表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

守章 討伐・冒険者所属試験 第四話

 うわぁ、見てください奥さん。

 あの超ドヤ顔でこちらに来る若い娘さん。ご存じ? あれでも女神なんですよ。ほら、よく見てください。口元、むにむにしてるでしょ?

 あれ、もう嬉しくて嬉しくてしょうがないんですよ。

 俺が「怪我させないで勝てるの? どうせ、出来ないでしょ?」って、まぁ、わざと?  煽る感じでね。やらせたんですよ。

 で、彼女が「できらい!」って感じでね。まぁ、負けず嫌いな子ですからね。思惑通りですわ。

 たぶんね奥さん。あの子、ここまで戻ってきたら「ふふん、何か言う事あるかしら?」とか言うんですよ。あのウザ顔で。

 だからね、俺は先制攻撃でこう言うんですよ。


「流石だな」


 俺はそう言って、感心したようにロノアの頭を撫でる。


「え? ……あ、うん、あり、がと?」


 完璧なロノア操縦術。

 褒められ慣れてないロノアは、褒められると戸惑うので、こうすればあのウザ顔をいつまでも見なくて済む。

 油断すると、さっきのウザ顔思い出して頭引っ叩きたくなるけど、グッと我慢する。


 ロノアの圧倒的な試験結果は、練習場に居た冒険者達を沈黙させた。

 試験前は多少のざわつきと、ロノアの容姿故のちょっとした見世物的雰囲気があり、応援に軽い嘲笑、野次も含まれていた。

 それが、今はない。

 喋る声もこそこそと静かで、こちらに向ける目も信じられないものを見るような、そんな顔になっている。

 そこからいち早く立ち直ったのは、当人であるトーラスだ。

 今は何名かの冒険者に声を掛け、練習場に丸太を積み上げている。


 あの剣、高そうだけど大丈夫かなぁ。弁償しろとか言われないかなぁ。

 そうなったら腹ペコ怪獣ロノアを解き放って街を去るか。腹ペコ怪獣ロノアってなんだよ。


「んじゃ、次はコウスケの番ね」


「ああ、やっとだよ。はぁ、早く終わりたい。もう、腕とか脚とか無事なうちに、はよ終わりたい」


「大丈夫でしょ。訓練のお陰で、普通にしてる分には問題なしよ」


「でもなぁ、昨日の感じだと、まだまだ制御できてないってわかったからな。慎重にならざるを得ない」


「うんうん、また指がぽーん! ってなっても困るしね」


「……ほんとに。あれちょー痛かった。思い出したくない」


 昨日の晩に、とりあえず試験は通りたいって事で。俺はロノアの監視の下、街の外で「これくらいなら合格するだろ!」ってくらいの魔力放出の制御訓練をした。

 詠唱魔法ではなく、軽いイメージをマナに乗せて、ただ放出するだけのものだ。

 そんな練習をしているときに、制御に失敗して人差し指が吹き飛んだ。

 ロノアの言った、ぽーん! ってのは揶揄じゃなく、まんまその通りの事が起きた。

 まじでちょー痛かった。

 あと、それ見て「その指だけ飛ばすって、器用な事するのね!」とか言って、ゲラゲラ笑ってたロノアは許さん。


 そんな訳で、今はロノアが施していた魔力炉の封印を解いている。

 あー、怖い。

 まぁ、実際マナを集めて放出しようとしなければ、特段何か負担を感じることはない。


 昨日の練習中、「大丈夫大丈夫、失敗して死んじゃったら、ちゃんと生き返らせてあげるって約束してあげるから! ポイント貯まるの百年くらい掛かると思うけど!」とかロノアさん楽しそうに言ってたけどね。

 生き返れば良いとかそういう問題じゃないからね。あと百年てなんだよ。


「コウスケ! 準備できたぞ」


「そんじゃ、いってくる」


「いってらっしゃーい」


 声を掛けられ見れば、丸太はキャンプファイヤー用の木組みのように五段ほどに積まれていた。

 そして、その木組みから十メートルくらいの距離で対峙してみたものの、よくよく考えて見れば、昨日練習した魔力放出だとこの距離はやばそうだ。

 なので、そこからさらに五歩下がる。うーん、これくらいなら平気かな?

