探偵部ただいま発足中!
『放課後、体育館の裏で......』
日が落ちる頃、下駄箱の中にそんな手紙が入っていた。
俺は一般的男子高校生であるが故舞い上がり、直ぐ様指定の場所へ向かった。
「ふはははは!君がここにちゃーんと来てくれるくらい、推理するまでもなくわかったよ!」
お前か。というか何があった。お前は教室ですみっこぐらしてるタイプの人間だったろ。
「何のようだ?」
彼女…時元アリスが持っているものが気になるが、見なかったことにしたい。
「ワトソンくん…私と共に探偵部を作らないかね?」
時元は『探偵部』と書かれた看板を俺の前に掲げながら、推理している様に言った。
まるで俺の返事がわかっているみたいに。
あぁ、何故こうなったんだったか、昨日のことが妙なほど懐かしく思える。
◆◆◆
「ちょっと待って、私のハンカチがどこに行ったっていうのよ!?」
昼休みの教室の中、昼寝してぼんやり過ごす最中そんな叫び声が聞こえた。
寝ぼけ眼を擦りながら惰眠を邪魔した奴を探すと、結城アヤメ──学校では他の追随を許さぬ容姿端麗さで影ではアイドルと呼ばれ、崇拝されているクラスメイトが慌てている姿が見えた。
周りの話を盗み聞きしてみると、彼女は手洗い場から教室に戻ってくるまでの何処かでハンカチをなくしてしまったことがわかった。
「まさか盗まれたんじゃ…!」
一人のクラスメイトが叫ぶと、教室の皆の遊戯さんのハンカチへの認識は『落とし物』から『盗難品』へと変貌した。
かく言う俺もその一人だ。周りのクラスメイトと同じように怪しい奴はいないかと目を光らせていた。
「ん…?」
すごく、とまではいかないが。何処か様子のおかしい奴がいた。あいつは…時元アリスだったか?かなりのコミュ障らしく、声を聞いた物は学校中にもそういないだろう。だが、違和感を覚える。盗んだ事に怯えているというより、むしろどこか…推理しているような。
かのアイドルの困り事を解決したと合っては、俺の人気は鰻登り、モテ人生開幕間違いなしだろう。たぶん。
そう思った俺は迷わず時元さんに話しかけた。
「ねぇ?」
「っ!?」
めっちゃ驚かれた。一瞬彼女が犯人と思う程に。
「…」
時元さんはキョロキョロと辺りを見回す。俺が彼女に話しかけたのか否か疑わしいようだ。
「時元さん、聞きたいことがあるんだ」
「何だね?」
時元が口を開くと、そのオドオドとした様子や小さな声からは想像できないくらいに偉そうな態度を取った。臆してはいけない、これは俺のモテ人生の第一歩なのだ。
「犯人…誰だと思う?」
できる限り敵対心を持ってない、フレンドリーながらも鬱陶しく思われないことを心がけ質問する。
「今の状況で正確な判断は下せんが…女子の可能性が高いんじゃないかな」
「男子の方が盗みたがりそうだけど」
「好みは人それぞれだからね…いや、そういう話じゃない。
そも、ハンカチを出すタイミングなんて手洗い場以外はそうないだろう?」
「こう…何か、すごいスリの上手い奴が盗んだとは?」
我ながらものすごいファンタジーな話をしてしまった気がする。
「…あり得ない話でもないけど…可能性が一番高いのははただの落とし物であることだね」
引かれはしなかったらしい。
ただの『落とし物』か…。
「なら、なんで盗まれたって話になってるんだろう?火のない所に煙は立たないんだし、落とし物の可能性は低いんじゃない?」
「不安や驚きは否応なく最悪の方向へと想像力を掻き立たせる。
デマもまた同様の感情で広がって行くものだ。
周りの話が必ずしも真実だとは限らないってわけさ」
確かにそうかもしれない。さっきはクラスメイトらの話に、今は時元さんの話にと、信じることがコロコロ変わっているのは俺が流されやすい人間だからだろう。
だからといって、俺が彼女の話に納得した事実は変わらない。もっと証拠を集めれば、真実にさえたどり着けるのではないか?
…そうじゃない、俺は惚れたんだ。こんなちゃちな事件なんかと比較にならない事件さえたやすく解決してみせると言わんばかりの、彼女が見せた「探偵の目」に…!
