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守章 討伐・冒険者所属試験 第二話

 俺たちが連れてこられたのは組合建物の裏手にある、壁に囲まれたやや広い四角い空間だった。

 土の床に、ボロの鎧を被せた案山子を見るに、普段は訓練等に使っている場所だろう。

 トーラスはここに俺たちを連れてくると、「ちょっと待ってろ」と言い建物内へ戻っていった。


「ねぇ、コウスケ」


「ん?」


「あの男は、何をしようとしてたの?」


 ふーむ、なんと言ったものか。

 これまでも多少気になっていたが、ロノアは基本的に細かい他人の機微を理解しない。

 いや、他人に興味がない。

 それと恐らくだが、この世界にいるものでは自分を害することが出来ないと思っている為に、直接的なものは別として、感情的な悪意に疎い。


 さっきのも、「雑魚がなんか言ってる」くらいにしか思ってないと思う。

 ザケタ村では、その点でそこまで気になったことはない。何故かと言えば、自分に下心なく好意を向けてくる相手や、自分が好意を向ける相手にその傾向がないからだ。

 そういった相手に対してロノアは、言い方は悪いが観察を怠らないし、積極的に関わろうとする。


 逆に言えば、それ以外には全くと言っていい程に興味を抱かない。

 故にそういった相手からの言葉は、その言葉以上の意味を受け取らない。

 ここら辺の事も今後の課題かなぁ。絶対そのうち問題を起こしそうだ。


「簡単に言えば、ロノアとお近づきになろうとしたんだな」


「お近づき? ああ、なるほどね。じゃ、なんでコウスケは怒ったの?」


「あの男が、こっちの事情を無視して、自分の欲望を優先したからだ。しかも、あの感じだとあいつ、俺たちが抵抗したら力ずくで従わせようとしたな」


「そんなの無理なのにね」


「結果的にはそうなんだけどね。まぁ後は、俺はこの手の人間が、心底嫌いなんだ。だからだな」


「なんか、コウスケがあたし以外に怒ってるの初めて見た気がするから、気になったのよね」


 そうだったか? ……そうだったなぁ。

 確かに、ザケタ村じゃみんな良い人ばかりだったし、イライラしたのはこの世界のアホみたいな魔物くらいだし。

 それはつまり、それを作り出したロノアに対してだから、本人に直接クレームは叩きつけてる。

 でも、それも怒るとは違うなよなぁ。

 今はそれももうなんて言うか、受け入れてるし。

 それに、ロノアが村の人たちと馴染んでたから、あそこではトラブルも無かったし。

 はぁ、ザケタ村に帰って農業したい。

 それにしても……。


「なぁ、ロノア。さっきの俺のあれ、なんだかわかる?」


「むしろ私が聞きたい事なんだけど、なんか分かるかなと思って回復のついでに触ってみたけど駄目だったし。コウスケもやっぱりわからないの?」


 ああ、それで回復してあげたのか。そういう事、ロノアさんしないでしょ?って思ったからな。

 単純に、俺に手首を折られたあの男に、多少の興味を抱いた結果だろう。

 よかったなゴルゴム。違うな、ゴルダス? ゴスパル? 名前忘れたわ。


「さっぱりわからん。今もそうだけど、俺にあんな力ないぞ?」


 そう言って手に力を入れて握る。

 普通のいつもの力だ。この握力で、あのゴ……骨太筋肉の手首を折れるとは思えない。


「うーん、もしかしたら――」


「待たせたな」


 そう言ってトーラスが戻ってきた。

 服装は変わらずだが、腰には先ほどはなかった剣を佩いていた。

 そして手には、二枚の紙を持っている。

 その紙を見ながら、トーラスはこちらへ声を投げてくる。

 何かを言いかけたロノアだったが、一端この話はお預けだ。宿に戻った時にでもすればいいだろう。


「お嬢ちゃんがロノア・ユーノ・フォルトゥーナ。坊主がコウスケ。ふむ、嬢ちゃんを呼ぶ時はフォルトゥーナでいいか?」


「ロノアでいい。属名で呼ぶ必要ないわ」


「ぞく? わかった。ロノア嬢ちゃんが剣士、コウスケが魔術師か。ロノア嬢ちゃんの試験は実戦形式でいいか?」


「ええ、いいわ」


「コウスケは、魔術師なら標的攻撃だな。どっちからやる?」


 ロノアが俺に目配せをしてくる。

 先にやりたいって事だろうなぁ。目がすごいわくわくしてるし、トーラスは見るからに強キャラだしなぁ。

 ザケタ村からこの街に来る道中、魔物薙ぎ払ったりしてる時のロノアは、何というかすごい楽しそうだった。

