三十四日目
死神が居なくなった。また昨日みたいに戻ってくるだろ?そうだよな?……なんとも言えない気持ち。ふつふつとした感情をどこにぶつければいいか分からないまま休みがあけた。
休日は慌ただしく過ぎ去り、会社に行かなければならない。
本当は休んで死神を探しに行きたいが、そんなことを言っていられるほど人生甘くない。
「おはよう」
いつもの癖で声をかけるが誰もいない。空気がそこに拡がっているだけだ。
いつものように顔を洗い、ご飯を食べ、出勤する。
仕事中はいつ俺が見えないところにいたから今日ももしかしたら見えないように着いてきてるのかもしれない。そう信じたかった。
「おはようございます」
先輩方に挨拶し、自分の机に着く。カバンをおろし、仕事を始める。
すると、後ろから肩を優しく叩かれた。
「おはようございます。ちゃんと休めましたか?」
当馬さんだ。優しい笑顔に少し癒される。
「あ、おはようございます。ええ、まぁ」
休めたかと聞かれたら休まった気がしなかったので、生返事を返す。
「元気がないようだけど大丈夫? 何かあった? こんな時に悪いんだけどお願いがあって……」
「いえ、お気になさらずに……お願いとはなんでしょうか?」
「それがね、新しい広告のレイアウトを考えて欲しくて、マニュアルを渡すからやって貰えないかしら?」
チャンスだ。新人にこういう仕事が来るのは珍しく、ちゃんと出来たら仕事内容も増える。俺は二言返事で了承した。
「かしこまりました。頑張ります」
このまま一人で考え事していたら死神のことを思い出しそうでならなかったので仕事をやって気を紛らわそうとした。
「ほんと!! 助かるわ! 私も手伝うから何かあったら頼ってね」
「はい。ありがとうございます」
貸してもらったマニュアルは結構しっかり作り込まれていて、困ることはほぼなかった。
仕事をしていると気が紛れる。そうこうしているとお昼になった。
俺はコンビニで買ったご飯を食べようとし、カバンから出そうとした時だった。
「おーい! 新人君! ご飯食べに行くよ!」
先輩方から声をかけられた。
すっかり忘れていた。今日のお昼に俺の歓迎会してくれる約束だったのだ。
「あ! はい。すぐ行きます」
出しかけていたコンビニ弁当を隠して、先輩方について行った。
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「……でさぁ? その時さぁ? 上司が何やってるんだ! って言ってきたから、広告の時のレイアウト決めですって言ったらなんて言ったと思う?宮田(笑)」
「え? なんて言ったんだ?」
「咳払いして帰ってった(笑)」
「ふふふ、部長そういう所あるわよね」
「ねぇねぇ新人君はさ! 前はどんなところで働いてたの?」
「……え?」
いけない。ぼーっとしていた。なんの話しをしていたんだ?
「あ、えーっとすみませんもう一度お願い致します」
「固いなぁ、新人君は。真面目だね! 前はどんなところで働いてたの?」
「あ……前はえっと一重にブラック企業って所でしょうか?」
「うわぁブラックか! そりゃ大変だったね!」
「佐々木もブラック出身だったよな? 確か」
「そうそう! 宮田よく覚えてんじゃん! 懐かしいなぁ、いい思い出なかったけど(笑)今ではこの会社で良かったって思うんだ!その時の面接官がさ? 当馬さんで入社してからびっくりしたよ!」
「ふふっ、佐々木さんは一度覚えたら早いんだけど、考える前に行動しちゃうタイプだからミスとかよく連発してたわよね! 懐かしいわ」
「もー! 忘れてくださいよ! 恥ずかしい!」
先輩方が楽しく談笑をしている。俺は話についていけず、追加注文したポテトと麦茶で何とかこの場を乗り切ろうとしていた。新人歓迎会という名目で主役が無視されるわけないのに。
「ところで新人くんはさ! 彼女とかいる訳?」
「ぶっっっ!!! ゴホッゴホッ」
突然質問を投げかけられポテトが変なところに入った。なぜいると思ったのだろうか……この恋愛下手な俺に。
「いやね? 帰りは一直線でいつも帰ってたし、仕事終わりはダメだって言ってたからさ? 家に彼女いるのかなーって社内で噂になってるのよー」
どうなの?と言わんばかりの圧をかけられる。実のところも何も彼女なんているわけが無い。だが、早く死神の料理が食べたくて帰宅していたなんて話せる訳では無い。
死神が家で待ってて、ご飯作ってくれるんです! ちなみにその死神は猫です☆
なんて言えるわけが無いっ!!
どう返そうか悩めば悩むほど疑われるだろうと思い、軽く流すことにした。
「彼女はいないですけど……」
急に恥ずかしくなったのか、耳元まで熱くなるのを感じ、目を逸らしながら麦茶で落ち着かせる。
視界の脇で、佐々木さんが当馬さんを小突いているのが見えたが、先輩方同士のじゃれ合いだろうと思い、深くは考えていなかった。
お昼休憩が終わり、仕事をこなす。
朝よりは少し体調がマシになったので仕事の効率が上がったのはいい事だと思う。
ただ、家に帰っても死神がいないかもしれないと思うと……
考えるのはやめよう。それはその時考えればいい。今は仕事に集中しないと……
集中しないといけないのはわかっているが、考えていることと、動けるかは別問題であり、ミスを連続で出してしまった。
当馬さんからは、新人だから仕方がない。これから慣れていけばいいと励みの言葉を貰えたが、こんな自分が不甲斐なく感じた。
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「ただいま」
仕事を終え、帰宅する。帰宅途中も死神の姿は見当たらず、お出迎えもなかった。
なんだか虚しくなる気持ちを抑え、スーツを脱ぎご飯を作ろうとした。
だが、やる気が起きず、ポットでお湯を沸かして死神と出会う前にストックしていたカップ麺を取りだし、お湯を注いだ。
ズゾゾゾゾッ
「美味しくない」
少しだけしょっぱくなったカップ麺をすすりながら死神との思い出を少しずつ思い出していた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!人と食べるご飯って2倍くらい美味しく感じますよね。主人公大丈夫でしょうか?ちょっと体が心配です。続きが気になった方は是非!評価とブックマークをよろしくお願い致します!また次回お会いしましょう!