そうと決まれば話は早い、俺は彼女の手を掴んで言った。
「ねぇ、時元さん。俺と一緒に証拠集めしませんか?」
「は…!?」
俺が反射的に立ち上がると時元さんが引っ張って止めた。…あれ、中々失礼な行動をしてしまったような…いやしてる、バッチリしてる。
「時元さんごめ」
「私が君を狂わせる程の探偵オーラを放っていてすまないね。君は別に悪くないよ」
すごい偉そう。助かったから何も言えないけど。
「…すまない、君の名前を聞いてもいいかな?」
俺が彼女に圧倒されているとそう言われた。
…どーせ俺はモブAですよーだ。
「和藤コウです」
「そうか、ではワトソンくん…聞き込みを頼んでいいかね?」
ソンどっから来た。というかそれお前がシャーロック・ホームズになんじゃねーか。
って、頼み事?
「時元さんは聞きに行かないの?」
「ふむ、君は普段の私を知らないようだ、それは仕方がない。何故ならば…!」
「人と話さず、雰囲気を消すことに徹しているからだよね」
「…君、話したこともないのにそこまで知っているとは…大分変わってるね」
「時元さんに言われたくないんだけど!?」
安心して昼寝するため奴にとって周囲の人間のことを把握するのは常識だ。たぶん。
時元さんは雰囲気を消すのに意識を使いすぎて、昼寝をしたことがないのだろう。
「まぁ知っているなら話は早い。私は推理中はこうして自信に満ち溢れているが、それ以外の時は君の語った通りの人間だ。注目されたくないんだ。
ある程度の質問内容は私が決めるから、聞き込み自体は君に頼みたい」
「俺とは普通に会話したよね?」
「ワトソン力が高かったから…かな?」
「ワトソン力」
ワトソン力って何だ。いや何となくはわかるが。
「ということでワトソンくんには、
『結城 アヤメが教室外にいた時間』…犯行可能時間を知りたいんだ。
それと、『結城 アヤメがその間にすれ違った人物』を聞いてきて欲しい。出来るね?
あぁ無論、現場を見るのが大事だと言うことは知っているよ、君の聞き込みが終わり次第向かおう。私はここで待っているよ」
ワトソンくん呼びは続けるのか。
時元さん…もう呼び捨てでも許されると思う。
時元の頼みを纒めて言えば『容疑者を探せ』ということだろう。
「わかった」
俺がそう言うと彼女はまた思考の海に沈んだ。
◇◇◇
「ねぇ?」
「うん?何か用?」
俺はハンカチが盗難品と認識される原因になったクラスメイトに話しかけた。
「俺結城さんの犯人探ししててさ、結城さんが授業後いつ教室を出入りしたのか聞き回ってるんだ…といっても貴方が最初なんだけど」
このクラスメイトは結城さんの大ファンとして知られていたから、一番に盗難品という発想に至っても不思議ではないし、何なら犯人という線も…。
「犯人じゃないからね、信じてもらえないだろうけど」
言われてしまった。
「思ってないよ、俺も盗難品だって思っちゃったし」
俺がそう言うと、クラスメイトの疑わしげな目はほんの少し緩まった。
「結城さんが昼休みの10分後位だったかな、それくらいに教室を出たのを見たよ。
ハンカチがないって言い出したのはついさっき…昼休みから15分経った頃だね」
短いってことは犯行が可能な奴って大分しぼられそうだな。
「ありがとう、他に知ってることはない?
結城さん以外の行動とか…」
「言ったこと以外はあまり覚えてないかな、少なくとも自分はずっと教室にいたよ」
「わかった、情報提供してくれて助かったよ」
「これくらい、結城さんのことを思えば安いものだよ」
俺達はアイコンタクトを交わした。心でわかった。お前は犯人じゃねえな、戦友よ。
となれば次は誰に聞き込むか。
「…」
俺は無言で被害者…結城アヤメを見る。
被害者本人なら犯行時間に誰が教室外にいたか誰よりも把握していることだろう。
とはいえ、モブAたるこの俺が高嶺の花である彼女に話しかけるというのは針のむしろに自ら足を踏み込むのも同然。
いやまぁ、聞き込みだし…必要なことだし…。俺は自分自身を鼓舞し、彼女に話しかけた。
「結城さん!」
やばい、思ったより大声になった。その上ちょっと声が裏返った気がする。ほら、結城さんもびっくりした顔でこっち見てんじゃねーか!
