95 天使様と勉強会
短め。
「お邪魔しまーす」
テスト前の土曜日、約束通りにやってきた樹、千歳、門脇の三人は十時頃にやってきて、声を揃えて玄関から廊下にあがった。
彼らは中学も同じ学区という事で待ち合わせてきたようだ。そもそも門脇が周の家を知らないからであるが、単純に仲がいいからという理由も大きいだろう。
「ん、いらっしゃい」
「まひるんは?」
「キッチンで昼ご飯の仕込みしてる」
真昼は先に周の家に来て昼食の仕込みをしている。真昼は急いだ勉強を必要としていないらしく、おもてなしの方を優先していた。
ちなみに、本日はローストビーフを作るそうだ。作って寝かせておけばお昼にはほどよい柔らかさのものが食べられるだろう。
「……すっかり馴染んでしまって……」
「うるせえ」
「最早同僚を歓迎する新妻感あるよね」
「それ以上言うと昼飯抜くぞ」
「やだー! まひるんのご飯食べるー!」
変な事言いやがって、と悪態づきつつ門脇を見ると、門脇は少し呆気に取られたように周を見ている。
「どうかしたか?」
「……いや、ナチュラルに椎名さんは藤宮の家に居るんだな、と」
「……仕方ないだろ、いつも飯作ってもらってるし」
ぷい、とそっぽを向けば樹が口許を抑えながらにまにましていて、それが母親の笑みを連想させてイラッとしたので軽く脛を蹴っておいた。
「いらっしゃいませ、皆さん……あら、赤澤さんはどうしたんですか?」
「気にすんな」
真昼にとっては謎の笑みを浮かべているであろう樹を心配したらしいのだが、これは心配の必要は全くないので気にしないでほしかった。
不思議そうにしつつも気にする事はないと判断したらしい真昼が、いつもの微笑みを浮かべて「私はもう少し用意がありますから先にリビングにどうぞ」とエプロンを翻してキッチンに戻っていく。
その後ろ姿を眺めて、樹は「やっぱ溢れる新妻感」と呟く。とりあえず今度は背中をはたいておいた。
「じゃあ勉強しましょうか」
食事の仕込みを終えてお茶を出した真昼が周の隣に座る。何故周の隣かと言えば、残る三人の陰謀である。
「はーい」
「ええと、千歳さんはどこが分からないのですか。数学でしたよね?」
「ぜんぶ」
「ぜ、全部……」
「ちぃは数学全般的に苦手だから。ギリ赤点は回避してる」
別に勉強は出来なくはないが出来るとも言えないくらいの千歳だが、数学はかなり苦手らしく、赤点神回避を毎回披露している。
全部という単語に真昼は頬をかすかにひきつらせているが、実際出来ていないのだから仕方ない。基礎はある程度出来ているのが幸いだろう。
「基本こいつは応用問題が苦手だから、応用問題にどう公式を当てはめていくかの考え方を教えてやる方がいいぞ」
「公式は大丈夫なのですか?」
「……大丈夫だよな?」
「たぶん」
大丈夫でないような気がするので、真昼にはそこから頑張ってもらいたい。彼女は頭が悪いというより、使い方が分からないからとけない、といった方が正しいので、そこさえ理解すればそれなりに点数は取れる筈なのだ。
「樹はとりあえずやる気を出す所からだな」
「はっはっは」
「笑って済ませようとすんな勉強しろ」
何のために勉強会を開いたと思っているのだろうか。
「優太ぁー周がきびしいー」
「樹はそろそろ真面目にしような」
爽やかな微笑みで救いを拒絶されたので、樹はがっくりと肩を落としている。
門脇の方は真面目に教科書とノートを開いて勉強を始めているので、樹と千歳には彼を見習ってほしい。
ちなみに門脇にはこれといった不得意科目はないそうで、平均以上に何でも出来る優秀な男である。
周も苦手な科目は特にないので、あとは暗記と応用力を磨くだけだった。
千歳の家庭教師は真昼に任せて、周は自分のために用意してあった世界史の教科書に視線を落とした。
昨日はたくさんのお祝いのコメントありがとうございました、とても励みになっております!
キャラデザも可愛くてたまらないので公開を楽しみにしていただければなあと思います!