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ラブレターは黒歴史か否か

作者: 香坂 悟

手紙・・・人に贈る文書。歴史において色々な役割を果たしてきた。

これはとある高校の文学同好会の話である。


「これから野口君と長谷川さんには1ケ月の間に、お互いに宛てたラブレターを書いて貰います。」


文学同好会の顧問である谷先生は急にそんな事を言いだした。

はぁ・・・僕と長谷川さんは突拍子のない谷先生の提案にため息をついた。


「谷先生。いつもの事なのですが・・・どうしてですか?」


僕は谷先生に質問をする。

谷先生、いつも気まぐれで課題だすからね。

この間なんて飛んでいたトンボを見て「トンボが主人公の話を書いてください」なんていきなり課題を出してきたし。

まぁ、きちんと評価はして貰えるので、そこは文学同好会の顧問ではある。


「日本史の授業していたら百人一首の話が出ましてね。和歌の中には恋の歌あるのはご存知だと思います。和歌とは当時のラブレターであり、ラブレターといえば黒歴史とも言われていますが、和歌にはそういったものは感じませんよね。もしかしたら、何か理由があるのでは思い今回の課題としました。」


あ、谷先生って日本史の先生だっけ。

いや、それって古典の知識ありきだし・・・なければ単なる和歌のかるた・・・


「おや、野口君が面白い顔をしていますね。うん、この課題は間違っていない様ですね。何故和歌でないのかについては文学同好会だから分かりますよね。期間は1ケ月。ラブレターの渡し方についてはお二人にお任せします。あと、ラブレターは私が後で回収しますので捨てたりはしないで下さいね。」


谷先生はそういうと、部室から出て行った。

残された僕と長谷川さんというと・・・


「野口君どうする?」

「うーん・・・とりあえずやってみようか。まずは僕から長谷川さんに書くよ。」

「じゃあ、楽しみにしているね。」


そんなやりとりでお茶を濁して家に帰った。



自分から書くとは言ったものの、ラブレターなんて初めて書く。

更に言えば、僕は長谷川さんと話はするけど勉強の話くらいだ・・・


自室の机で初めて書くラブレターについて考えた。


とりあえず、長谷川さんについて知っている事を箇条書きにまとめてみよう。


・同じクラス

・身長は低め(たぶん140台くらい?)

・髪は肩にかかるくらいの長さ(体育の時は後ろでまとめている)

・文系寄り(理系は得意ではない。良くテストの話をするので。)

・気さく(文学少女というにはすごく話しやすいし、よく話しかけられる・・・偏見かな。)

・目はパッチリしている

・少したれ目、左目に小さな涙ぼくろがある

体型は・・・うん、やめておこう。


・・・あれ?意外と出てきた?

後は長谷川さんを褒める感じの内容を考えて書けばいいのかな?

