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始章 運命の女神 第一話

 夢を見た。

 小学校低学年の頃だろう。その頃から俺は生意気で、今より強がりで泣き虫な男の子だった。

 夏休み、テレビで恐怖映像特集なんてものがやっていて、普段なら絶対に見ないのだが……。

 ちょっと前から、クラスで「そんなの怖くねぇよ!」症候群が蔓延し、こういった心霊恐怖系の番組が流れた次の日には、友達の間で話題になる事が多かった。

 親が気を利かせてチャンネルを変えようとしたのだが、そんな事情もあり「見る!」と言った俺に母は、驚きと困惑の表情を浮かべていたっけな。


 案の定俺は恐怖で眠れなくなり、部屋で布団をかぶり微かに震え泣きそうになっていた。

 「あんなのは嘘だ」とは思っても、目を瞑れば口から血を流した真っ白い女や、恨めしそうな青白い顔をする男の顔が浮かんでしまい、カタカタと震えていた。

 そんな風に恐怖と戦っていると、コンコンと部屋をノックされ「コウスケ起きてる?」と母が入ってきた。

 その声は俺の耳にとても優しく響き、震えて強張っていた体が解きほぐされるように感じた。


 布団から顔を出し「なに?」と尋ねれば、母は「さっきのテレビが怖くて寝れなくて、一緒に寝て欲しいな」なんてベッドの端に座り、俺の頭を撫でながら言った。

 母は怖がりな俺がこうなる事を分かっていたのだろう、そして強がりな俺が言い訳できるようにそんな事を言うのだ。

 「しょうがないな」なんて心にもない事を言う俺に、母は「ありがとう」と言って嬉しそうに布団に入ってくる。

 そして俺と母は手を繋ぎ、お互いの温もりを感じながら目を瞑る。

 その時の俺は、もう震えていなかった。



 目を開ければすでに外は日が昇り、日が差している時間のようだった。

 カーテンの隙間から漏れる光は強く、もう日が昇って随分と時間が経っていることを教えてくれる。

 ふと右手を上げて、その手のひらを見る。

 母の夢を見たのは、随分と久しぶりの気がする。手のひらを開け閉めしながら夢を思い出し、微かに笑みが零れた。


 隣のベッドを見ればロノアの姿はなく、綺麗にメイクされている事からすでに起きているのだろう。

 ザケタ村ではベッドメイクなどした事がないロノアだが、こういった高級宿に来ると意識が変わるのだろうか。

 いい事だと思いながら俺もベッドから出て、伸びをするように軽く体を動かす。


 昨日感じた疲れは残っていないようだ。特に体に違和感も感じず、長い睡眠のおかげだろうかすっきりしている。

 なんだかんだと楽しく過ごしていたつもりだが、六日間の野宿生活に思った以上に疲れが溜まっていたのかもしれない。

 とりあえず顔洗って歯磨いて動ける準備をしようと、空腹を訴える腹をさすりながら隣の部屋へ移動した。


「あ! やっと起きてきた! もうお昼過ぎてるぞー、腹減ったぞー」


「やっぱりそうか、そんなに寝ちゃってたのか。準備してくる、ちょっと待ってて」


 頬を膨らましバンバンと机を叩きながらそんな事を言うロノアだが、テーブルにはクッキーが置いてある。

 この際、それは俺のストロベリークッキーだと言うのは置いておこう。それ食ってたでしょ? 結構減ってるしな! いや、食事とお菓子は別腹だったか、そうか。

 出かけられる準備をするために、風呂場と思われる扉を開き、鏡がある洗面所の前に立つ。

 備え付けであろう歯ブラシと石鹸を使い、寝起き姿を整えていく。

 顔を洗いタオルでふき取り、顔を鏡でチェックする。眼の充血もなし、顔色も悪くない。

 軽く顔を叩き引き締め、その他もろもろを済まし風呂場を出て、ロノアの正面に座る。

 今日のロノアは軽めの服装だ。短めの白いノースリーブワンピースに七分丈のパンツルック、髪はポニーテルにして纏めている。

 始めてみる服装だ。ザケタ村でも、しょっちゅう服装が変わっていた。

 いったいどれだけ服を持っているのだろうか、空間収納に色々しまってあると言っていたが。

 今はどうでもいいか。


「おはようございます」


「おはよう。どう?」


「大丈夫、もうすっかり元気になった。昨日は話しの途中でごめんな」


「無理して変なところで倒れられるより良いわ。で、今日はどうする?」


「とりあえずなんか食べよう。俺も腹減った。ついでに話してたあそこも寄ろう」


「あそこ? ああ、そうね」


 宿の一階はレストランになっているようで、いつでも食事がとれるようだったが、せっかくなので街へ繰り出した。