 あとは……。


「あー、組合長」


「ん? なんだ」


「その距離は、危ないと思う」


「なに!?」


 トーラスと見学に来た冒険者たちは、木組みを中心に俺と反対側を囲むように待機している。

 その距離が、俺が最初に対峙した十メートル程度の距離しかないため、危ないと思い声を掛ける。

 俺自身が力をうまく制御できればいいんだが、細かい匙加減がまだ全然出来ない。

 だから、逆に威力がでずに全く危険がない可能性もある。

 そうなったら俺が恥をかくだけで済むが、逆の場合は、想像するだけで食欲がなくなりそうな光景が浮かぶ。

 俺は、リスクを最小限に抑える男なのだ。

 注意一秒、怪我一生だ。

 いや、怪我させたら流石にロノアに治してもらうけど。怪我だけで済めばね。


 俺が声を掛けると、トーラス以下冒険者たちは、ぞろぞろと俺の後ろ側へ移動してくれた。

 おい、そこ、ロノアの近くを陣取るために静かに喧嘩するんじゃない。

 あと、大丈夫だから、近づいてもそこのちんちくりんは暴れたりしない。だから、ロノアを中心にちっさい半円作るな。

 ちくしょう、こいつら俺の集中力を乱しやがる。冒険者たちの、「ロノアに近づきたいけど、ちょっと怖い」という葛藤が垣間見えて面白くてやばい。

 頑張れ俺、魔力マナに集中しないとまた指が飛ぶぞ。


 そして、全員の移動が終わり。ロノア近くの、アリーナ席争奪戦も落ち着いた。

 それを確認し、俺は強く息を吐くと右手を木組みへ向け、目を瞑る。

 ゆっくりとゆっくりと魔力を手のひらへ、ゆっくりゆっくり。

 そして、集まってきた魔力を手のひらの中心へ向けて圧縮していく。慎重に、包む様に、呼吸も深く、一定に。

 このくらいか? いや、まだ余裕はある。もう少し、集中して、ゆっくり流し込んで、少しずつ圧縮していく。


 すると指の付け根部分に、内側からググっと押されるような感覚がでてきた。

 よし、いい感じだ。あとは放出する。ゆっくりと圧縮したまま、出す!


 ポンッ! と小さく弾けるような音が鳴った。


 その音と同時に、俺の手のひらから卓球玉くらいの白く透明に輝く魔力玉が、木組みに向かって飛んでいく。

 ふよふよふよふよと、人の歩く速さ程度のゆっくりした速度だ。

 それを確認した俺は、手を下げて後ろのロノアを見た。

 目が合ったロノアは、俺に向かってぐいっと親指を立てる。

 どうやらうまくいったようだ。


 ロノアのオッケーサインを貰った俺は頷き、木組みへ向き直る。

 魔力玉はふよふよとまだ飛んでおり、木組みまで五メートルと言ったところだ。

 とりあえず指が無事だったことに、ほっと溜息を吐く。

 すると後ろから微かに、鼻で笑うようなそんな音が聞こえる。


 まぁ、それはしょうがない。さっきロノアがあんなの見せた後だしな。

 それにロノアが言っていたが、ただ魔力を放出するというのは、アトリアータでは子供が魔法の練習をするときにやっている事のようだ。

 単純に詠唱した魔法の方が、同じ魔力の量で威力を出せるから、魔法が使えるようになると普通は魔力放出などしないらしい。

 つまり、後ろにいる冒険者達からすれば、子供の練習を見せられているようなものだろう。


「だけどな……」


 そう言葉を吐いて、足にぐっと力を入れる。

 そしてようやく、その魔力玉が木組みへ当たる。


 すると、一瞬にして積んであった丸太全てが木っ端微塵に砕け散った。


 音が先か砕け散ったのが先か、と言う程のタイミングで、ドンッ!という鼓膜を突く音が響き渡る。

 そして、発生した衝撃波は、この距離ならば瞬く間に到達し体を突き抜ける。


「込める魔力マナが多ければ、それは魔法と変わらない」


 ってロノアが言ってた。

 なんとかイメージ通りの結果になったことに、安堵し振り返る。

 するとそこには、何故かすごい偉そうに腕を組み「うんうん」と頷くロノアと、半数以上が尻もちをついた状態になった冒険者たちがいた。

 さすがにトーラスは立ったまま、驚いたように俺に声を掛けてきた。


「今のは、詠唱が聞こえなかったが、魔法か……?」


「いや、ただの魔力放出だよ。こんな格好で魔術師なんて書いたが、実は、魔法は得意じゃないんだ」


 嘘じゃない。だって俺は、未だに詠唱魔術が使えない。

 いや、使えるのかもしれんが、ロノアがまだダメって言ってるからしょうがない。

 こうして、俺たちの所属試験は無事終了し、トーラスに連れられ建物内へ戻る事になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