この辺は初めて書くからね・・・うん。


「これでいいかな。」


レポート用紙を一枚とり三つ折りにして、封筒に入れた。



次の日、長谷川さんにそのラブレターを渡した。


「あ、例の課題だね。予想より早かったね。」


長谷川さんの話だと、僕が長谷川さんにラブレターを渡すのは次の週くらいではないかと予想していたらしい。


「ラブレターなんて初めて書くからね。」

「じゃあ、家に帰ってからゆっくり読むね。」


長谷川さんの返事で気付いた・・・すぐに読まれる事は全く考えていなかった。

そして、ゆっくり読まれる事も考えていなかったからドキドキした。


「どうしたの?」

「ラブレターを読まれるんだよなぁと思ってね。」

「え、当たり前だよね??」


長谷川さんは首を傾げる。

手紙だから読まれる事は当たり前なのだ。


「まぁ、当たり前の事だけどね。ただ、本当に書く事だけしか考えていなかった。」


僕がそう答えると、長谷川さんは何かに納得した様子だった。


「そうなんだ。野口君のラブレター、ちょっと楽しみにしているね。」


そんな気軽な返事に、僕は少しドキッとした。



「野口君、おまたせ。」


長谷川さんにラブレターを渡して3日後にお返しがきた。


全体は水色でレース模様がワンポイントのお洒落な便箋。

長谷川さんから手渡されて、「もっと可愛い物にしておけば良かった。」と僕は後悔する。


「あの・・・家に帰ってから、一人で読んで欲しいかな。」


手紙を渡した後、長谷川さんははにかみながら僕に言った。


「あぁ、それ分かるよ。ちゃんと一人で見るから。」

「うん・・・。」


何か長谷川さんは嬉しそうだった。



その日の夜。

自分の部屋で一人、長谷川さんのラブレターを読んだ。


・・・


・・・・・・


僕の事をそこまで見ていてくれたんだ・・・

恥ずかしさより、嬉しさがこみ上げてきた。


返事が書きたい。


・・・でも、便箋も何もなかった。

ちゃんと買いにいこう。



次の日からは気がつけば目が長谷川さんの方ばかり追ってしまい

時々、クラスメイトの佐竹から少しからかわれる。



放課後

僕は便箋を買いに文房具屋に行った。


「結構な種類あるんだなぁ・・・。」


初めて便箋のコーナーを見たけど、割とあるんだなぁと感心した。

その中から選ぶものは


「長谷川さんが喜んでくれそうな物・・・と。」


これについては決まっていた。

色はピンクをベースにしたもので良いかな。


後はデザイン・・・これはちょっと悩んだ。

複数購入するには持ち合わせがなかったので、厳選に厳選を重ねて・・・


便箋を購入した後は早速返事を書いた。



次の日の部活

長谷川さんにラブレターを渡すと、凄く驚いていた。

でも、長谷川さんはどこか嬉しそうな表情を見せていて


「ありがとう、大事に読むね・・・」


と言ってくれた。

あらためて“大事に読む”と言われると、恥ずかしさもあり嬉しさもあり


「うん。」


と返事をした。

このちょっとした言葉にどれだけの意味がこもったのかは僕自身しか知らない。



次の日

体育の授業で男子はハードル、女子は短距離だった。

長谷川さんがこちらに気づいたみたいで小さく手を振ってくれた。

そして、佐竹にからかわれる。


「野口って長谷川と付き合っているの?」

「いや、付き合ってないよ。まぁ同じ部活で普通に話せる仲かな。」

「それにしては野口は長谷川に熱い視線送っているし、長谷川は満更でもないみたいだし、脈あるんじゃね?」


長谷川さんと付き合う・・・考えた事がなかった。


「・・・。」

「まぁ頑張れよ。」


何か応援された。



放課後、本を読んでいると


「ごめんね。明日にはちゃんと出すから。」


長谷川さんがいきなり謝ってきた。

おそらく、返事の事かな。長谷川さんの事を目で追ってしまっていたから催促だと思われたのかな。


「あ、催促させるつもりじゃなかったんだ。最近、何かと長谷川さんの事を・・・あ。」

「あ・・・。」


部室に少し沈黙が包む。

その沈黙を破ったのは部室のドアが開いた音、入ってきたのは顧問の谷先生だった。


「二人とも来ていますね。課題の方はどうですか?」

「はい、問題ありません。」

「私も問題ありません。」

「そうですか、それでは頑張ってくださいね。」


軽く挨拶を済ませると、谷先生は部室から出て行った。


「そろそろ帰ろうか・・・」

「うん・・・」


僕は話を聞かれなかった事にして、長谷川さんもそれに応じてくれた。



夜は自室で考え事をしていた。


「長谷川さん・・・」


意識すると、本当に好きになっていた事に驚きを隠せなかった。

