってください先輩。
先輩の言い方ではまるで今まで僕が逮捕され牢屋に入っていたみたいじゃないですか。
確かに昨日僕はあの後一警察署に行きましたよ。
だけどそれはあくまで偶然で奇跡的な落下目撃者だからであるからです。
それに警察署について3分で帰されましたよ。
僕はカップラーメンですかってんですよ」
まったく人が堕ちる姿を直に見るなんてショックで精神崩壊しても可笑しくないんですからね。
「嘘だ」
「な、何が嘘何ですか」
「1分」
「ギクリ」
「後輩君の事だ、3分なんて掛かっていないだろ。
私の見立てでは1分、いやもしかしたら1分も掛かっていないかな」
「くっ、くそーーー。
実はそうなんですよ、先輩の言う通りなんですよ。
僕は落下中の目撃者なんですよ、普通なら時間をかけて僕の精神を誠心誠意気遣いながら話しを聞かなければならないのに、あの人達から来たら
『ああ、君か。
落下目撃したの、ふーん。
はい分かったからもういいよ』
ですよ。
ひどくないですか」
まったく華の男子高校性たる僕に対して何て言う扱いだ。
しかも僕以外の目撃した生徒達には優しく丁寧に気を遣いながら調書しているという始末。
何て言う扱いの差裁判沙汰だよ。
「それは仕方ないよ後輩君。
警察の方々もこれで四回目となるならそんな扱いにもなるさ」
『魔女』の言葉通り僕が警察署に行くのはこれで四度目。
それも全て今回と同じ僕の学校で起きた女子生徒の転落だ。
そうつまりこの学校では既に今年で4人もの生徒が死んでいるのだ。
それに僕は関わっている。
彼女達の落下途中の目撃者として。
「だからこそですよ
こんな奇跡的偶然有りますか4回も目撃しているなんて」
「ああまるで死神だな」
「その表現は流石に傷つきます」
ひどい、流石にひどすぎる。
だが今は傷心している時ではない。
声高く抗議をしなければ。
ゴホン。
「僕は此処に願います。
不当な扱いをなく平等で優しい扱いを」
「本音は」
「フッ、勿論………綺麗な婦警さんとの優しいマンツーマンを所望します」
まじで切実に願います。
ってか何で4回とも男なんだよ。
しかも筋肉モリモリ過ぎてもはやあっ筋肉が人の形をとっている。と過言ではない男性ホルモン100%のおっさんなんだよ。
しかも4回とも同じおっさん。
僕は、僕はアニメやドラマに出てくるようなあっ屈んだら見えそうなぐらい超ミニスカポリスのお姉さんがお姉さんが良かったのにーーーー。
「穢れし欲望がもはや切実な祈りだな」
だって男の子ですからーーーー。
フゥー心の叫びを叫んだらスッキリした。
「嘘だ」
はい全然不服全快です。
だいたい警察署ですよ。
女性警官は必ず居る筈なんです。
なのに何でおっさんに4回、運が悪いにも程があるでしょ。
「いや1回目はともかく2回目3回目は君の行いの結果の当然の処置だと思うが」
「待ってください先輩。
それでは僕がおっさん4回になって当然の行いをしたようではないですか。
誤解がないように申しますが僕は誠実に発言し捜査に協力しました」
そうだ、そうだ。
本当なら
わー何て良い子なんだと、人間全てが君のような善性の塊ならこの世に犯罪は生まれないのにって誉められ惜しまれ讃えられるべきなんです。
「嘘だ。
君は誠実に発言し捜査に協力したと言ったがその実君が目撃した情報を1分で語り終えた後全く関係のない話を59分も語っただろ」
「はいその通りなんです。
だけど先輩しょうがないじゃないですか。
僕が見たのは落下途中の女の子、その時間僅か一瞬なんですよ。
それこそ1分処か10秒で終わる証言に何を言えと言うんですか」
いやまじで一瞬過ぎてほぼ処か全く99%分かんなかったし。
「それに加えカツ丼も所望したろ」
「それはお腹がすいてたからです。
というか以外でしたよまさか自腹とは思いませんでした」
ドラマなんかだと刑事さんが犯人にポンと出してまぁ食えやって言ってたのに実際のところはカツ丼だけではなく親子丼、牛丼、豚丼、天丼、海鮮丼、玉子丼、中華丼、他人丼全て自腹とは。
クッ、この世に仁義はないのか。
「そもそも頼むとしても容疑者であり後輩君はあくまで落下目撃者としての参考人、立場が違うし、君は結局自腹で頼んだだろ」
「はいお腹がすいてたので」
しかしやっぱ警察官御用達だけあってとても美味しかった。
自腹だけど。
「1で怒られ。
2で冷たい目で見られ。
3で飽きられた。
そして4今回に至る。
君への対応は十分だと私は思うが」
『魔女』は数を数える毎にたおやかな白指を上げていった。
ふむ………。
「どこか問題が有りましたか」
「もはや私には君が第一容疑者として逮捕されなかった方が不思議だと思うが」
ハッハハハ。
「またまた先輩は冗談が上手ですね。
僕の頭から爪先まで何処からどう見ても善良な男子高校生である僕にいったいなんの落ち度があると言うんですか」
