四十二日目
ついに明かされた死神の過去。俺との出会い。こんなに小さな体で受け止めるには重すぎる現状。救ってあげたいが何もできることが出来ず歯がゆい思いをした。
夜が明けた。すっかり涼しい空気になり、秋を感じさせる。
死神がいるか不安になり、布団の中を確認する。
いない。
布団の上を確認する……
いない……
起き上がり、ソファの上を確認した。
いた。ソファの上でまるまって寝ていた。
「よかった……そんな所にいたのか」
寒いといけないので布団をかけてやる。
目を覚まさないように気をつけたつもりだったが、死神を起こしてしまったらしい。
まだ眠たげな目を擦り、伸びをする。
あまりよく寝れず、部屋の中をウロウロしていて疲れて寝たらしい。
今日は仕事を休んで死神に付きっきりで話を聞いてやろうと思い、当馬さんに連絡した。
「もしもしお疲れ様です。本日体調不良のため休みます。はい。はい。ありがとうございます。はい。では失礼いたします」
初めて仮病を使った日だった。
もちろん明日から行くので今日だけのつもりだ。
せっかく死神が家にいるからなにかしてあげたいそう思うのは無理がなかった。
前回ので懲りたからだ。
また会社に行ってる時に死神が消えたらどうする?
その事を考えると身震いがする……今度は助けてあげたい。
「ねぇ?」
「ん?」
「お仕事大丈夫なの?」
「んー……まぁ大丈夫ではないかな……でもまだ話してもらってないこととかあるだろ?積もる話もあるだろうし、スッキリさせたいからね」
「そっか……ありがとう僕のために」
優しく頭を撫でて話を聞く姿勢をとる。
「実は、僕が勝手に居なくなったのは僕の意思じゃないんだ……」
「うん」
「実は、死者の世界からの呼び出しで、無理やり連行されるように連れていかれたんだ……」
そんな気はしていた。跡形もなく消えた姿。ベランダが空きっぱなしだったこともあり、死神は勝手に居なくなるタイプではないと思っていたからそこは心配ではなかった。
問題はなぜ連れていかれたのか……?
「何があったんだ」
「僕タブーを犯したっていったでしょ? それがイザナミ様。あぁ、僕を死神にしてくれた神様の事ね。そのイザナミ様に呼び出されて、しばらく監禁されていたんだ……だから戻って来れなくて、本当にごめんよ」
「え!? 監禁!? 大丈夫なのかそれ!」
「うん。ある条件を飲むことで出して貰えたから大丈夫」
「……ある条件って??」
「……君に最後のお別れを言うことと、死神追放」
「本当は最後のお別れもダメって言われていたんだけど僕必死にお願いしたんだ! それで渋々了承してくれたんだけど、それが新しい条件 "死神追放" って言われちゃってね」
へへっと笑う死神。本当は泣きたい状況だろうに平然を装ってる。強い子なんだなと改めて思った。
でも強いのを装ってるだけかもしれない。
どちらか分からず死神の手を握ることしか出来なかった。
「それで……死神追放されたらどうなるんだ? もう会えないのか?」
「……うん。死神としての僕は消失することになるんだ。だからもう二度と……会え……ない……グスッ」
また涙がポロポロとこぼれ落ちる。
ここに来るまで色々なことがあった。
初めはなんだコイツって思っていたけど今ではなくてはならないほど、存在が大きくなっていった。
そろそろお別れを言わないといけない。
死神もタイムリミットが近づいてきているのか、少しずつ浮いてきている。
「死神。お前に渡したいものがあるんだ……はい。これ」
「え? これって……?」
贈り物用の袋で包まれた小さな箱。
開けると中には猫型の鈴の首輪が入っていた。
「死神が消えた日に買ったんだ。あげたかったけど急に居なくなったもんだからあげられなくて、今になってごめんな」
「うぅん! とても嬉しい……けど、これ猫用だよね?」
「え? うん? なんで?」
「なんでって、僕死神だから! 猫じゃないからー!!」
そう言いつつも嬉しそうに首につけようとする……が、上手く付けられない。
俺が代わりに受け取って首につけてあげる。
チリンッ
思った通り死神によく似合う。買って正解だなとつくづく思った。
「えへへ! どう? 似合う??」
「うんうん! バッチリだよ! よく似合ってる」
「えへへ! まぁ僕だもんね! ふふんっ!」
僕が可愛いから似合うんだとも言わんばかりに胸を張った。
いよいよお別れの時が近づいた。
死神は俺の目線まで浮いていた。
「死神……」
「……うん」
「今までありがとう。大変な時もあったけど楽しかったよ。あの時助けてくれなかったらこんなに楽しい人生があるなんて知らなかったと思う。本当にありがとう」
「僕の方こそ! わがままに付き合ってくれてありがとう!」
テヘッと舌を出して笑う。
(わがまま言ってたってわかってたのかよ……)
最後の最後まで笑わせてくれた死神に深く感謝をし、死神の手を握った。
細かい光の粒子が死神の体から一つ一つ抜けていく。
「今までありがとう。さようなら」
俺は涙を堪えながら最後の最後まで光の粒子が離れていくのを見ながら手を握り続けた。
死神は旅立った。
もうそこには死神がいない……
だが、いつまでもそこにいるような温もりを感じる。
俺は、死神がいつも座っていたソファに深く腰をかけ、上を向いて静かに泣いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!さようなら……死神……ついに最終回まで残り僅かになってまいりました。続きが気になった方は是非!評価とブックマークをよろしくお願い致します!また次回お会いしましょう!