そして、あの返事を書いた事を思うとすごく顔が熱くなっていて・・・寝よう。



次の日の部活

その日の授業は頭がいっぱいで、気が付けば放課後・・・


「野口君、おまたせ。」


長谷川さんがラブレターを両手で差し出した。


「ありがとう。家に帰ってから大事に読ませてもらうよ。」

「うん。」



夜、長谷川さんの返事を読んだ。


・・・やっぱり、僕は長谷川さんが好きなんだ。

抑えきれそうにない気持ち、もっと長谷川さんの事を知りたい・・・




次の週

僕はラブレターを添えて長谷川さんに告白した。


「長谷川和美さん、好きです。僕と付き合ってもらえませんか?」

「・・・はい。」


シンプルな方が良いと思ったら、自然と告白出来た事に驚いた。

そして、長谷川さんも受け入れてくれた。


あまりにも上手くいきすぎて、夢かと思ったけど

隣で微笑んでいる長谷川さんを見ると、夢でもいいかなと思えてきた。



次の日から部活の時間はお互いの事を話していた。

好きな物、好きな事、休みの時に何をしているのか・・・

付き合う前までは勉強の話とか必要最低限なものばかりだったけど、色々な話が出来てとても嬉しかった。



体育の授業日、この日は大体佐竹にいじられる日・・・

お互いに目が合ったら小さく手を振りあった。


「野口、長谷川と付き合わないのか?」

「いや、付き合っているよ。」

「そうか、付き合って・・・・はぁ?早くね??」


佐竹の指摘も分からなくもないけど


「まぁ、好きだと分かったらすんなりとね。」

「いやぁ、てっきり奥手だと思ってたんだけど、野口の事感心したよ。」


僕自身が一番驚いていると思う。

自分でも物事をはっきり言うタイプではないのは良く分かっているから。


「恋って人を変えるのかな・・・」

「お前が言うと冗談に聞こえないからやめておけ。」


佐竹からもっともなツッコミを受けた。

あながち冗談でもないんだけどね。



次の日、部室で長谷川さんからラブレターを受け取った。


「長谷川さんありがとう。」

「うん。ラブレターは続けるの?」

「出来れば続けたい・・・いいかな?」

「うん・・・」


ラブレター自体は付き合っていても続けていいとは思う。

直接話せなかった事なんかも知れたらいいな。



週末

特に予定なく外に出ていたら、長谷川さんにばったり会った。


「あ、野口君。」

「長谷川さん、こんにちは。」


長谷川さんの私服姿を初めて見たけど・・・


「・・・可愛い。」


あまりファッションには詳しくないけど、全体的に少し落ち着いた色合いとふんわりとした感じがとても似合っていて、思わず声に出てた。


「ありがとう。」


長谷川さんの少しはにかむ様子がとても可愛かった。

このまま帰るのも何か勿体ない気がしたので


「長谷川さん、もし良かったらだけど・・・お茶しませんか?」


自然とそんな言葉が出た。


「門限あるけど、少し時間あるから・・・」



近くのファミレスに入って、ドリンクバーを頼んだ。


「取りに行ってくるよ。長谷川さんはアイスティーで良かったかな。」

「ありがとう。」


長谷川さんにはアイスティー、僕はコーヒーを持って席についた。


「これってデートになるのかな?」


・・・見落としてた。

流石にこれをデートにするにはちょっと・・・


「長谷川さん、改めて初デートに誘わせてもらっていいかな。」

「・・・楽しみに待ってるね。」


長谷川さんの表情がほころんだ・・・緊張させてしまっていたかな。

どんなデートにしようかな。


その後は時間が許す限り長谷川さんと話を楽しんだ。



次の日、急遽全校集会が開かれた。

内容はこの学校の生徒から万引きが出たという話だった。

被害が出る前に制服姿の生徒が目撃されていたらしい。

部室で長谷川さんと話をしていた。


「万引きかぁ・・・まぁ、僕たちには関係ないよね。」

「そうだね。」


カバンからラブレターを取り出して長谷川さんに渡した。


「あ、次の日曜日空いているかな?」

「大丈夫だよ。」


念の為、長谷川さんの予定を確認した上でデートの話を切り出した。

昨日は何も準備できなかったからきちんとしたい。


「昨日は成り行きというか、一緒にいたかったからあんな感じになったけど・・・その、映画に行きませんか?」

「うん、もしかしてあの映画?」

「あ、やっぱり長谷川さんも気になっていたんだ。」


今週からある人気恋愛小説の映画があるらしく、長谷川さんも興味あると思ったんだけど当たってた。



次の日、体育の授業


「そういえば、長谷川とキスした?」


佐竹の質問に僕は吹きだした。