「ど、どうしたのかしら?」
「…情報提供お願いします!」
「…ハンカチのことよね?
提供してほしい情報を言ってくれたら伝えるわ」
冷静だ…その上俺の言いたいことを察してきちんと伝えてくれてる…。俺は遊戯さんの男も女も関係なくなるほどの美を秘めた顔面に見惚れてしまっていたというのに…。
「…はい。結城さんが教室を出たのは昼休み開始から10分後、戻ってきたのはそれから5分経った頃…ですか?」
恥ずかしさで体がカチコチとしてくる。俺はちゃんと喋れているだろうか。
「ええ、そうよ。戻って椅子に座ったときに何だか違和感があってね、そこで気づいたの。
聞きたいのはそれだけ?」
たぶん喋れていたらしい。あと聞きたいことは…。
「行き帰りで誰かとすれ違いませんでしたか?」
「お友達と一緒だったから、少なくとも私のハンカチを盗めるほど近くに来た人はいなかったわ」
「お友達さんの様子は…」
結城さんの取り巻きをしている女の子達から睨まれた。緊張のあまりつい言ってしまったが可能性はそんなにないと思っている。ただただ失敗した。
「あら?心配性ね。それだったらとっくのとうに盗まれていると思うの」
「そ、それもそうですね…」
ですよねー。
聞き込みはこれで十分なはずだ。
時元がいる方向に目を向けると、彼女と視線があった。『ワトソン君は注目されすぎだ!こっちに来たら私にまで注目がくるから止めてくれ』と、力強く言われた気がした。
じゃあどうすれば…。
「…」
時元はスッと立ち上がると教室から出ていった。着いていけということだろう。
「情報はこれで大丈夫かしら?」
あっ、忘れてた。
「はっ、はい!ありがとうございました!」
「いえ、こちらこそ助かるわ、探偵さん」
俺どっちかっていうと助手です。
◇◇◇
時元は教室を出た俺を見ると、空き教室へ向かった。
「驚いたよ、あそこまでの大声出せるんだねワトソンくん」
時元は空き教室のドアを閉めると笑って言った。
「仕方ないだろ、ルッキズムだの何だの言われる現代社会でも美しいものが美しいことに変わりないんだから」
「それはそうだが…にしてもねぇ!」
時元はぷるぷると震えている。俺は敬語が取れてしまっているが時元の対応にはこれくらいがちょうどいいだろう。というか俺もああなるとは思ってなかったし気持ちはめちゃくちゃわかるんだけどさぁ…!
「ふはははは!」
時元はとうとう大声で笑い出した。癖凄いな。
「で、報告なんだが」
「ふむ?あぁ、流石に聞こえていたよ。安心したまえ」
俺が時元の笑い声を断ち切るように言うと、彼女は俺を馬鹿にしてきた。違う気がするが俺の感情はそういう風に捉えてしまう。
「聞いた限りではやはりただの落とし物である可能性が高いね」
「教室から出るまでに10分あるじゃないか、その間に盗まれた可能性は無いのか?」
「忘れたのかい?結城アヤメがハンカチをなくしたのは手洗い場からの帰りだ。その前に失くしているのならそう言ってるはずさ」
「そうだった…。
なら、さっさと職員室行ってあるか見てきた方がいいんじゃないか?」
「最初は誰かがそうするのを待つつもりだったのさ…でも君が話しかけてきたろう?その時思ったんだ」
「…何をだ?」
「単純に考えるより深読みする方が楽しいって。手伝ってくれる人がいるなら尚更ね」
「俺が話しかける前から深読みしているように見えたが」
「雰囲気が雰囲気だったからね、ほんのちょびっとだけ盗難品である可能性を考えて…馬鹿らしいから止めようとしたときに君が話しかけてきたのさ」
「…馬鹿なことに付き合わされて嫌だったか」
「言ったろう?楽しいって。むしろ嬉しいくらいだよ、ありがとうワトソンくん」
…それは良かった。本当に。
「それにしても、結城アヤメは…何というか…」
「結城さんがどうかしたのか?」
「偉そうだ」
「お前が言うか」
「私とて思いもするし言いもするさ。
さて、次は現場検証をするのだろう?昼休みは有限だ!さっさといくぞワトソンくん!」
「ちょっと待て!」
現場の場所は…!
