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守章 討伐・冒険者所属試験 第一話

 昨夜は俺の希望通り、ケモミミ娘の居る酒場で夕飯を取った。

 酒場の名は『宵の灯亭』というらしく、夜飯を食べに行った時にはすでに九割の席が埋まるほどの盛況ぶりだった。

 「酒場」「ロノア」この二つのワードが揃うと、何が起こるかなどサルでも分かるので、ロノアには深いフードの付いた服にして貰った。

 ロノアからは、「可愛くない!」「前が見えない!」「肉だ! 肉が私を呼んでいる!」などの抗議があったが無視。


 俺は店員のケモミミ娘、名をミュリアちゃんに癒されながらおいしい夕飯を食べた。最高だった。揺れるシッポ見てるだけでご飯三杯はいける。米ないけど。

 そして今日は、昨日受付用紙を出した『討伐・冒険者組合』所属試験である。

 隣を見ればすでにロノアは起きているらしく、ぐちゃぐちゃになったベットはすでにもぬけの空だった。

 おかしい、昨日は綺麗にしていたのに、高級宿効果は一日しか持たなかったのか。


 昨日受付用紙を提出した後、メガネの受付嬢に明日の朝に来てくれと言われた。

 昨日は、試験管を務める者が居なかったらしく、明日の朝ならという事で今日になった。

 応接室に行くと、すでにロノアは姫騎士スタイルになっており、やる気十分と言ったところだった。

 俺もロノアに貰ったローブ姿に着替え、部屋を出ると宿の一階で朝食を取り、その足でロノアと『討伐・冒険者組合』へ向かう事にした。

 残念な事に、『宵の灯亭』は朝は営業していないそうだ。ああ、ミュリアちゃんに会いたい。


「とりあえず、中級インネにはなれそうね」


「そうかぁ? いや、ロノアはそうだろうけど、俺は無理だろ」


「何言ってるのよ。それこそ試験で上級ゾルダまで認めてくれるなら、余裕で行けるわよ。ていうか、実力見るなら一気に英雄級ハイラントくらいぽんとくれればいいのに、ケチね」


「いやぁ、ロノアさんは実力以外の部分で、それは無理なんでもないです」


 俺の言葉に拳を握るロノア。くそぉ、こいつ味を占めたな、それで俺が言う事を聞くと知られてしまったからな。

 痛いのイヤ! 暴力反対!

 おかしい、姫騎士と言うのは薄い本でくっころされる運命のはずなのに、何で強キャラなんだよ。運命の神様仕事して! ここに居る!