「ちょっ!!・・・いや、まだだけど。」

「お前の事だからそのくらいいったのかなぁってね。」


チラッと長谷川さんの方を見ると、遠くから首を傾げていた。


「そういえば、体育の授業で佐竹君と何を話していたの?」


部活中・・・もちろん、その話にはなるよね。

隠してもしょうがないので正直に話す事にした。


「その、佐竹から長谷川さんとキスしたのかと聞かれて・・・」

「!!」


それは驚くよね・・・


「・・・野口君は私とキスしたいの?」

「!!」


お返しとばかりに長谷川さんから驚きの質問をされる。


「・・・正直に言えばしたい。」

「・・・そうなんだ。」


そこは正直に答える。ただ、大事な彼女でもあるから。


「でも・・・雰囲気は大事だと思うし、無理矢理もいけないし・・・!!」


唇にあたる優しい感触、それが長谷川さんの唇の感触だと気づくのに数秒かかった。


「えっ!?」

「・・・正直に答えたご褒美・・・・・・今、二人きりだし・・・」


キスした後、背を向ける長谷川さん。

顔が耳まで真っ赤・・・いや、そんなに恥ずかしかったなら・・・

今はそんなツッコミはいいや。


「ありがとう。」


ただ、目の前の彼女を離したくなくて後ろからそっと抱きしめた。


「うん・・・。」



次の日の放課後

僕は便箋を探しに文房具屋に来ていた。

便箋を選んでいると


「そこの君、ちょっといい?」

「僕ですか?」


振り向くと中年くらいの女性・・・見覚えはない。


「えぇ。ちょっと話を聞きたいんだけどいいかな。」

「はい。」


とりあえず話を聞く事にしてみた。


「その便箋は何に使うのかな?」

「彼女宛の手紙なんです。」


男子高校生には似合わない便箋持っていたからかな。

質問に答えると女性は目を丸くしていた。


「最近の子ってスマホとかを使うと思ってたんだけど・・・」

「部活が文芸同好会なので。」

「青春ねぇ・・・悪かったわね、引き留めてしまって。」


女性はそう言うと、別コーナーへ行った。

僕は会計を済ませてから、そのまま帰宅する。

一体何だったのだろうか・・・



次の日、部活で長谷川さんにその話をしたら


「それ、万引きと思われたんじゃないかな?」


そんな返事が来た。

言われてみると思い当たる事しかない。


「あと・・・確かに彼女なんだけど、そう言われるのってちょっとくすぐったいかな・・・。」

「あ・・・。」


そういえば、僕が長谷川さんの事を“彼女”と呼ぶのは初めてかもしれない。

思っていても、直接声に出すのはちょっと違うから。


「返事は期待しても良いよね・・・私の彼氏さん。」


そう言うと、僕にラブレターを渡してくれた。

付き合ってからお互いに彼氏・彼女という言葉を使うのは新鮮で、嬉しくて恥ずかしくて・・・


「確かにちょっとくすぐったいかも。」


僕は苦笑いしながら彼女からラブレターを受け取った。


自室で読みながら考える・・・

恋の和歌が当時のラブレターで現代から見れば芸術の一つであっても、当事者がどれだけの思いを込めていたかなんて僕には分からない。

自由恋愛で言葉も自由な今でもこんなに好きな気持ちが抑えきれないのだから。



初デートの日

・・・準備は出来た。あらためて意識すると緊張で心臓の音が聞こえてくる。

長谷川さんの待つ映画館へ行く。


緊張のあまり、予定の2時間前・・・


「早く来過ぎた・・・でも、遅刻するよりはましか。」


・・・と思ってたら


「あ、野口君・・・」


長谷川さんが既にいた・・・


「え、あ・・・うん・・・。って、今はそんな場合じゃない。」


とりあえず、落ち着いて話せる所に行こう。

彼女の手を取り、近くのファミレスへ行く。

ドリンクバーを頼んで、一息ついてから理由を聞く事にした。


「どうしたの?予定より全然早いけど・・・」

「その、すごく楽しみで・・・つい。」


・・・要はその映画をすごく楽しみにしていたらしい。

な、なんだ・・・すごく焦った・・・


「てっきり定番の『遅くなってごめん』を聞けるかなぁと思ったんだけどね。」

「もう、女の子だってちゃんと準備くらいはするよ。」


僕が軽口を叩くと、彼女は冷静にツッコミを入れた。

そんなやり取りにお互い笑い合う。


「それにしても、お互い早い時間に来てしまうなんてね。焦り過ぎて長谷川さんの服を褒め忘れていたよ。」

「今からでも受け付けているけど、どうかな?」


あらためて彼女を見つめる。

ちょっと照れた仕草が可愛いけど、ちゃんと服を褒めないとね。


「この前の服も可愛かったけど、今日のは紺色でしまりがあって良いね。」

「ありがとう。野口君も格好いいよ。」