 たぶん、いや、間違いなくバトルジャンキーな気がする。神様って基本そんなの多いしな。


 しかし、ロノアが興味を抱く程とは言え、どう考えてもトーラスが良い勝負をするのは無理だろう。

 ロノアは言うなれば、この世界の規格外だ。

 地球から考えれば、一般人さえも最強の兵士になりうる世界であるアトリアータでも、ロノアは次元が違うと思う。だって、力が落ちてるとは言え元神様だし。

 まぁ、だからと言って、そのやる気に水を差す必要もないしな。先にやりたいなら別にいやもない。

 俺がそれに頷くと、ロノアはぴょんと一歩前にでた。


「私からやるわ!」


「そうか、相手はわかってると思うが、俺だ」


 その時、ぞろぞろと組合の建物から人が雪崩込んできた。

 先ほど受付前に居た冒険者達だろう。三十人近い人間が集まってきた。


「なんだぁお前ら、見世物じゃねーぞ! 帰れ! 帰れ!」


「組合長、そう言うなよ。久しぶりの楽しみな新人だ。ゴルガスがぼろくそにやられたんだろ? これは見なきゃ損てやつだ」


 ああ、あいつの名前ゴルガスだ! 喉に刺さった小骨が取れたような気分。

 まーでも、覚える必要ないか。


「まったく……。お前ら二人はいいのか? いやなら追い出すが、自分の力を見せたくないやつらもいるからな」


「別に隠す事なんてはないわ。ね、コウスケ」


 これはどうなんだ? 正直、俺としてはどっちでもいい。ロノアが隠す必要がないというなら別にいいだろう。

 流石にこの場でやりすぎるって事もないだろうしな。

 それに、ある程度俺たち、というかロノアの力を見せつけた方が良い気がする。あの男、ゴ……みたいなやつが、今後出る事を抑制することもできそうだしな。

 そう思い、俺はロノアの言葉に頷く。


「で、実戦てどうすればいいの? あなたを倒せば中級インネになれる? それとも、立てない位に叩きのめせば良いのかしら?」


 前言撤回、この元女神なんも分かってないわ。何も言わなかったらトーラスの事さっくり半殺すわ。


「ほぉ、俺を叩きのめす? 嬢ちゃん、面白い事言うなぁ」


 ほらぁ、トーラスもなんかこめかみに交差点作ってるじゃん! ビキビキしちゃってるじゃん!

 無邪気で無自覚な挑発やめなさい!

 こういう所なんだよなぁ、ロノアの常識の無さが出るの。

 あと、あれよ、自分の強さとかそういうのを基本隠す気がない。

 今の言葉は冗談でも挑発でもなく、ロノアとしてはまじに確認してるだけというね。

 今は良いけど、今後絶対なんかトラブル起こすなぁ。取り返しの付かない事にならないといいなぁ。


「ああ、ロノアさん、ちょっといいかな」


「ん? 何?」


 そう言って手招きする。こちらに来たロノアの肩を抱き顔を寄せる。

 このままでは確実にやりすぎる。下手したら悪気は一切無しに、秒で組合長殺しちゃうかもしれない。

 だからはっきり教えてあげよう、こういうのは本人は気がつかないものなのだ。


「えっとね、やる気になってるところ悪いんだけど、……馬鹿なの?」


「馬鹿ってなによ! コウスケもいちいちランク上げるのめんどくさいなって言ってたじゃない!」


「うん、そうだね。でもね、トーラス叩きのめしちゃダメ。できれば怪我もさせちゃだめ」


 まぁ、怪我くらいはいいかもしれんが、それを許可しちゃうと、なんかトーラスの腕とか足とか無くなりそうだし。


「え? 面倒臭い事言うわね」


「ほう、女神のロノアさんでも面倒な感じなのかぁ。そうか、まぁ、無理なら別にいいけど」


 そう言ってロノアを開放する。

 その時に、殊更残念そうに深い溜息を吐く事を忘れない。

 そして、余韻を残しつつ「そうかそうか」とコクコクと頷く。


「で、出来るわよ! 私を誰だと思ってるの?」


 俺の事、ロノア操縦士と呼んでくれていいと思うよ。

 なんでかわからんが、このちんちくりん女神は、自分は何でもできると思ってる。

 まぁ実際、女神なだけあってなんでもできるんだが、うまく誘導してあげないとやりすぎる。

 だから、最後まで甘い顔はしない。ロノアのその言葉に、「ほんとにぃ?」的な眼差しを向ける。


「見てなさいよ!」


 ロノアはそう言って、練習場の真ん中に移動したトーラスと向かい合うのだった。

次の更新は土曜日の予定です。

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