 そうこうしているうちに『討伐・冒険者組合』に到着する。

 スイングドアを開けて入ると、昨日とは違い大勢の冒険者と思しき人たちがひしめき合っていた。

 そして入った瞬間は少しうるさい程度に騒いでいた冒険者たちが、俺たちを、いや、ロノアに気が付くとしんと静まり返った。


 やっちまった。

 昨日の感覚で中に入ってしまった。ロノアに昨日の夜に着てもらったフード付きコートを被せるべきだった。もう遅いけど。

 気を取り直し組合員受付に進む。その周りでは、男たちが軽く口笛を吹いたり、好色な顔を隠しもせずにロノアへ向けてくる。

 勿論、値踏みする様に俺を見る事も忘れない。

 そして、とうとうお約束の展開が訪れてしまう。


「よう、兄ちゃん達、見ない顔だな。流れの冒険者か?」 


 そう言って、原人族の男が俺達の前に立ち塞がり、声を掛けてきた。

 二腕がロノアの腰ほどもありそうな、筋骨隆々と言う言葉が相応しい体格だ。

 年齢は三十を超えているだろうか、染みの浮き出た年季の入った革鎧を装備している。

 腰には手斧が二本、フェイスガードはあげているのだろうゴツゴツとした棘の付いた兜を付けている。

 そして、首には青色に光る金属タグ。

 昨日の説明で聞いたランク証だろう。青は確か、中級インネだったはずだ。


「いや、今日組合に入るつもりで試験を受けに来た」


「そっちの姉ちゃんもか?」


 そう言ってその男は、ロノアの全身嘗めるように見ている。

 そのような視線を受けているロノアは幸いな事に、「なんだろうか?」と言いたげな顔をしているだけで不快感は出していない。


「そうだ。俺たちはさっきも言ったがこれから試験なんだ。だから、邪魔しないでくれるか?」


「まぁまぁ、いいじゃねぇか。ちょっと話くらいよ」


 男はそう言うと、今度はニヤニヤとした顔を俺へ向けてくる。

 腹が立つ。出来る事なら、今すぐこいつをぶん殴って黙らせたい。

 だが俺では、力でこの男をどうにかできそうもない。しかも、周りも逃がさんとばかりに俺たちを包囲してくる。

 こうやって絡まれる事自体は。まぁ、ロノアと一緒にいれば、その内あるだろうなと予想していた。

 だが、いざ事が起こってみると、これは、想像以上に腹が立つもんだな。

 そもそも俺は、この手の人間が本当に嫌いだ。


 こういうやつは日本にも、学校大学地域どこにでもいた。

 自分の立場を利用し、平気で他者を傷つけたり迷惑を浴びせてくるものがいる。

 自覚無自覚は関係なく、自分より下と思っている人間に対して理不尽を押し付けてくる。

 そして、それが悪い事だと認識していないやつも多く、質が悪い。

 そうするのは自分たちの権利とでも思っている、ただの屑だ。



「こんなべっぴんな嬢ちゃん、そうそう見れるもんじゃねぇしよ」


 男はそういいながら、爪に垢の入った汚い手をロノアへ伸ばす。

 俺はとっさにその手首をつかみ、男を睨みつけた。

 力で敵う訳もないが、こんな男にロノアを触らせるのは我慢ならなかった。


「あ? 兄ちゃんなんのつも……」


 その時、バギリ! と鈍く重い音が鳴り響いた。

 少し太めの生木の枝を折ったような、そんな音が近いだろう。


「は……?」


「ほぇ?」


「ぐぁ! ああああああああああ!」


 それと同時に、俺が腕を掴んだ男が叫びだし膝が崩れ落ちる。

 そして、その男の急激な変わりように、周りでニヤニヤと気持ちの悪い顔を浮かべていた野次馬達も、何事かと顔色を変える。

 俺は自分の驚きの声と共に男の腕を離し、ロノアが何かしたのか? とそちらを見れば、彼女も目を丸くしてこちらを見ている。


「いったい、何が……」


 見れば男の手首はあらぬ方向へ曲がっており、誰が見てもわかるくらいにぽっきりと折れていた。

 わかっている。なにせ、男の手首を圧し折った感触が俺の手の中に残っている。

 そして、俺にはそんな力がない事がわかっているから、ロノアがなにかやったのかと彼女を見たが、表情を見るにどうやら違うらしい。

 てことは、これは、……俺がやったのか? いや、だけど、俺にこんな力は。

 まじで、何が起こったんだ……。


「なんの騒ぎだ!」


 そんな事を考えていると、騒然としている野次馬をかき分けて茶に白髪の混じった、身なりの良い男が現れた。

 そして、うずくまり涙を流している男と俺たちを交互に見て、なんとなく察したのか鼻から息を吐きだし声を投げてきた。


「お前たちは誰だ? ここの組合の者ではないな?」


「俺たちは今日、ここの所属試験を受けるように言われてきた」


「ああ、昨日受付に来たっていう二人組か。なるほど、話の通り綺麗なお嬢ちゃんだ」


 そう言ってその男はロノアを見る。

 その目は先ほどの男や野次馬たちと違い、顎に手を当て何やら面白いものでも見るような目つきだ。


「なんとなく事情は理解した。俺はここの組合長のトーラスだ、よろしくな。おい! 誰かゴルガスを医務室へほうり込んどけ!」


 トーラスと名乗ったその初老の男は、ここの組合長らしい。

 見た感じ元冒険者って所だろう。壮観な顔つきは、年齢以上に強者の風格を見せている。

 今の騒ぎを聞きつけて来たのだろうが、随分大物が出て来たなぁ。


 トーラスに言われ、野次馬をしていた男のうち何名かが慌ててゴルガスを運ぼうとしていたのだが。

 その男たちへ、ロノアが声を掛けた。


「待って、腕を見せてちょうだい。治してあげるわ」


「ん? 嬢ちゃん回復魔法でも使えるのか?」


「コウスケ、いいかしら?」


 ロノアは、声を掛けてきたトーラスを無視し俺に許可を求めてきた。

 俺は気を失っていて見てないが。以前ロノアは、ずたぼろで血まみれになった俺の腕を治したことがある。きっと、あの折れた腕も簡単に治せるのだろう。

 こういう事は放っておくかと思ったロノアだが、何故か治してあげようとしている。

 どうしてかは未だにわからないが、この男の腕を折ったのは俺らしいので、その尻拭いって感じだろうか。


 でも、元はと言えばこの男が、無遠慮に手を出してきたのが悪いんじゃん。

 非常に気に食わない。だってこいつのせいだし! 絡んでこなければこんな事になってないし! 等と子供じみた感情が湧き出てくる。

 だけど、じっと見つめてくるロノアの目を見たら、嫌だとも言えない。

 だから俺は、せめてもの抵抗として不機嫌な顔のまま頷く。


 頷いた俺にロノアはにこりと微笑み、男のそばにしゃがみ込むと、折れた手首に手を当てる。

 トーラスはそんなロノアの様子を、興味深そうに覗いている。


【癒しの雨をここに ≪生命のクラーティオ≫】


「なっ……」


 ロノアの手を当てた部分を中心に、青く淡い光が滲む。

 それと同時に、真っ青な顔をしていたゴルガスと言われた男の顔も落ち着いていく。

 そして俺の隣でその様子を見ていたトーラスは、手を口に当てなにやら驚いている様子だった。

 剣士風のロノアが魔法を使ったのがそんなに珍しいのだろうか。


「これでいいわね。もう大丈夫でしょ?」


「あ、ああ、すまねぇ、助かった」


「あなたが何をしたかったかわからないけど、コウスケを怒らせちゃだめよ?」


 ロノアのその優しく語り掛けるような言葉に、男はコクコクと何度も頷いた。

 そして、いちおうという事で医務室へと運ばれていった。

 トーラスはそれを眺めながら「いい薬になっただろう」などと言っていた。

 まぁなんか、しょっちゅうトラブル起こしそうなタイプだしな。これまでも、色々やらかしてきたんだろう。

 そして、トーラスは腰に手をあて軽く溜息を吐くとこちらを向く。


「それじゃ、そこの二人、こっちに来てくれ。試験、受けるんだろ?」


 そう言われた俺たちは目を合わせた後、トーラスに向かって頷いた。

投稿遅れました。

次回投稿は水曜日の予定。

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