映画まで時間はあるので少し話をした。



映画の方は・・・


「なんというか・・・普通に泣けた。悲恋と思ったらあそこで大逆転ハッピーエンドだったのも意外かな。」

「私は原作のファンだけど、俳優さんがはまっていて想像以上にいい出来だったね・・・」


周りを見ると、泣いているカップルがちらほらと・・・

その中の一組だと思うとちょっとくすぐったい。


「どうしたの?」


彼女が顔を覗き込んだ。


「うん。周りを見たら泣いているカップルがいて、僕たちもその一組なんだなぁって思ったらね・・・。」


不用意にそんな事を言ったからか、彼女は顔を真っ赤にしていた。


「うん・・・。」


そんな可愛い彼女を離したくない・・・僕は改めてそう思っていた。

その日は映画の余韻に浸りながら、彼女と話をしていった。



次の日、また全校集会があった。

便箋を買っている文房具店が被害にあったらしく、被害前には制服姿の男子生徒が目撃されている。


僕は生徒指導室に呼ばれた。


「野口、お前が呼ばれた理由は分かるか?」

「いいえ。」


いきなり学年主任の狩野先生に呼び出される様な理由はないのではっきり否定する。


「お前があの文房具屋で目撃されているのは知っている。」

「はい。便箋を買うのに利用していますから。」


シビレを切らした狩野先生は僕の肩を掴んで


「正直に言ってくれないか?こちらはお前がやったって話を聞いているんだ。」


僕は流石にカチンと来た。


「誰から聞いた話か知りませんが、僕がやるわけないじゃないですかっ!!好きな人に贈る物をどうして盗まないといけないんですか。ちゃんとレシートだってありますよ。」


財布からレシートを出して


「レシートからお店の購入履歴分かるはずですよね?」

「うっ・・・まぁ、レシートのコピーはとらせてもらう。」


レシートのコピーをとって返してもらった。



生徒指導室から出ると長谷川さんが心配そうにしていた。


「野口君・・・凄い大きな声で怒っていたけど、大丈夫?」


思っていたより大声が出ていたんだ、彼女に心配かけたらダメだよね。


「こんな所で話すのもアレだし、部室に行こう。」

「うん。」



部室に入ってから、あらためて彼女に事情を話した。


「誰だろうね、野口君が万引きしたなんて言った人は。」

「狩野先生も誰かは言わなかったね。まぁ、学生服姿で行ってたのが不用心だったかもね。」


僕はカバンからラブレターを取り出して彼女に渡した。


「大好きな彼女に贈る物なんだから盗むなんてとんでもないよね。」

「うん。」


彼女は笑顔で受け取ってくれる。

こんな笑顔に胸を張れる自分でいたい。



次の日・・・

学校に僕が万引きをしていたという噂が広がっていた。

そして、長谷川さんと付き合っているという噂も。


「野口君、気にする事ないよ。」

「うん。」



次の日、昼休み

職員室に呼び出される。


「なぁ、野口。正直に話してくれないか?長谷川だって困るだろう?」

「正直に話せるのは長谷川さんとお付き合いしている事くらいですが。」

「いや、そうじゃない。万引きの事だよ。噂になっているじゃないか。」


担任の佐倉先生からも万引きの話が出る。

しかも、彼女を脅しの材料にするとか・・・


「はっきり言いますけど、僕ではありません。彼女にも胸張って言えます。」


・・・でも、根も葉もない噂とはいえ彼女を巻き込むのは・・・



放課後

僕は彼女に話を切り出そうと考えていると・・・


「待って・・・」


先に彼女から言われる。


「え・・・。」


僕は戸惑う。


「『別れよう。』って言うんだよね。」

「!!」


僕の考えは見透かされていた。


「それが誤解でも、私に迷惑をかけたくないって。でも、私は迷惑じゃない。」

「でも・・・」


僕の言葉を彼女は遮った。


「だから、待ってほしいの。」

「・・・。」


僕は彼女に何も言えないまま、その日は終わった。



次の日

部室で長谷川さんからラブレターを渡された。


「野口君。ここで開けてほしいな。」


僕は彼女の言う通りここで開いた。

中に入っていたのは水族館のチケットだった。


「私から野口君をデートに誘います。次の週末に行きましょう。それで・・・」

「うん・・・。」


彼女が言いたい事は分かったので僕は素直に頷いた。



次の日・・・

長谷川さんと話す事無く、家路につく。


「・・・あ、シャーペンの芯が切れかかってた。」


私服で文房具店に行くと、この間の女性に声をかけられた。


「あら、元気ないわね。もしかして、彼女さんに振られちゃった?」


遠慮なくデリケートな部分を突いてくる・・・