「どうしたんだい?」
時元は僕の声に気づいてくれたようだ。
「…現場って、女子トイレだよな?」
「…あー……」
すごく、気まずい。
「廊下!廊下も通るだろう!?ワトソンくんはそっちを見てくれ!」
時元が助け舟を出してくれた。サンキュー時元。フォーエバー時元。
「わかった!」
俺は急いで目的の廊下へ向かった。
◇◇◇
「…」
ないなー。人通りが多くなろうと少なくなろうとハンカチらしきものは見えなかった。
廊下を不審なくらいにギョロギョロ見ていると後ろから肩を叩かれた。
「ワトソンくん?それでは君が犯人のように見えてしまうよ、ハンカチは見つかったというのに」
「本当か!」
ってあれ…?女子トイレで見つかったということは…
「ちょっとくらいは面白い結果を期待したが、ここまでありきたりだとむしろ笑えてくるよ。ハンカチが上手く仕舞われなかったってわけだね。私も驚きのあまりしばらく固まってしまったよ」
そういうと時元は笑いが堪えきれなかったのか、「ふふっ」と可愛らしい笑みを零した。
…これで俺が彼女を可愛いと思えれば恋が始まったのかもしれないが、癖の強い笑いを聞いてしまったからか、可愛こぶっているように見えてしまう。いや違うことはわかるのだが。
「…あっ」
時元が何かに気づいたような声をあげた途端、彼女は普段通りのオドオドした様子に戻り始めた。
推理が終わってしまえば自信がなくなると言っていたが…本当だったのか。
「どうした?」
「その…このハンカチ!ワトソンくんが結城さんに渡してくれないかなぁ…」
ワトソンくん呼びは変わらないのか。
「すまんが時元だけで返してくれないか?」
「どうして…!?」
捨てられた子犬のような目に俺は罪悪感を抱くが折れられない。
「俺だったら…!犯人扱いされるだろう!?」
そうなのだ。何だったら俺はクラスメイトから『探偵』役だと思われている。結城さんのハンカチを盗んで、まぁ…頬ずりなんかで楽しんだ後、「見つけてきたよ」なんて言って返したと思われてもおかしくない。
時元は適任なのだ。あの教室内でモブに徹していて、女子トイレに入れる存在…条件に見合う人間は多々いるだろうが、俺が犯人ではないと証明できるのは彼女だけなのだ。
「…」
だからその目を止めてくれ!
「わかった!わかったよ、着いていくから、一緒に返すから!」
「返す場所、さっきの空き教室でいい?返すのは私がする…だからワトソンくんは結城さんを呼んできて!」
「わかった。教室には着いてきてくれるよな?」
「…何で?」
「俺が結城さんと空き教室で二人っきりになろうとしてると誤解されるからだ…!見つけただけの奴って感じに振る舞ってくれて構わないから」
「…そうだね、うん、頑張る」
◇◇◇
「待っていたわ!真相はわかったのかしら?」
俺達が教室へ向かうと、結城さんは待ってましたと言わんばかりに俺達を見て言った。
「あ、えと…」
「時元さんが見つけてくれたんです。真相については…ここで話すとアレなので、人に聞かれにくい空き教室に移動しましょう」
「ええ、わかったわ」
結城さんは周りの動揺を抑えるほどに力強い声を出すと、僕達に着いてきてくれた。
◇◇◇
「真相なんですが…」
「単純な話だよ!結城アヤメ、君がハンカチを仕舞いそこねた。ただそれだけ、わかりやすいだろう?」
俺が空き教室の扉を閉めた途端、時元の調子が変わった。推理を披露するのも推理中ということだろうか。
「…」
結城さんは無言かつ無表情で感情が読めない。
「ぷしゅー…」
「結城さん!?」
そう思いきや、急に恥ずかしく思ったときのテンプレみたいなセリフを吐いて倒れ伏してしまった。俺が抱えられる位置にいて良かった。
「あはははは、常々偉そうにしてたバチが当たったのよきっとそうよ、綺麗綺麗言われるからって天狗になったバチが当たったのよ、何が『あら?心配性ね』よ!上から目線にも程があるじゃないの…」
結城さんはどこを見ているのかわからない目をしたまま壊れたラジオのようにブツブツと言葉を吐き続けた。
「大丈夫ですか?」