 ついでに行きたいところも色々あるので、宿屋である程度の場所を聞きそれらを探しつつ外食することにした。

 宿泊している宿は大通りに面しているため、一歩外へ出れば相変わらずせわしなく動き回る人が多く見られ、なんとなくだが緊張感が漂っている気がする。


「戦時体制移行の影響かね」


 そして、お互いかなりの空腹だったため、とりあえず近くにあった屋台で甘辛い総菜を挟んだパンを二つ買い、食べながら大通りを歩く。


「なぁ、昨日の続きだけど、あの資質の問題でロノアに抵抗できないのはどういう事なの?」


「え? ああ、急に続き来たわね。あの資質は、神にしか効果がないからよ。今の私は神じゃないもの」


「じゃ、例えば聖職者に強いとか、聖なる力に強いとかそういうのはないの?」


「ないわね。あくまで神に対しての効果であって、それ以外の何ものでもないわ」


「……何それ、使えねぇ」


 【神性破壊デウスエクテレシィ】とか大層な名前の資質の割に、なんの役にも立たないスキルじゃないか。

 しかも、一番使いたい相手ロノアに使えないとか、どうしようもねぇ!

 だが、まぁいい、【魔力覚醒アポストロス】っていうもう一つの資質はすごい。

 魔力マナが多くなり、すごい魔法を使えるようになるらしい。これだけでも鼻の穴が開くわ。


「すごいレアな資質なんだけどね。私も話として聞いた事があるだけで、これまで見たことないもの」


「レアだろうが、世界に一つだろうが使えなきゃ意味ないからな。それに、例え神様相手に使う事になっても、ロノアみたいに神様じゃなくなったら無効化されんじゃん」


「ああ、それはないわね。神性封印というか、正確には眷属に移しただけなんだけど、こんなことやろうと思って出来るの、私くらいだろうし」


「そうなの? それはあれ? ロノアが神様に相応しくないからいつでも辞められる様にという最高神様の粋なはかごはぁっ」


 脳が揺れる! この野郎、グーでやったな? 今グーでやっただろう!? ちくしょう、全く見えなかったぞ、左頬がいてぇ!


「虫ね。いやだわ、暑くなるとすぐこれだものね」


「……そっすか、虫っすか」


「あ、あそこなんて良さそうね。酒場っぽいけど空いてるみたい」


「はい、どこへでもロノア様に付いていきます」


「ふふん、良い心がけね」


 そう返事をした悪魔の様な微笑みのロノアに恐怖を感じる。女神だよな? あ、女神じゃないんだった。

 そして左頬を押さえつつロノアに先導されて、店前で看板娘らしき子が元気に客引きをしている酒場へ入るのだった。……だったじゃない!


「ちょ、ちょっとロノアさん、ちょっとちょっと待って!」


 そう言って、店に一直線に向かうロノアの腕を取る。

 しかし、ロノアはバシッっと俺の腕を払い、キッっと睨んでくる。

 怖いよ! お腹空いてるからか! でもそれどころではないんだ!


「駄目よ! もう我慢できないから! あそこに入るって決めたんだから!」


「いや、それはいい、是非そうしよう。そうじゃなくてだ。あの娘! あの娘見てくれ」


「ん? 何? ……可愛い子ね。それが?」


 そう、可愛い。しかし、そうじゃない俺が言いたいのはそれじゃない。


「け、けもみみ……頭にケモミミが生えてるじゃん!」


「ケモミミ? ああ、彼女キャラミィね。獣人族の中の猫人族キャラミィって種族よ。この辺に居るのは珍しいんじゃないかしら」


 獣! 人! 族! ああ、ロノアよ。あなたに感謝します。

 僕はこれまで色々と誤解していた。駄女神だとか悪魔だとか、天界でも頭の弱いこの子はいじめられているんだろうな、とか思ってすみません。

 最後のは今思いました、すみません。

 獣と人の融合した姿。それは究極の萌え要素。あなたこそ僕の求めたゴッドだったのか……。


「ちょ、ちょっと、なんで急に跪いて私を拝むのよ! あとそのキラキラした目をやめて! 気持ち悪いから!」


「あれ? もしかして、あなたは最高神様なのでは?」


「違うわよ! もう何なの!? とりあえず立って、ほら立っ……殴るわよ?」


「はい、すみませんでした。興奮のあまり我を忘れていました。ささ、入りましょう。ケモミミ娘の居るあの酒場へ!」


「ちょっと、ほんとなんなのさっきから!」


 ロノアの拳は殺人拳。悪ふざけはこれまでだ。

 俺はさっと立ち上がり膝を払うと、ロノアの背をぐいぐい押し酒場へと直行する。

 こうして俺たちは、ケモミミ娘が客引きをしている天国、じゃなかった酒場へ入るのだった。

明日も更新します。

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