11話 針地獄と大罪人
どこまでも落ちていく。確実に死ぬ高さだ。
死んでも治るとは言っていたが、痛いのは嫌だ。
急に明るくなり、下が見えた。
水色の大小さまざまな水晶が地面から突き出ている。
ものすごく綺麗ではあるが……。
針地獄!!
その水晶は驚くほど鋭く、動いている。
圧倒的にヤバい!!
とっさに一緒に落ちているシロを掴み、抱きかかえる。
これで背中から落ちたら、シロだけでも助かるかもしれない。
だが、誰かに掴まれる。
誰に守ってもらっているのかも分からないまま、俺は落ちた―――。
衝撃で意識が飛びかけたが、死にはしなかったようだ。
シロは無事だ。俺を心配している。
だが、俺の腕には水晶が刺さっていた。
勢いで引き抜く。
激痛だ。
ゆっくりと治るが、戦闘中であれば致命的だっただろう。
とても、腕を使って剣を振れるような状況ではない。
下を確認すると、アリスが死んでいた。
俺を庇ってくれたのは、まさかのアリスだったのだ。
「じゃあ、アリスちゃんの復活を待って、総評を述べるよ」
月夜は何事も無かったかのように立っていた。
アリスは1分も経たずに意識を取り戻し、更に1分後には完治した。
「さて、シロちゃんとヨモ君についてだけど、ふざけているのかい?ヨモ君がこのパーティーの鍵なんだよ。ヨモ君は他を犠牲にしてでも助かろうとしないといけない。ここの近くに宮本武蔵がいたら、ヨモ君は斬られていたよ」
月夜が酷い事を言う。
「それは、俺に他の女の子を無理矢理下敷きにしてでも、生き残ろうとしろって言ってるのか?」
出来るだけ、凄みを聞かせて詰め寄る。
「その通りだ。そうしろと言っている」
俺の威嚇を意に介さず、淡々と続ける。
「その点、アリスちゃんは合格だよ。上司の命令に従って、好きでもない相手を守ったんだ。アリスちゃんはさっき地獄で初めて死んだんだ。生き返ると分かっていても、簡単に出来る事じゃないし、それに痛みが伴う事も容易に想像できただろう。さすが、軍人だ」
今度は月夜が俺に詰め寄る。
「神様とこの任務を成功させると契約したんだ。その事を忘れ無いでくれよ。銀波刀でやられたら、永遠に傷が残るんだ。生きていた頃みたいに、死んだら全部チャラ、みたいなそんな優しい世界じゃないんだよ」
ビビったわけではない。
だが、言葉が出なかった。
正論なのに、人の心を感じない。月夜が不気味だった。
「ごめんね。少し厳しい事を言ちゃったね。じゃあ、閻魔様の指示通り、シロちゃん先頭で進もうか」
シロが大人しく従う。
シロの後ろには俺が付いたが、そこである事に気付く。
シロの服には肩甲骨辺りにスリットが付いているのだ。そこから真っ白の肌がちらちらの覗いている。
ただの背中のはずなのだが、目のやり場に困る。
「ヨモ君」
「ひゃい」
急に耳元で声がして、変な声を出す。恐らく月夜は確信犯だ。
「シロちゃんに下心見抜かれたら、嫌われちゃうよ。童貞は背中でも興奮しちゃうんだね。気を付けて」
「見てねえよ!!」
こいつ、人の心でも覗けるのか?
「覗けるのは童貞の心だけなんだ」
「俺の心の声と会話すんな!!」
月夜には気を付けよう。俺の中の女心が、こいつはヤバいと告げている。
「ところで、なんでシロが先頭なの?危機察知能力が凄いとか?」
話題を変える。
「別にそこまで高くないよ。シロちゃんは閻魔様に嫌われてるからね。そういう事じゃないかな?」
そういう事ってあれか?
一番いなくなって困らないってやつか?
誰からも必要とされなかった就活時代の俺を思い出す。
「月夜、こういうの得意だろ?先頭歩いてくれないか?」
シロを盾にはしたくない。
月夜は相当強いらしい。月夜なら大丈夫だろう。
決して、月夜なら斬られてもいいというわけではない。
誰もいなくなって欲しくないからの決断だ。
「うーん。いいよ。でも、ヨモ君がちゃんと守ってね」
そう言って、月夜が先頭を歩くことになった。
その5分後だった。
水晶の裏で何かが動いた気がした。
普段の俺なら何も分からない。
記憶の世界で百戦錬磨していたおかげだろうか。
嫌な気配を感じた。
とっさに月夜を見る。
!!
この女!!
ふざけやがって!!
月夜を掴んで、後ろに飛ぶ。
その瞬間、水晶ごと切り払った刃の先端が、目の前を通り過ぎた。
水晶は真っ直ぐに切断されていた。
だが、そんなことより、月夜だ。
こいつは敵の存在に気付いていた。
気付いていて、避けなかったのだ。
俺が何もしなければ、確実に斬られていた。
俺はブチギレている。
だが、それと同じぐらい恐怖も感じている。
「そんなに怒らないでおくれ。ヨモ君なら約束通り守ってくれると信じていたよ」
月夜はしれっと言う。
その賭けに何の意味も無い。
俺が守るか確かめる為に、永遠の痛みを賭けたのだ。
狂っている。
何も考えないようにしていた。
何の罪を犯して『大罪人』と呼ばれているのか。
これが大罪人。
月夜は強い。だが、いつかこのパーティを壊すかもしれない。
そんな諸刃の剣だと、理解した。




