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幕間I ザケタ村での話

 風に暖かさが混じり始めた頃、ザケタ村では綿花の種植えが始まった。

 俺たちは、村人たちが汗かき働いているのを畑の畦道から眺めている。

 今日は特別な畑の種植え作業らしく、俺たちは見学を言い渡されていた。

 横を見れば、膝に船を漕いでいるムルカちゃんを乗せたロノアが、機嫌よく鼻歌を奏でている。


「楽しそうだね」


「ん? そう? そうね、楽しいのかもしれないわ」


 ロノアはそう言って、種植えをしている村人達を眺め続ける。

 その顔は穏やかで、口元はやや緩んでいるよに見える。


「不思議なのよね。あっちに居る時は、こんな気分になったことはないのだけど」


「こんな気分?」


「この人たちは、ちゃんと生きている」


「……ああ、なるほど、そうだな」


 俺がロノアの言葉で思ったのは、天界にいる時は都市開発シミュレーションゲームをやっているのかもしれないという事だ。

 正確には違うだろうが、管理者としてアトリアータを見ている時と、こうして一人の人間としてこの地に居る人々の生活を肌で感じる事のギャプを感じているのではなかろうか。

 神としてそれはどうなの? と思わなくもないが、そういうものなのかもしれない。


「ロノアはさ、この世界の人々を愛おしいとか思ったりしないの?」


「愛おしい? うーん、そんな感情はないわね」


「そういうもの?」


「私はね。でも第一門のディアナちゃんとか第二門のアシエラ辺りは愛してるんじゃないかしら」


「人それぞれって事か、いや、神それぞれか」


 実際いちいち愛していたら、管理なんてできない気もする。

 長い間人々を見つめ続けている管理者たる神たちが、人ひとりひとり愛していたら大変だろう。

 第一第二の女神がどういった神なのかは知らないが、平気なんだろうか。


「でも、今はカルロ村長もムルカちゃんも好きよ」


 そんな事を言いながらロノアは、膝の上で完全に寝てしまったムルカちゃんの頭を撫でる。

 その光景は、妹の頭を愛おしそうに撫でている姉のように見える。


「もちろん、コウスケもね」


「ああ、そうですか」


「そうよ。なにせ『運命』の人だからね」


「なんじゃそりゃ」


 ロノアのその言葉に実際は動揺している俺だったが、表情には出さないように言葉を返す。

 時々だが、この女神はこういう事を平気で言うのだ。

 だからこそわかる事もある。

 きっと感情が子供なのだ。愛を知らない女神、そして無邪気で純真。


 強い言葉のパワーにその場は感情を揺さぶられるが、それがわかるので俺としては後を引かなくて済む。

 そもそもね。見た目超美少女に、好きだのなんだの言われれば男ならそうなるだろ、なるよな?

 たぶん、村に居る若い男たちだったら死んでるぞ。


「私、何十年でも待つつもりだったのよ」


「待つって、ガイアの前で?」


「そう、『英雄の資質』持ちなんてそうそう現れないもの。結構ばらつくのよね。死後すぐに天界に昇るわけじゃないから、全然来ないこともあれば、死後何十年もずれてる人たちが連続で来ることもあるし」


「え? そうなの? 俺の感覚では死後すぐって感じだったけど」


「実際は何十年も経ってるかもしれないわよ? 私では確かめようがないけど」


「まじかよ」


「でも、たった一日よ。私があそこで待ち始めてすぐに、コウスケが現れた」


 もしかしてこの女神、丸一日ビキニで待ってたんだろうか。

 絵図らとしてはだいぶ間抜けだ。

 いや、指パッチンあるしな、俺が女だったらまた別の恰好で出てきたのかもしれない。


「だからこれは、『運命』なのよ」


「運命ねぇ。ま、そういう事にしておきましょうか」


 運命か、もしそうなら俺が死んだことも含めてそうなのだろうか?

 それとも、俺が死んだことによって運命に導かれたのだろうか?

 それこそ神のみぞ知るってやつか、いや、ロノアを見る限り神さえも知らないのかもしれないな。

 何にせよ、俺は地球からアトリアータという異世界へ来ているわけで、確かにこれを運命などと言われればそうかもな、とも思ってしまう。


「なんか笑ってる?」


「ん? ああ、なんて言うか、面白い運命もあったもんだなと思ってさ」


「面白い?」


「死んだ俺が異世界でこうしてまた生きているなんて、普通に考えたらあり得ないからな」


 そのままガイアの門に行っていたらどうなったのだろう。

 何もかも忘れて生まれ変わっていたのかなぁ。

 それが普通なんだろうけど、そう思うとやっぱり異世界に来た今のこの状態は楽しいし良かったと思える。


「そうね。私だってこんなやばい事、普通はやらないわね」


「え? やばいって何が?」


「他の世界の住人を自分の世界に転移させるなんて事、バレたら絶対怒られるわ」


「あのぉロノアさん? それって俺も怒られてどうにかなったりしないよね?」


 そう言うとロノアは俺の方へ向き、目を合わせるとニコリとほほ笑んだ。


「おい、なんだその顔は、やめろ、せっかく今楽しいなーって感じになってたのに」


「大丈夫大丈夫、管理者になってから他の神に会う事なんてほとんどなかったし。管理はチェシャがうまく誤魔化してくれるわ。……たぶん」


「ああ、ちくちょう、これ絶対フラグだ。俺は知ってる。今後絶対何かあるやつだ」


 聞かなきゃよかった。いや、どっちにしろ結果は同じか。

 とりあえず即死系じゃなければいいなぁ。


「心配性ね。そんなんじゃ人生楽しくないわよ?」


「お前が言うな!」


「えーっと、さて、私はムルカちゃんを家で寝かしてくるわ」


「この……、ダメと言えない理由で逃げるな」


 バツが悪くなったのか、ロノアはそう言ってムルカちゃんをだっこする様に抱くと、そそくさと逃げるように去っていった。

 ある意味衝撃の事実を知った俺であるが、知ったところで何かできる訳もないので、この話がその後話題になる事はなかった。

 てか、ぶっちゃけ聞くのが怖かったのもある。

 俺はただただ何事も起こらないことを、名も知らぬ神に祈るのであった。

なんとなくタイトルを変更しました。

まだ(仮)な感じです。タイトル難しい。


次の更新は来週日曜になる予定です。

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