スキルミスった・・・
僕の名前は鈴木健斗。
いや、今の名前はデーヴィド・アイギス。
生まれて5分。既に人生絶望している。
こうなった理由は僕が転生する前に遡る。
僕は超陰キャのニートだった。
もちろん彼女なんていたことがない。
死因はカップラーメンしか食べてなかったせいで栄養が偏り、栄養失調で呆気なく死んだ。
死ぬと、目の前に女神様のような人がいた。
「私の名はミリオナ。女神です。あなたは死にました。」
このパターンはと思い、僕も転生できるのかと期待に胸を躍らせ、目の前にいる女神様に聞いてみた。
「僕はこれからどうなるんでしょうか?」
女神様は見た目通りの優しい性格で質問に答えてくれた。
「貴方には転生してもらいます。その際にスキルを2つ選びスキルポイントを振ってください。」
僕は思った通り転生できると言われ、さらにスキルまで自由に選べると聞いて次の人生は勝ち組だと確信した。
ここまではよかった。
そう、ここまでは。
僕はスキル決めをしくじったのだ。
僕はスキルを漫画の主人公たちが使っているような戦闘系のものにしようと思っていた。
しかし、ここで超陰キャが出てしまったのだ。
僕は小・中・高とずっと陽キャ組に憧れ続けてきた。
スキル表に”コミュ力”を見つけた途端、陽キャになりたいという想いが爆発して理性が飛び、今思えば頭のおかしいことを女神様に聞いていた。
「陽キャになれるスキルってありますか???」
僕は女神様にグッと近寄り鼻と鼻がくっつくくらいの距離で聞いた。
目は血走っていたと思う。
「よ、陽キャですか‥‥?」
女神様は困ったような顔をしていたが理性の飛んでいる僕はそれに気づかなかった。
「この”コミュ力”とはどんなスキルなんでしょうか??」
この時の僕でもスキルの名前だけでスキルを決めるような馬鹿ではなかったらしい。
ちゃんとスキルの説明を求めた。
「ええと、、”コミュ力”ですか‥‥?」
女神様は驚いた顔をしていた。
「はい!」
「すみません、思わず聞き返してしまいました。今までそのスキルを選んだ人はいなかったものですから。こほん、”コミュ力”とはどんな話でも理解して流暢に会話することのできるスキルです。」
僕はスキル”コミュ力”の説明をされて陽キャになるためにはこれが必要だと確信した。
「他に陽キャになれるスキルはありませんか???」
実は一つ見つけたことでもう一つくらい陽キャになれるスキルがあるのではないかと期待していた。
「‥‥そうですね”交友関係”というスキルはどうでしょう。このスキルは意図せずとも交友関係が広くなるというスキルです。」
女神様は僕の無茶振りにも嫌な顔をせずに真面目に答えてくれた。
意図せずともということは自然に交友関係を広められるということ。
次の人生はひとりぼっちじゃなく、友達がたくさんいるクラスの人気者になるんだ!
「僕、スキル”コミュ力”とスキル”交友関係”をとります!」
「本当にいいんですか?スキルは変えられないんですよ!?」
今度は女神様が僕にずいっと近づいてきた。
この時の僕はこの選択が正解だと確信していたため、元気よく答えた。
「はい、大丈夫です!!」
女神様は一度疲れたようなため息をつくと
「わかりました。貴方がいいなら問題はありません。次にスキルにスキルポイントを振ってください。」
これはスキルを選ぶときに既に決めていた。
「”コミュ力”と”交友関係”に100ポイントのうち半分ずつ振ります!」
「・・・生まれてからの時のために少し残しておこうとか思わないんですか?」
僕はこの時、陽キャになることが最優先だったため生まれてからのことなどこれっぽっちも考えていなかった。
「思わないです。これで問題ありません。」
「もう、なんでもいいです。貴方には剣と魔法の世界であるアイギス王国に行ってもらいます。」
気のせいかもしれないが会った時より女神様が老けたような気がする。
「わかりました。貴方に女神の祝福があらんことを。」
最後に女神様が手を振って見送りをしてくれた。
視界が真っ白になると意識がプツッと途切れた。
冒頭に戻る。
僕が生まれて5分で人生に絶望した理由が分かっただろう。
剣と魔法の世界でこんなスキルを選んでしまったせいで僕の夢の勝ち組人生はおじゃんだ。
あの時、女神様の忠告を聞き入れておけば‥‥。
まあ、もう戻れないことを悔いてもしょうがない。
とりあえず今を把握しようと思う。
周りを見渡すとメイドや金ピカの装飾があることから僕は貴族の中でも上の階級に生まれたようだ。
見立てが確かならだが。
僕を抱っこしている女の人はおそらく僕の母親なのだろう。
その横にいる侍女に何か話しかけている。
「アデルバート国王はいらっしゃらないの?」
言葉が分かる!
言葉を学ばずに理解しているのはスキルのおかげか?
話を理解するために言葉が分かるようになった、と考えるのが妥当か。
「公務があるためいけないそうです。」
お母さんのそばに立っていた侍女が無表情で答えた。
「そう‥‥あの人は自分の息子が生まれる時でさえ来てくれないのね‥‥ごめんね、デーヴィド。」
話の流れからして、アデルバート国王というのは僕の父親なのだろう。
ん?国王?こくおう‥‥
国王の息子である僕は‥‥王子ぃーーーーーーーー?????
上の階級だとは思ってたけど王子だったとは。
でも、息子が生まれたのに見にこない父親ってどうなんだ?
ここでは当たり前なんだろうか?
いや、お母さんは来なくて悲しんでるから普通は来るものなんだろうな。
お母さんの話す感じからして普段からここには来ないのか。
お母さんの立場も弱そうだし、僕って割と危ない立場にいるんじゃ‥‥これ以上はやめておこう。
あれから5年が経ち、僕はすっかり大きくなり周りからも愛される王子に‥‥なるわけがない
僕は結局1度も自分の父親と会っていない。
体は大きくなったが、周りの侍女は命じられたことを淡々とこなすだけ。
話しかけてみたこともあるが
「私のような下のものとお話しするのはお控えください」
と言われ話し相手にならない。
お母さんは僕が3歳のときに夫に会えない寂しさで寝込むことが多くなっていった。
スキルを試そうにも話す相手がいないなら意味がない。
そうなると勉強するしかないが家庭教師なんてつくはずがない。
ないないづくしだった僕にできたのは手で数えられるほどしかない本を読むことだった。
そのおかげで文字は書けるようになった。
しかし、この国の今は分からない。
何度も侍女にあしらわれながらも聞き出した情報は
・この国には王子が3人いて僕は第3王子だということ。
・次期国王は知力、武力の両方に優れていたものとする。
これだけだ。
誰かが僕に情報を漏らさないように情報規制でもしてるのか?
僕が1人で昼食をとっていると滅多に話しかけてこない侍女の1人が僕に話しかけてきた。
えーと、確か名前はマリ。
この家にいる侍女全員の名前なんて覚えられるわけがないんだから名札でもつけて欲しい。