「いえ。そういえば、おばさんは万引きを見張っている人なんですよね。」

「あ、やっぱり分かっちゃった?一応、内緒にしておいてね。」


あっさりと認めたので、僕は学校での万引きの件を話した。


「あの、おばさんが学校に“僕が万引きをした”という話をしたんですか?」

「あら?私は“そんな”報告はしてないわね。まだ誰なのか分からないのよ。・・・にしても・・・ありがとう、参考になったわ。」


おばさんはブツブツとつぶやきながら別の場所へ移動した。



週末

彼女とのデートになる。

少し遠出になる為、駅で待ち合わせ。

やっぱり可愛いなぁ・・・


今日の服もとても可愛い・・・でも、声が出なかった。


「今日は褒めてくれないんだね・・・。」


少し悲しそうな彼女の顔に応えられないのがつらい・・・


彼女との時間がこんなにつらくなるとは思わなかった・・・


色々な展示を眺めていくうちに時間も過ぎていき・・・



「野口君、受け取ってくれないかな。」


彼女がバッグから出したのはラブレターだった。

僕は彼女に言われるまま受け取った。


「これは・・・」

「ここで読んでほしいな。」


彼女のラブレターを読んだ・・・


・・・


・・・・・・


涙が止まらなかった・・・


「・・・泣いてくれるんだね・・・。これでラブレターはおしまい。」


僕たちはそれぞれの帰路へつく。



次の週・・・

僕と長谷川さんは谷先生から部室に呼ばれた。


「二人とも揃いましたね。」

「僕の万引きの件ですか?」


狩野先生、佐倉先生ときたら谷先生からもその話が出ると思っていたので

先制して話を切り出した。


しかし・・・


「え?あぁ・・・万引きの件ですか?私は野口君を信用していますよ?顧問としての付き合いも長いですし、そんな事をする子じゃないのは知っているつもりです。」

「じゃあ・・・」

「お二人とも課題の件忘れていませんか?」


谷先生はあっさりと流したと思えば、課題の話を続けた。


「「あ・・・」」


僕と長谷川さんは声が合わさる。


「では、明日ラブレターの提出をお願いしますね。」


そういうと、部室を出た。



次の日

二人で出したラブレターを見て谷先生が驚いていた。


「いやぁ、驚きましたよ。ここまでラブレターのやり取りをしていたんですね。私の予想だとお互いに同じタイミングで一通ずつ出すものだと思っていました。」


へ?


「え、先生は『1ケ月の間に、お互いに宛てたラブレターを書いて貰います。』って言ってましたよね??」

「はい、なので1ケ月の間であれば好きなタイミングで一通ずつ送れば課題はクリアできますね。」



・・・あ。


思い当たる節はあった、2回目のラブレターを出した時の・・・

僕が長谷川さんを見ると、彼女は頷いた。


「それでは、二人のラブレターを拝見しますね。」


谷先生は僕たちのラブレターを読んでいく・・・

長い沈黙かと思ったら、いきなり部室のドアが開いた。


「野口はいるか?」

「はい。」


入ってきたのは狩野先生だった。


「この間はすまなかった。」

「えっと、何の事でしょうか??」


いきなり謝られてもさっぱりだった。


「お、そうだな。森さんから『万引きをしたと情報提供した生徒を調べてほしい。』と連絡があってな、言う通りに調べたらその生徒が万引きする所を現行犯で捕まえる事が出来たんだ。お前の協力があったって聞いたぞ、ありがとうな。」

「そうなんですね。」


狩野先生は要件を話すと、忙しそうに部室を出た。


「良かったね、疑いが晴れて。」


長谷川さんが笑顔で言うけど、僕は・・・



「・・・コホン。」


谷先生が咳ばらいをした。読み終わって評価の時間に入る。


「万引き犯が捕まった様で良かったですね。」

「はい。」


僕は素直に受けた。


「では・・・まず、謝らないといけない事があります。『ラブレターが黒歴史か?』については答えは出ています。」

「え・・・」


僕は今までの苦労は?と言いたい気持ちを抑える。


「黒歴史ってあくまで個人的な視点なのですよ。なので、歴史という視点から見れば単純に歴史の一コマに過ぎないのです。もしかしたら、百人一首の恋の歌を歌った方にとってはあの恋の歌も黒歴史かもしれませんし。結果は評価の後にお二人に聞く事にします。」


谷先生は一旦ここで話を区切った。


「次は野口君のラブレターですね・・・いやぁ、本当に変わりましたね。まず、見た目が単純な手紙から・・・長谷川さんに合わせたものに変わっていて驚きました。内容も単純に褒める内容から情熱的な内容になっていました。恋は人を変えたというんでしょうかね。」