まったく『魔女』ときたらほんとお茶目さんなんですから。
まぁそんな『魔女』も素敵ですが。
アッハハハハ
「知らぬは我が身」
『魔女』が何か呟いたが僕には分からない、分からないったら分からない。
「そういえば先輩」
「なんだい」
「来たときから思っていたんですが何か嬉しそうですね」
何故か『魔女』は僕が教室に入る前から期限が良さそうだった。
ま、まさかだれか気になる男ができたとか、
だ、だれだだれだ僕の知らない間に『魔女』に近付く男はコーロコロコロコロしなければ絶対許すマジ。
「ほぉ後輩君君は我が校で死人が出た翌日だと言うのに私が死に悼まず愉快そうであると言うんだな」
別に愉快そうとまでは言ってませんよ。
「興味深い」
「え?」
フフフフフ
『魔女』は薄く笑った。
「ただ私は興味深いと思ったんだよ」
「興味深い、ですか?」
何がだろうか。
あっもしかして僕との将来設計かな、まったくもーそれならそうと言ってくれれば良いじゃないですか。
「言っておくが後輩君が思っていることはまったくの見当違いだ。
それこそ鯨が蟻に見えるぐらいの」
ひ、ひどい。
それもう絶対に有り得ないと言ってるようなものじゃないですか。
だって鯨と蟻って生き物と言うカテゴリーだけ同じでその他全てが違うじゃないですか。
どっからどう見ても間違いようがないじゃないですか。
泣きますよ、泣いてしまいますよ、いい年した男子学生が分け目もふらず泣いてしまいますよ。
いいんですか。
「考えても見た前」
はい眼中になしですか。
しかし考えろとな、ふむ…………
「高校生の有るべき健全さですか」
「それは後輩君にとってもっともなく、もっとも考えなければいけないことだろ」
やだ、返しがきつい。
ってか僕そんなに健全さ皆無なんでしょうか。
「まぁ考えると言う点では間違ってはいないが、今回考えるべきは4回も起きた女子生徒落下についてだ」
「悼ましいことこのうえないです」
「嘘だ。
君は彼女達に対し悼ましいなんて慈愛の心は持ち合わせていないだろ。
せいぜい、そうだな、勿体ないといったとこか」
「ハハハ。やっぱり先輩にはお見通しですね。
だって華のピチピチな女子高生ですよ。
数有れど高校生と言うステータスの3年だけの稀少価値ですよ。
しかも皆可愛らしい女の子達だったんですよ。
そんな女の子達と御近づきにもなれなんて勿体ないじゃないですか。
まぁぐちゃっとなっていましたが」
確かに僕は『魔女』の言う通り彼女達に対し悼ましい、可哀想などの悲観は持ち合わせてないし持ち合わせるきは更々ない。
弁明ではないしする気もまた更々ないがこれは別に僕が冷たい人間だからではない。
僕とて僕にとって身近な人間が死を迎えたなら喜んで涙を流そう。
だが今回死を迎えたのは僕にとって微塵も関係ない人達だ。
いや微塵もと言うのは訂正するよ、同じ学校、死の間際の一瞬姿を見た。
確かに米粒以下の小さな関わりはある。
だがそれだけだ、そうそれだけでしかない。
でも此れは僕だけじゃなく皆、人間誰しもがそうだ。
テレビ越しだろうとそれこそすぐ目の前で人が死のうと自分にとって関わりのない人間を誰が可哀想だと思うだろうか。
確かに可哀想だと言う人もいる。
だがそれは本当に心の内からの感情だろうか、表面はそう言っていても中身は凪のように静寂であり無感でしかないのじゃろうか。
だって人間の本性は嘘つき出しかないのだから。
とまぁシリアス気味に言ってみましたがお気になさらず僕は僕、他人は他人それだけですから。
ところで今の僕格好良かったのではないだろうか。
ほらクールで知的な男ってもてると聞きますしクールで知的な僕にピッタリではないか。
「嘘だ。
君はクールでも知的でもない。
面白キャラクターだ」
お、面白キャラ---。
「で、先輩。
結局の結論として何を考えたのですか」
「決まっているだろ」
いや分かんないんですが。
「同じ学校で同じ場所から同じ死に方の女子生徒が4人」
ふむふむ。
「そしてその全てを後輩君、君が目撃し」
ふむふむふむ。
「そのどれもが微笑みながら落下していた」
ふむふむふむふむ。
「まるでミステリーではないか」
ふむふむふむふむふむ………って待ってください。ヤバい、このままじゃあヤバい。
ミステリーだと嬉しそうな『魔女』は僕にとっても嬉しいが、それはあくまで『魔女』が嬉しそうと言う点についてだ。
つまりミステリーと言う点については僕は全然まったくもって嬉しくない。
なぜなら
「このままでは僕と先輩のイチャイチャラブコメ話がミステリー話になってしまうじゃあないですか」
「そんな描写1秒たりとも無かったが」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ僕は反対だ----。