「私なんてゴミよゴミ。いや顔面は世界遺産レベルよ大事にしなきゃ、でも性格は?偉そうな上から目線女王様とかゴミよねゴミ」
駄目だ。僕の言葉は届かないらしい。
「結城アヤメ!…さん。…えっと」
また元に戻った時元が結城さんに話しかけると、ようやっと結城さんもこちらを見るようになった。
「…その、迷惑かけてごめんなさい。あと、二人共私のハンカチを見つけてくれて、探してくれてありがとう」
結城さんは今までの毒気が抜かれたような態度で微笑んだ。
美人は芸術だ。そこに微笑みが加わればもうそれは芸術を超えた何か…素晴らしいものとしかいいようがない。
「そのっ…!教室が険悪な空気だったことですし、他のクラスメイトさん達にも謝りませんか…?…元から謝る気だったら変なこと言ってごめんなさい」
俺が結城さんの前で石のようになっていると、時元が言った。結城さんのハッとした顔を見るに気がついていなかったようだ。
「…それもそうねありがとう…でも…ぷしゅー」
また倒れた!?俺は結城さんをもう一度抱える。驚きのあまり役得という感情さえ浮かんでこない。
「恥ずかしいのよ…あれだけの振る舞いをしておいて、自分自身の間違いを認めてしまうなんて、謝るなんて…」
「謝りたい、とは思っているんですね」
「そうよ…!でも…」
俺と時元は結城さんの手を掴んだ。
「「結城さん、俺(私)達と一緒に謝りに行きませんか?」」
ハモった。時元がしようとしていることは予想できたがまさかここまでハモれるとは思ってもみなかった。
「着いてきてくれるの?」
結城さんが涙声で言うと、俺達は頷いた。
「ありがとう…」
俺達は結城さんを立ち上がらせ、一緒に教室へと向かった。
◇◇◇
「みんな…ごめんなさい!ハンカチは私が落としちゃっただけなの…心配させて、迷惑かけて、本当にごめんなさい!」
結城さんは教室につくと堰を切るように言い、不安げに周囲を見回していた。
「良かったぁ!」
「結城さんに何もなくて何よりです!」
「それを言うなら、俺たちだって悪いです!」
「最初に盗まれたものだと疑ったのは自分です!結城さんより自分の方が非が大きいですよ!」
「私達もそれ信じちゃったからね〜しゃあないよ」
「皆…私に、怒らないの?」
言葉が重なることはないが、彼女だけを責める言葉がなかったのは確かだ。
「なぁ、ワトソンくん一ついいかね?」
俺がほっとした気持ちで眺めていると、時元は小声でいった。
「何だ?」
「本当に…これで終わりだと思うかね?」
「終わりだろ、結城さんも皆もおあいこってこった」
「私にはそう見えないんだ」
信じがたいことだとは思ったが、時元の言ったことだと思うと、根拠もないのに俺の胸にストンと落ちる。
俺はやっぱり流されやすい人間だ。時元にならそれで良いと思った。
◆◆◆
それで終わりだと思ってたんだけどなぁ…!
いや?まぁ、うん。あの手紙が結城さんからの告白かと思いはしたんだけどさぁ…。
探偵部って何だよ、本当に。
本当に、探偵って奴は俺の心がわかっているみたいに!
「わかった。作ろうか、探偵部」
入るよ!何するかは全くわからないけどさぁ!
時元となら絶対に楽しいことはわかるからさぁ!
「私も作りたい!」
隠れていたのかひょこっと結城さんが現れる。
え…今なんて?
「えっと…私の想定外でしたが、大歓迎だよ!よろしく!お願いします…」
時元は驚きのあまり態度がごちゃ混ぜになっている。後でからかってやろっと。
「っていうか、結城さんは何で探偵部に入ろうとしてるの!?」
「ん?そりゃ、…二人には助けられたし、それにねっ」
そういうと結城さんは機敏な動きで俺を押し倒した。
「武術は得意なの。力が必要なら私の出番だと思って」
強い…。だからハンカチを返す時警戒する素振りなく空き教室に来てくれたのか。
「あと…こんな私だけど…出来るなら、二人と仲良くしたいの。許されるかな…?」
俺と時元は顔を見合わせた。
「「もちろん!」」
モテ人生は始まらなかったが、これはこれで楽しいから良いか。そう思えた。
もし良ければ、評価や感想などを下さると何であれ励みになります。
ここまでご覧下さりありがとうございました!