「!!」


あえて言われるとすごく恥ずかしかった。


「あ、最初のラブレターでは単純に長谷川さんを褒める内容ですが、1つ疑問があったんですよ。」

「疑問ですか?」


僕は谷先生の疑問に答える用意をする。


「えぇ、長谷川さんって左目に涙ぼくろがあったんですね。」

「え、ありますよ・・・あれ?」


隣に座っている長谷川さんの左目を見ると・・・


「・・・ここからだと見えない。」


ここからだと長谷川さんの涙ぼくろは見えない。


「はい。その疑問は長谷川さんのラブレターで解決できました。」


長谷川さんのラブレターから??

谷先生は話を続ける。


「長谷川さんも野口君のラブレターに感化された所は見受けられますが・・・えっと、長谷川さんに質問していいですか?」

「はい、何でしょうか?」


長谷川さんの了承を受け取ると谷先生は質問する。


「この場合は答え合わせというべきでしょうか。長谷川さんはこの課題の前から野口君の事が好きだったのでは?」


え?僕は谷先生の突拍子のない質問に驚くが

その質問に・・・


「はい。」


長谷川さんがはっきりと答えた。


「え・・・?」


僕は長谷川さんを見ると、少し呆れ顔をされた。

そんな呆れ顔も可愛いのが何とも・・・


「1年の体育祭の時・・・覚えてない?」

「1年の体育祭・・・途中で長谷川さんが貧血で倒れて・・・あ・・・」


あの時は必死で医務室に届けて・・・

その時に長谷川さんの顔を近くで見ていたから涙ぼくろに気づいたのか。


「あの時から野口君の事が気になって・・・気が付いたら好きになっていました。」

「長谷川さん・・・。」


僕は気付いてなかったんだ・・・


「実はね、私も涙ぼくろの事知らなくて・・・野口君のラブレターを見た後、鏡で見て・・・。」


長谷川さんの話し声がどんどん途切れていく・・・


「だから、思いを伝えてみたの・・・答えが返って来た事・・・私を好きだと言ってくれた事に・・・」


繋がる長谷川さんの思い一つ一つに、僕は心が締めつけられる・・・


谷先生は僕たちの様子を見てまとめた。


「それでは、私は失礼しますね。これは二人の恋だから評価なんて出来ませんよ。二人が決める事なんです。」



谷先生が部室を出て、僕と長谷川さんの2人になる。

少し、沈黙が流れ・・・僕は口を開いた。


「ごめん、長谷川さん・・・僕は・・・。」

「・・・。」


首を振った


「そんな事じゃない。自分勝手でごめんっ!!」

「!!」


僕は長谷川さんの唇を奪う形でキスをする。


「離したくないんだ。」


そして、長谷川さんを抱きしめた。


「・・・私も・・・離れたくない。」


長谷川さんも僕の背中に手を回して、2度目のキスを交わした。

このまま、この時がずっと続いてほしいと僕たちは願った。




10年後・・・

僕は式場にいる、伴侶となる花嫁を見る為に。


「入るよ。」


花嫁衣裳がとてもまぶしく・・・


「とても綺麗だよ、和美。」

「うん、孝史も格好いいよ。」


僕たちは結婚する。

付き合ってから、喧嘩したりもしたけど二人で乗り越えていった。

これからも色々あるだろうけど、二人ならきっと乗り越えられる気がするんだ。






「あ、そういえば・・・」


和美がバッグからラブレターを取り出した。


「この間、谷先生に会ってね。『孝史と結婚する』って話をしたら・・・あの日の解答は出ましたか?って話が出て。」


僕はキョトンとした


「それは決まっているよね。」


和美も同じ意見の様で


「うん。」


「「ラブレターは黒歴史ではない。」」


僕たちは同じ回答をした。


(完)

最後まで見ていただきありがとうございます。


今回は、小説家になろうの「秋の小説」(「手紙」がテーマの歴史小説)で話を書いたつもりが・・・

これ、普通に恋愛小説じゃんwという自分でノリツッコミをする事態になった作品です(笑)


まぁ、人生をその人の歴史と拡大解釈すれば・・・うん、ダメでしたねw



仕事の都合で気が向いた時に投稿するスタイルですが、作家活動は続けていく予定です。

評価いただけますと大変ありがたいですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 谷先生のポジションが最高です! 2人にいい課題出してくれましたね!
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